反松平定信派が蠢き始める

I:そうした中で、江戸城内部からも松平定信の施政に対する反感が出てきます。身内からも批判されるのですからたまらないですね。
A:将軍家斉(演・城桧吏)実父の一橋治済(演・生田斗真)、御三家尾張藩主徳川宗睦(演・榎木孝明)など、周辺では権力闘争とおぼしき動きも散見されます。幕閣らも「将軍補佐」という松平定信のお役について、将軍家斉が成人しているのだから、将軍補佐という役職は必要ないのでは、という意見が出る始末です。
I:家斉にもどんどん子供がもうけられている様子も描かれました。最終的に53人ですからね……。しかし、権力闘争っていうのは、ほんとうに嫌ですよね。御三家も御三卿もみんな仲良くすればいいのにって、いつも思うのですが、そういうわけにはいかないんでしょうね。
A:本多忠籌(演・矢島健一)の「人は『正しく生きたい』とは思わぬのでございます。『楽しく生きたい』のでございます」っていう第39回での台詞がやけに耳に残ってるんですよね。蔦重やその周辺が、「浮かれて華やいだ江戸を」復活させたいと願う気持ちもわかるのですが、いったん反対方向に動き出した「マインド」はなかなか元には戻りません。
I:ここから幕末まで、歴史はどう動いていくのか。そして、その動きを『べらぼう』ではどう描いてくれるのか……。
A:きっと歴史に刻まれる展開になると期待しながら、ここからはやや厳しめの視線をもって見つめていきたいですね。

市井の女性を描いて人気沸騰
I:さて、蔦重(演・横浜流星)です。物語序盤では、吉原の花魁、女郎の日常を描いた作品などで一世を風靡しましたが、市井の普通の女性を描くという新たな鉱脈を発掘しました。庶民の文化がここまで成熟するとは、鎌倉時代や室町時代には考えられなかったことです。「ポッピンを吹く娘」などは、市松模様の大振袖を身にまとい、流行の最先端を表現しています。
A:多くの人々が熱狂したのもうなずけますね。昭和にもプロマイド人気があったそうですが、そういう変遷も歴史の流れに沿って概観すると感慨深いですね。
I:令和の世から未来にかけて、どんな流行がやってくるのか。なんだか楽しみですね。

●編集者A:書籍編集者。『べらぼう』をより楽しく視聴するためにドラマの内容から時代背景などまで網羅した『初めての大河ドラマ~べらぼう~蔦重栄華乃夢噺 歴史おもしろBOOK』などを編集。同書には、『娼妃地理記』、「辞闘戦新根(ことばたたかいあたらいいのね)」も掲載。「とんだ茶釜」「大木の切り口太いの根」「鯛の味噌吸」のキャラクターも掲載。
●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。猫が好きで、猫の浮世絵や猫神様のお札などを集めている。江戸時代創業の老舗和菓子屋などを巡り歩く。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり










