伊周の復権画策と左大臣の危機。安倍晴明の死でどうなる道長政権？【光る君へ 満喫リポート】32

ライターＩ（以下Ｉ）：『光る君へ』では、まひろ（演・吉高由里子）がいよいよ『源氏物語』の執筆を開始しました。時あたかも一条天皇（演・塩野瑛久）と亡き皇后定子（演・高畑充希）との間に生まれた脩子内親王（演・井上明香里）が裳着の儀を執り行なうタイミングです。脩子内親王はこのとき８歳。朝堂では、伯父の藤原伊周（演・三浦翔平）の席次でひと悶着ありました。伊周が「席を譲られたい」と言っていました。いったい何があったのか、「ん？」と思った方も多かったのではないでしょうか。

編集者Ａ（以下Ａ）： 伊周は、自身が失脚する原因となった長徳の変が起こる前までは内大臣。当時は権大納言に過ぎなかった道長（演・柄本佑）より上位でした。それが今や道長は左大臣として公卿のトップを務め、一方の伊周は官職がないまま。そのため伊周からみれば姪にあたる脩子内親王の儀式にあたって、「大臣の下、大納言の上に列するように」と、特別に伊周の席を設けてくれ、という一条天皇の宣旨が発せられたというわけです。

Ｉ：弟の隆家（演・竜星涼）がいち早く権中納言に復帰していたのとはあまりにも対照的ですね。

Ａ：伊周の復権を道長が妨害していたという側面もあるでしょうが、内大臣だった伊周が復せる大臣には空きがありませんでした。そうした中で、一条天皇が｢伊周復権｣を画策したともいえるでしょう。当時完全に道長の権勢が凌駕していたと思われがちですが、まだまだ逆転の芽はあったということでしょう。劇中ではそういう事情をわかりやすく描いていたということになります。

Ｉ：長徳の変で花山法皇（演・本郷奏多）に矢を放ったのは隆家なのですが、その隆家が先に復権しているのは不思議ですよね。

Ａ：以前にも言及しましたが、隆家と道長は裏でつながっていたのではないかとも思えますよね。さて、その伊周が漢詩の会に招かれて、詠じた詩が紹介されました。

春帰りて駐まらず  禁え難きを惜しみ
花落つること 粉粉として 雲路深し
地に委ねて 正に景にしたがいて去るに応じ
風に任すは すなわち是れ あとにおいて たずぬればなり……

という詩ですが、劇中では、伊周の声で口語訳が紹介されました。

春かえりて とどまらず耐えがたきを惜しみ
枝は花を落とし 峯は視界を遮るように聳え霞は色を失う
春の装いはもろくも崩れて、谷は静かに、鳥のさえずりも消える
年月は移ろい我が齢も次第にふけていく
残りの人生、天子の恩顧を思う気持ちばかりが募る

伊周には詩才があったようで、藤原実資（演・秋山竜次）は「一昨、左府の作文、外帥の詩、述懐有り。上下、涕泣す」（『小右記』寛弘二年四月二日条）と「外帥（伊周のこと）の詩に皆が涙した」というふうに絶賛しています。

Ｉ：公卿が絶賛するわけですから、道長にとってはまだまだ脅威の存在だったのかもしれないですね。さて、実資の話題になりましたので、劇中で描かれた「平安のコント」のような場面に触れたいと思います。

Ａ：藤原公任（演・町田啓太）が従二位に昇進し、藤原斉信（演・金田哲）と並んで、そこに正二位の実資が合流し、「じゅにい、じゅにい、しょうにい」と微笑ましいやりとりが交わされました。

Ｉ：従二位より正二位の方が上なんだぞ！　ということがわかりやすく伝えられました（笑）。実資役の秋山竜次さんは「キングオブコント」を制したわが国屈指のコント職人でもありますから、こういうシーンは嬉しかったりします。

A：同じ「キングオブコント」を制した東京03の角田晃広さんも昨年の『どうする家康』で松平家の家督に野心を見せた松平昌久役を好演していました。才ある人のユーティリティぶりに感嘆させられますよね。

【ついにまひろが出仕。次ページに続きます】