じれったいふたり。(C)NHK

ライターI(以下I):花山天皇(演・本郷奏多)が深く寵愛した藤原忯子(演・井上咲良)が亡くなってしまいました。劇中でも描かれましたが、花山天皇の嘆きは深かったようです。

編集者A(以下A):劇中では登場しませんが、花山天皇には、忯子のほかに、藤原姚子(ようこ/藤原兼家の兄兼通四男藤原朝光の娘)、藤原諟子(ただこ/関白藤原頼忠=演・橋爪淳の娘)、婉子女王(つやこ/村上天皇孫、為平親王の娘)の女御がいました。

I:『栄花物語』にはそれぞれの入内の経緯が書かれていますが、悲喜こもごもです。『光る君へ』では、円融天皇(演・坂東巳之助)に嫌われてしまった詮子(演・吉田羊)の苦悩についても描かれましたが、入内しても相性などの問題があったのか、すぐに里に戻される方もいたようで、なんだか不憫で……。

A:花山天皇に、娘の諟子を入内させている関白藤原頼忠は、本来であれば藤原北家嫡流なのですが、円融天皇と花山天皇に娘を入内させたにもかかわらず、いずれも皇子の誕生はなく、それだけのことで、権勢の座を兼家(演・段田安則)ら九条流に奪われることになります。

I:入内させる娘がいて、その娘が皇子を生んで外戚にならなければいけないというのは、つくづく不条理なスキームですよね。

忯子(演・井上咲良)の死でやる気を失った花山天皇(演・本郷奏多)。(C)NHK

国政のことを議論する陣定

I:さて、花山帝が藤原為時(演・岸谷五朗)に「足がだるい。さすれ」と命じました。それに対して為時は、「恐れながら、お上のお体に触れることは……」と固辞します。このやり取りを見て、昭和天皇が手術をされた昭和62年(1987)に「玉体に初めてメスが入った」という議論があったことを思い出しました。

A:昭和62年というと劇中の場面からほぼ1000年後の出来事になりますね。さて、花山帝の側近である藤原義懐(演・高橋光臣)が、女御忯子に皇后の位を授けることを陣定(じんのさだめ)に諮るということで、陣定の様子が描かれました。ざっくりいうと現代の「閣議」のようなもので、国政について議論する場でしょうか。

I:この時の陣定では、藤原時光(兼家兄の兼通次男)、源伊陟(これただ/醍醐天皇孫)、藤原佐理(すけまさ/公任の従兄弟)、大江斉光、源忠清(醍醐天皇の孫)、藤原顕光(兼家兄の兼通嫡男/演・宮川一朗太)、藤原文範(藤原北家長良流)、藤原朝光(兼家兄の兼通四男)、さらには兼家、兼家の弟で忯子の父である為光も出席していました。大江斉光を除けば、藤原北家と醍醐源氏が独占しています。

A:興味深いのは、兼家の兄兼通の息子が3人名を連ねていること。この段階では兼家の3人の息子(道隆、道兼、道長)はまだ陣定に参加するほど出世していません。今後の展開で注目したいのは、ほどなく道隆(演・井浦新)らが一気に抜き去る局面がやってくるということです。

I:出世争いが厳しかったんですね。

A:厳しいといえば厳しいのでしょうが、藤原兼家、藤原頼忠など祖父(忠平)を同じくする親戚みたいなものですから、狭い範囲での出世争いということになります。ちなみに、陣定には、天皇と摂政関白は臨席しないということで、花山天皇も藤原頼忠もこの陣定には出ていません。さらに蛇足ですが、醍醐源氏が多いのは、醍醐天皇が36人の皇子女をもうけていた影響でもあります。

I:いずれにしても、「発言は下位の者から」という慣習をしっかり入れ込んできました。フィクションは大胆に、時代背景の描写は緊密にということで、メリハリがあっていいですよね。

秋山竜次さん演じる藤原実資は要注意人物。次ページに続きます

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