四納言か四人組か
I:今週の第43回はいろいろ胸に染み入る場面がありました。まずは、藤原行成(演・渡辺大知)が大宰府への赴任を道長に懇請する場面です。道長から離れたいのか、それとも台詞通りに大宰府で利益を得たいと思っているのか。
A:おそらく両方でしょう。行成は道長の意に添うように様々な場面で知識を駆使して尽くしてきましたが、疲れたのかもしれません。財を蓄えたいというのもこの時代の貴族のスタンダードな考えです。
I:四納言と称された道長最側近ですからね。
A:ところが道長は行成の要請をきかずに、隆家(演・竜星涼)に大宰府を任せます。歴史の面白さはこの時の人事が後に、「絶妙な人事」と称されることになることです。
I: まさにタイムリー、適材適所な人事になったんですよね?
A:はい。ところで、四納言という呼称も道長寄りの立ち位置からの呼称に過ぎません。アンチ道長の立場からは、中国文化大革命を扇動し、後に指弾されるようになった「四人組」のように見られていたかもしれません。
I:四納言の面々が、三条天皇譲位の空気を広めようと決します。まさに「四納言」ならぬ「四人組」の空気!
眼病を理由に譲位を迫られる三条天皇
I:もうひとつの気になった場面は、三条天皇と道長のやり取りです。三条天皇は「声が小さい」と道長に対して幾度も言い直させました。現代社会でもこういう嫌な上司がいるという話はよく耳にします。
A:今ならパワハラということになるのかもしれませんが、道長もよく耐えました。三条天皇が、この頃眼病を患ったのは事実で、道長が眼病を理由に譲位を迫ったのも事実。金液丹というわりと普及していた薬を服用した後に悪化したとも言われています。
I:三条天皇の母は、道長の同母姉の藤原超子。祖父の藤原兼家(道長の父/演・段田安則)から溺愛されたとも言われています。
A:兼家の長女超子が三条天皇の母で、次女詮子(演・吉田羊)は一条天皇の母。道長は詮子と親しかったということは三条天皇も承知でしょうから、最初から含むところがあったのかもしれません。
I:朝廷の権力闘争って苛烈だったんですね。
●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。「藤原一族の陰謀史」などが収録された『ビジュアル版 逆説の日本史2 古代編 下』などを編集。古代史大河ドラマを渇望する立場から『光る君へ』に伴走する。
●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2024年2月号の紫式部特集の取材・執筆も担当。お菓子の歴史にも詳しい。『光る君へ』の題字を手掛けている根本知さんの仮名文字教室に通っている。猫が好き。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり