満足げに月を眺める兼家(演・段田安則)。(C)NHK

ライターI(以下I):源倫子(演・黒木華)から仕事のあっせんを受けるために左大臣家を訪れていたまひろ(演・吉高由里子)が仕事を断り、帰ろうとして道長(演・柄本佑)とばったり出会ってしまったところで前週は終わっていました。

編集者A(以下A):道長と源倫子の住まいは、左大臣源雅信(演・益岡徹)の土御門第。まひろも参加していた女子会会場と同じですから、まひろにとっては勝手知ったるお屋敷なわけです。そこで道長とばったり出会ってしまうわけですから、何やら不思議な感覚に襲われたのだと思います。

I:顔を合せてしまって、嬉しいような、ばつが悪いような。去っていくまひろの耳に、「お父上(道長)のお帰りでございますよ」という声が聞こえてきて、それがとても切なく響いてきました。

兼家が決めた後継者は嫡男道隆

後継に指名されなかったことで激怒する道兼(演・玉置玲央)。(C)NHK

I:摂政藤原兼家(演・段田安則)が病のため、出家を決意しました。

A:兼家は藤原師輔の三男です。この系統が権勢をふるうようになったのは、師輔の娘安子が第62代村上天皇に入内して生まれた皇子が、第63代冷泉天皇、第64代円融天皇として即位したことをきっかけとしています。師輔の長男伊尹(これまさ)は摂政、太政大臣に。次男兼通も関白太政大臣に就任しました。

I:安子さんという方が村上天皇に寵愛されたことで、一家が権勢を得たということになるのですね。

A:そうです。村上天皇の天徳4年(960)には、師輔の息子たち伊尹、兼通、兼家、遠量(とおかず)、忠君(ただきみ)の5人が一度に叙位するという栄誉を得たそうです。しかも、その下にはさらに為光、公季などの弟も控えていました。

I:そういうことを考えると、上級貴族にとって娘は「家の興亡」を左右する重要な存在だったんですね。

A:兼家の父師輔からみれば、娘の安子が村上天皇の寵愛を受けて皇子を生んだおかげで、師輔は兄実頼よりも有利な立場になります。むろん、実頼とて手をこまねいていたわけではありません。実頼も村上天皇に娘の述子を入内させていましたが、出産の際に亡くなってしまうのです。

I:皇子を生めない。たったこれだけのことで、系譜上は嫡流である実頼と実頼の子弟(頼忠、公任、実資)は、師輔の子弟の後塵を拝することになっちゃうんですね。

A:そういう流れの中で、兼家が後継者に指名したのは嫡男の道隆(演・井浦新)でした。劇中で、それに激怒したのが道兼(演・玉置玲央)です。花山天皇(演・本郷奏多)を出家、退位させた「寛和の変」の実務を主導したのは、蔵人頭として花山天皇の側に仕えた道兼でした。それだけに今日の兼家一族に「栄華」をもたらしたのは自分であって、自分こそが兼家の後継者になるべきだという強烈な自負があったのでしょう。この道兼の不満は、『大鏡』にも書かれていることです。

I:にもかかわらず、父が後継指名したのは兄の道隆。寛和の変直後には、時が来たら厚遇することをにおわせておきながら、この仕打ち。よほど腹に据えかねたのか、道兼は父兼家に対して「とっとと死ね!」と捨て台詞を残して立ち去ります。

A:いくらなんでも父に対して「死ね」とは穏やかではないですが、兼家は最期を迎えます。病床で「嘆きつつひとり寝る夜の明くるまは いかに久しきものとかは知る」と口ずさんでいたのが印象的です。

I:妻妾の寧子(演・財前直見)が記した『蜻蛉日記』にある和歌で、百人一首にも採歌されている「一人寝のわびしさ」を歌ったものですね。その歌を臨終間際に口ずさむ。この場面に北の方の時姫(演・三石琴乃)がいなくて幸いでした。

A:劇中では寧子と呼称される「藤原道綱の母」。妾として夫を待つ身の辛さを『蜻蛉日記』に綴って、その日記は1000年経っても古典作品として読み継がれています。劇中で幾度も処遇について懇請していた息子の道綱(演・上地雄輔)も今後立身していくことになったのは、兼家が貴族社会の頂点に達したからにほかなりません。蛇足ですが、私が『蜻蛉日記』をかじっていたタイミングでヒット曲を連発していたのがテレサ・テン。そのため、「待つ身の女性」というキーワードで道綱母とテレサ・テンがオーバーラップするのですよ。

I:それは個人の感想というふうに受け止めますが、なんだかんだいって、生き馬の目を抜く貴族社会では、兼家は成功者のひとり。妾の息子とはいえ、道綱も兼家の息子ということで、立身していきます。劇中の道綱が最終的にどのような官職まで昇り詰めるのか。そしてその様がどのように描かれるのか。要注目ですね。

A:ところで、村上天皇の中宮だった藤原安子(兼家の姉)所生の円融天皇(演・坂東巳之助)は、兼家の娘詮子(演・吉田羊)との間に一条天皇(演・柊木陽太)をもうけます。つまり円融天皇と詮子は「いとこ婚」。一条天皇にはやがて道長の娘彰子(演・森田音初)が入内しますが、これも「いとこ婚」になります。一家の権勢を維持するためには、絶えず娘を入内させる必要がある。さすれば「近親婚」が続くことになります。

I:いろいろと無理あるスキームだったんですね。

怒る道兼を襲ったもうひとつの悲劇。次ページに続きます

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