
ライターI(以下I):昭和38年に『花の生涯』から始まったNHK大河ドラマは『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』で64作目になります。その長い歴史の中で、城桧吏さん演じる徳川家斉の登場で、15人の将軍が全員大河ドラマに登場したことになります。
A:ついに、「徳川将軍コンプリート」というこの日がきたんですね。前回第32回の将軍家斉の登場シーンは、その慶事を意識しているかのように、厳かな雰囲気を漂わせる印象でした。当欄では、ずいぶん早くから「壮挙」であると報じてきたのですが、改めて4月27日に配信した記事(https://serai.jp/hobby/1227362)を振り返りたいと思います。
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(以下、記事再掲)
ライターI(以下I):さて、放送前の段階で予告していましたが(https://serai.jp/hobby/1213215)、『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』後半戦のトピックスのひとつが、大河ドラマ64作の歴史を経て、ついに大河ドラマ内で江戸幕府徳川将軍の15人が勢揃いすることです。
編集者A(以下A):壮挙といっていいと思います。ついにこの日がやってきました。具体的にいうと、『べらぼう』が開始されるまで、大河ドラマには、第10代将軍徳川家治と第11代将軍徳川家斉が未登場でした。厳密には、徳川家治は『八代将軍吉宗』に子役として登場していますが、将軍となってからの登場は今回が初めてになります。
I:将軍家治を演じる眞島秀和さんが家治の肖像画にクリソツなのもうれしい流れでした。家治の登場で、残りは第11代将軍家斉のみとなっていました。
A:徳川家斉といえば、子女を50人以上もうけ、俗に「オットセイ将軍」とも呼称される存在です。15歳で将軍に就任したあとに63歳で家慶に将軍職を譲って大御所になるまで半世紀以上も江戸城に君臨していました。
大河ドラマと徳川将軍の歴史
A:さて、それでは簡単にですが、大河ドラマと徳川将軍について振り返りたいと思います。初代の家康は、なんと将軍になる前の登場を含めて大河ドラマ24作で登場しています。3年に一度は必ず登場するキャラクターということですね。『徳川家康』で滝田栄さん、『葵 徳川三代』津川雅彦さん、『どうする家康』で松本潤さんが演じています。この3作品は家康が主人公の作品になります。ちなみに私が初めて大河ドラマで家康を見たのが『おんな太閤記』のフランキー堺さんです。
I:そのほか家康は、丹波哲郎さん、松方弘樹さん、内野聖陽さんほか錚々たる面々が演じています。なんといっても24作ですからね。
A:第2代秀忠は『徳川家康』『独眼竜政宗』で勝野洋さん、『春日局』で中村雅俊さん、『葵 徳川三代』では西田敏行さんが演じています。大河ドラマ14作に登場しています。
I:私にとって印象的だったのは『真田丸』の星野源さんですかね。『江 姫たちの戦国』では、向井理さんも演じていました。
『八代将軍吉宗』には5人の将軍が登場
I:さて、第3代将軍家光ですが、『春日局』で江口洋介さん、『葵 徳川三代』では尾上辰之助(現4代目尾上松緑)さんが演じているのですが、幼児時代を本木雅弘さんの息子である内田雅楽さん、少年時代を山田孝之さんらが演じています。
A:歴代将軍の中でいささか影の薄い第4代家綱は2作品に登場しています。1970年の『樅ノ木は残った』では田村亮さんが演じています。『元禄繚乱』で演じた堀内正美さんは1982年の『峠の群像』では第6代将軍家宣で登場しています。
I:第5代将軍綱吉は、忠臣蔵を扱った大河ドラマには欠かせない将軍です。『峠の群像』で竹脇無我さん、『八代将軍吉宗』で津川雅彦さん。『元禄繚乱』では萩原健一さんなどが演じています。
A:第6代将軍家宣は、『元禄太平記』で木村功さん、『八代将軍吉宗』で細川俊之さんが演じています。この細川俊之さんの家宣は印象深かったですね。そして、家宣の急死で第7代将軍になったのが4歳の家継。『八代将軍吉宗』では「四歳の将軍」というタイトルの回がもうけられました。演じたのは中村梅枝さん。いまの6代目中村時蔵さんですね。
I:『べらぼう』で長谷川平蔵を演じている中村隼人さんの従兄弟なんですよね。もう30年前になるんですね。
A:将軍家継の登場回はレア回でしょうね。間部詮房役の石坂浩二さんも将軍家継の側用人として登場します。
I:そして、秀忠~家光から連なる将軍家が家継の死によって断絶します。
A:正確にいえば、家宣の弟の清武が生存だったのですが、すでに他家に養子に出ていたために御三家に将軍職が移ることになります。ちなみに、この松平清武の「家」の三代目が『べらぼう』で石坂浩二さんが演じている松平武元になります。
I:そういう流れで、第8代将軍吉宗は大河ドラマ初登場にして主役の座を射止めての登場でした。1995年当時、吉宗といえば、松平健さん演じる『暴れん坊将軍』のイメージが強く、西田敏行さん演じる吉宗大丈夫? とも思われたのですが、杞憂に終わりました。ジェームス三木さんの好脚本もあって、絶大な人気を博したんですよね。
A:そうです。第9代将軍家重も『八代将軍吉宗』が初登場だったのですが、中村梅雀さんの熱演が話題になりました。本作の将軍家重は、まさに大河史に刻まれるキャラクターになったのです。
そして、『べらぼう』に未登場の将軍が!
I:そして、『べらぼう』では、これまで大河ドラマに登場したことのない第10代将軍家治が1回目から登場しました。同じことを何度もいいますが、演じる眞島秀和さんが家治の肖像画にそっくりなのが気になってしょうがありません(笑)。
A:そして、第11代の家斉が未登場なのですが、第12代家慶以降は、「幕末史」に突入したということで、けっこう登場してきます。家慶は『徳川慶喜』で鈴木瑞穂さん、『篤姫』で斉木しげるさんが演じましたが、『青天を衝け』では、演歌の大御所吉幾三さんが演じました。第13代家定は「病弱」というのが定説なのですが、実はそれは演技だったという解釈を採用したのが『篤姫』。堺雅人さん演じる家定は斬新でした。『西郷どん』では又吉直樹さんが演じました。
I:第14代家茂は、『篤姫』で松田翔太さん、『龍馬伝』では中村隼人さん、『青天を衝け』で磯村勇斗さんが演じています。『べらぼう』で長谷川平蔵を演じる中村隼人さんの「家茂将軍」が見たい方はNHKオンデマンドでどうぞ。
A:そして、第15代将軍慶喜です。1974年の『勝海舟』では津川雅彦さんが演じていますが、津川さんは、家康、綱吉、慶喜と3人の将軍を演じていることになります。そして、大河の主役を張った3人目の将軍が『徳川慶喜』で演じたのは本木雅弘さん。最近では2020年の『麒麟がくる』の斎藤道三が思い出されます。
I:『青天を衝け』の草彅剛さんの慶喜も印象深かったですね。
A:(気を取り直して)15代勢揃いのついでに言及すると、2021年の『青天を衝け』には、「十六代様」と呼称された徳川家達公(演・三谷昌登)も登場しているのです。なんだかやっぱり「徳川」って凄い!
家斉の登場回はいつになるのか?
I:さて、そんなわけで、第11代将軍家斉の登場で大河ドラマ64年の歴史の中で、徳川将軍が勢揃いする瞬間を迎えるわけです。
A:なんだか感慨深いですね。歴史の積み重ねですね(しみじみ)。私はこれを壮挙だと感じているのですが、特番とかやらないんですかね。
I:そういうと思って問い合わせをしてみました。いまのところ特番の予定はないそうです。
A:えー。そうなんですか! まあ、主人公は蔦重(演・横浜流星)ですからしょうがないですかね。
I:まあまあ、当欄だけでも「大河ドラマ徳川将軍コンプリート回」を盛り上げていきましょうよ。(以下略)
(再掲終わり)
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I:これが4月の記事だったのですが、世情は意外なほどに冷静に「徳川将軍コンプリート」を迎えたようですね。
A:われわれが、いささか先走ってしまったかもしれませんね(笑)。とはいえ、これまであまり知られていなかった徳川家治、徳川家斉、さらには家斉の実父である一橋治済に注目が集まるのは、やはり壮挙といっていいでしょう。
I:大奥を扱うドラマなどにはわりと頻繁に家治、家斉が登場していましたが、やっぱり大河ドラマに登場となると注目度が違いますものね。
A:家斉というと、15歳で将軍に就任してから50年将軍職についていました。15将軍の中で最長です。息子の家慶に将軍職を譲ったときに家慶はすでに45歳。なんだかんだいって50年以上権力の座に居座るというのは尋常ではないですね。家斉が将軍に就いてからは、ロシア帝国のレザノフ、ラクスマンらとの交渉、フェートン号事件など、「鎖国政策」が揺らいでいた時期ですが、真摯に向き合った形跡はみられません。
I:有名なモリソン号事件は、家斉から家慶への代替わりの年ですね。家斉といえば、政治との向き合い方よりもむしろ、26男27女、計53人もの子女をもうけたことが有名です。第1子の淑姫(ひでひめ)は寛政元年(1789)生まれ。53番目の末子で27女の泰姫は文政10年(1827)生まれですから、子作りに励んだのは38年間になります。これだけたくさんの子をなしながら、53人の子どものうちなんと40人が20歳未満で亡くなっています。そのうち33人は10歳未満です。
A:政治の停滞と子だくさんになにか関連性があるのでしょうか。次週、考察したいと思います。
I:え? そんなことに相関関係があるのですか? 子だくさんの話だけでいいのではないですか!?
●編集者A:書籍編集者。『べらぼう』をより楽しく視聴するためにドラマの内容から時代背景などまで網羅した『初めての大河ドラマ~べらぼう~蔦重栄華乃夢噺 歴史おもしろBOOK』などを編集。同書には、『娼妃地理記』、「辞闘戦新根(ことばたたかいあたらいいのね)」も掲載。「とんだ茶釜」「大木の切り口太いの根」「鯛の味噌吸」のキャラクターも掲載。
●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。猫が好きで、猫の浮世絵や猫神様のお札などを集めている。江戸時代創業の老舗和菓子屋などを巡り歩く。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり
