怒る道兼を襲ったもうひとつの悲劇
I:さて、藤原道兼が父の後継から外された形になり、妻の繁子(演・山田キヌヲ)が道兼のもとを去ります。その理由がなんと「好いた殿御ができました」です。
A:この好いた殿御の正体がまた衝撃的なわけです。すでに劇中で登場している殿御なわけですが、ここではその名を伏せておきましょう。「そんなことありなの?」というびっくりな縁談とだけいっておきましょう。
I:今後その縁談が明かされるかもしれないですからね。まあ、でもこの時代って、わりと恋愛関係は自由ですし、家の継承に関しても長子優先とかなかったようですね。
A:昨年の『どうする家康』で政権の根本原理として朱子学を採用する場面がちらりと登場しました。「長子優先」はそこから浸透していくのではなかったでしょうか。
実資の再婚相手は帝の孫
I:藤原実資(演・秋山竜次)が後添えに婉子(つやこ)女王(演・真凛)を迎えました。婉子女王は花山天皇の女御だったのですが、帝が出家してしまったので、実資に嫁いだという形になるのですね。
A:婉子女王の父為平親王は村上天皇の第一皇子で、母も藤原師輔の娘安子(兼家の姉)です。本来であれば、村上天皇の後継候補なのですが、藤原一族の陰謀に巻き込まれ、後継候補から外されるわけです。
I:為平親王の妻が、醍醐天皇の皇子で源姓を与えられた源高明の娘ということがネックになったんですね。そのため、源高明が、藤原一族に煙たがられて、安和の変で失脚するという流れになるのですね。
A:なんだか複雑ですね。婉子女王は為平親王と源高明の娘との間に生まれた女王で、村上天皇の孫になります。
I:その女王に実資は、「17歳の伊周を蔵人頭(天皇の秘書課長的存在)にするのは異常」と愚痴ります。それに対して女王は、前妻の桐子(演・中島亜梨沙)同様に「日記にお書きになればよろしいでしょう」と応じていて、ほほえましいやりとりが展開されました。今回は、「明日の日記に書く」と言っていましたね。
A:実資の『小右記』は今後、道隆批判が増えていくんですよね。
淡路の鯛を食す場面
A:今週、印象深い場面がありました。道隆の屋敷で、道隆、道隆の妻貴子(演・板谷由夏)、嫡男伊周(演・三浦翔平)が食事をしている場面です。
I:淡路から送られた鯛を食べていましたね。その際に「淡路は下国ゆえ早く都に帰りたいのであろう」という発言がありました。
A:下国というのは律令で定められた国の階級で、下国は、和泉、伊賀、志摩、伊豆、飛騨、隠岐、壱岐、対馬、淡路の九か国です。下国だからと言って実入りが少ないかといえば必ずしもそうではなくて、淡路は志摩、若狭と並んで御食つ国と称され、朝廷の食糧供給国として名をはせていました。ここで、わざわざ、下国というフレーズが出たのは、後々為時の去就にかかわるからだと思われます。淡路と明石の間に横たわる明石海峡でとれる鯛や蛸などの海産物は今でも別格といわれる名物です。以前取材に行ったことがありますが、また行きたくなりますね。
I:「道隆の酒」といい「下国淡路」といい、物語の世界観をより吸収しやすくしていると思われる配慮が随所にちりばめられていますね。
A:ところで、斉信(演・金田哲)が首の後ろに扇をさしていましたね。
I:お坊さんがよく、両手が塞がっている時に、中啓という完全には閉じないタイプの扇を胸元にさしたり、斉信みたいに首の後ろにさしたりしていますよね。斉信のは中啓ではなく扇でしたが、袍を着ていると着物の衿(胸元)にさせないので、ああやって首の裏にさしたのだと思います。扇は貴族の必需品なのでいろんな持ち方があるのだと思いますが、絵巻物などを参考にして時代考証で再現しているんだと思います。
【紫式部と清少納言再び。次ページに続きます】