ライターI(以下I):『光る君へ』第39回では、一条天皇(演・塩野瑛久)と中宮彰子(演・見上愛)の間に第二皇子敦良親王が誕生しました。生あれば死あり。その一方で、藤原伊周(演・三浦翔平)と藤原惟規(演・高杉真宙)がこの世を去るという展開になりました。
編集者A(以下A):藤原伊周は、道長の兄道隆(演・井浦新)の嫡男で、道長(演・柄本佑)の甥にあたります。道隆存命時には8歳年長の道長より伊周の官位が上でした。
I:父道隆の死で、その地位が逆転した後も、道長と伊周はその地位をめぐって争い続けていたわけですよね。劇中では圧倒的に道長の方に分があったように描かれていますが、一条天皇が伊周を正二位にしたように、実際には、伯仲した関係だったのではないかと感じています。
A:そうした中で、伊周が亡くなります。最後の最後まで道長を呪詛の対象とする場面が描かれました。この場面に関して、次の東宮(皇太子)をどうするかという政治課題が貴族社会の俎上にあがっているタイミングだったところが、時代の闇を浮き彫りにしています。前週の道長側近の四納言(源俊賢、藤原公任、斉信、行成)らが、「順当ならば敦康親王」ということを話していた際に、道長がやおら、自身の孫である敦成親王こそ東宮にふさわしいと表明した場面を思い出してください。
I:その時、パイプオルガンの荘厳な、あたかも『ゴッドファーザー』の劇中であるかのような劇伴が流れました。
A:そう。一条天皇は伊周を正二位に昇進させるなど、明らかに敦康親王(演・片岡千之助)の後見者としてふさわしい地位を与えようと画策していました。敦成親王を東宮にしたい道長としては、伊周の存在は目の上のたんこぶ、いやそれ以上に、亡き者にしてしまいたい人物でした。
I:そうした背景を踏まえて、パイプオルガンの荘厳な調べを流したとなれば、「道長こそゴッドファーザー」という裏設定を明かしたことになりませんか? 決して自らの手は汚さずに、表向きは善人のように振舞う道長。これって、「本物の悪の所業」……。
A:そこまで言い切ってしまうのは極論ですが、パイプオルガンの調べ=裏設定について考察したいと思います。『光る君へ』で時代考証を担当しておられる倉本一宏先生には『藤原伊周・隆家:禍福は糾へる纏のごとし』(ミネルヴァ書房)という著書がありますが、伊周の死に関する記述が、意味深なのです。
I:どういうことですか?
A:同書では、一条天皇の次の皇位として居貞親王(後の三条天皇/演・木村達成)は決まっていて、その際に決まる次期東宮が敦康親王になるのか、敦成親王になるのか、水面下の動きが始まっているとして、次のように言及しています。「道長にとって、敦康の存在と一条自身の意向が障碍となることは、目に見えていた。当時の宮廷社会はなるべくなら敦康およびそれを細々と後見する伊周の存在自体を、念頭から外したい。できることなら無かったことにしたいと無意識のうちに考えていたのではあるまいか」――。
I:伊周は消されたということですか?
A:ドラマの前半では、道長の父兼家(演・段田安則)が、円融天皇(演・坂東巳之助)に毒を盛ったという設定でした。ということは、道長が何らかの策を講じて、伊周の死期を早めたのではないかという「裏設定」があるのではないかと思ってしまいます。
I:それで、パイプオルガン……。
【摂関政治と近親婚。次ページに続きます】