ライターI(以下I):『光る君へ』第43回は前週から数年経過した場面が描かれました。道長(演・柄本佑)次女で三条天皇(演・木村達成)に入内した中宮姸子(演・倉沢杏菜)が出産したことに触れられました。
編集者A(以下A):さらりとした感じでしたが、生まれたのは後に禎子内親王となる皇女。特筆すべきは、皇子の誕生ではなかったことで、道長が露骨に不快感を露わにしたと伝えられていることです。出典は例によって、藤原実資(演・秋山竜次)の日記『小右記』(長和2年7月7日条)。実資はまず、「〈中宮の御産、平安かに遂げ給ふ〉と云々」と記し、自らの養子資平(演・篠田諒)から聞いた話であることを明記したうえで、「〈相府(道長のこと)【中略】悦ばざる気色、甚だ露はなり〉と。女を産ましめ給ふに依るか」と記しています。
I:道長にとっては皇子誕生で、三条天皇との絆を深めたいと思ったのではないでしょうか。ただ、悦んでいないというのは、あくまで実資らの見立てであることには留意したいですね。『栄花物語』には「皇女でもいいじゃないか」という風だったと書かれていますし、頻繫に誕生したばかりの皇女のもとを訪ねる「じじばか」ぶりを発揮していたそうですから(笑)。
A:前週に50歳を過ぎてからもうけた千古を可愛がる姿が描かれた実資ですが、平安貴族らにとっても生まれてきた子は可愛くてしょうがなかったんでしょうね。
なぜ内裏の火事は頻発したのか?
I:内裏の火災が続き、三条天皇が皇太后彰子(演・見上愛)の在所だった枇杷殿に移り、皇太后彰子は弟頼通(演・渡邊圭祐)の住まいに仮偶することになりました。そこで、藤原頼通、敦康親王(演・片岡千之助)が皇太后彰子を囲んでいます。
A:「火事と喧嘩は江戸の花」とよく言いますが、平安時代には内裏の火災が頻発していますよね。一条天皇(演・塩野瑛久)の時代には幾度も火災に見舞われていますし、三条天皇も2年連続でした。
I:いったいどういうことなんでしょう。単純な失火なのか、それとも意図的に火をつけられたのか。
A:それがよくわかっていないんですよね。仮に火をつけられたとしたらなかなかに物騒ですし、失火だとしても「なんで?」という感じはします。さて、今週は、敦康親王が妻を娶ったことを報告していました。お相手は、頼通正妻の隆姫女王(演・田中日奈子)の妹祇子女王(演・稲川美紅)。隆姫女王と祇子女王の父親具平(ともひら)親王は第62代村上天皇の第七皇子で、第63代冷泉天皇、第64代円融天皇(演・坂東巳之助)の弟になります。
I:つまり、隆姫女王と祇子女王は村上天皇の孫ということになりますね。
A:具平親王は当代きっての文化人として知られ、まひろ(演・吉高由里子)の父藤原為時(演・岸谷五朗)とも深く交流していたそうです。『光る君へ』の尺がもう少し長ければ、具平親王と為時の交流も描かれたかもしれません。そうなると当然まひろとも絡んできたでしょうし、なんだかそういう場面も見たかったなぁとも思ったりします。
I:道長の息子と敦康親王がともに具平親王の娘を娶るぐらいですから、具平親王もひとかどの人物だったんでしょうね。
【実資と道長の政治問答。次ページに続きます】