財前直見さん演じる『蜻蛉日記』著者、藤原道綱母(ドラマでは寧子)。(C)NHK

ライターI(以下I):『光る君へ』第5回では、藤原道長(演・柄本佑)の父兼家(演・段田安則)がもうひとりの妻寧子(演・財前直見)のもとでリラックスしている場面が登場しました。『蜻蛉日記』の著者として知られている女性です。まさか、大河ドラマに『蜻蛉日記』の著者が登場する時代がくるとは……。ほんとうに感慨深いです。

編集者A(以下A):劇中では寧子(やすこ)という名が与えられていますが、実際にはその名は伝わっておらず、「藤原道綱母」と呼ばれています。背景は異なりますが、現代の幼稚園児や小学生児の母親が「〇〇君のママ」と呼ばれるのにも似ています。

I:劇中では、兼家の前で舞を舞っていたのが、ふたりの間に生まれた道綱(演・上地雄輔)です。年齢的には道隆(演・井浦新)と道兼(演・玉置玲央)の間で、道長の異母兄ということになります。劇中の場面は永観2年(984)。「藤原道綱母」が『蜻蛉日記』をしたためたのは天暦8年(954)から天延2年(974)頃ですから、断筆して10年ほど経過しているというところです。

A:『蜻蛉日記』は待つ身の女性の苦悩を綴った読み物。冒頭に兼家から突然送られてきた和歌が挿入されています。「音にのみ聞けばかなしなほととぎす こと語らはむと思ふ心あり(お噂を伺っているだけでお逢いできないのは、まことに切ないことです。直接お目にかかって、親しくお話したいと思っています※)――。劇中の場面を思い浮かべながら、その和歌を読むと感慨もひとしおです。

I:兼家には三石琴乃さんが演じている時姫という正室がいて、道隆、道兼、道長、詮子などの子供たちをもうけています。『蜻蛉日記』で私が印象に残っているのは、兼家の渡りを今か今かと待ち焦がれている道綱母(劇中では寧子)が、屋敷に近づいてくる兼家の牛車の音に心ときめかせたにもかかわらず、牛車は屋敷の前を通り過ぎていったという場面です。聞くも涙語るも涙の名場面ですね。

A:『蜻蛉日記』には若き日の藤原兼家から送られた和歌が多数残されています。道綱母からの返事が来ない際には「人知れずいまやいまやと待つほどに かへりこぬこそわびしかりけれ(あなたからのお返事をひそかに今か今かと待っておりますのに、いつまでたってもいただけないのは、ほんとうに辛いことです※)」と送っています。受験勉強の一環でうっかり『蜻蛉日記』を読み始めてしまい、あまりの面白さに、『蜻蛉日記』から『大鏡』、さらには『栄花物語』までじっくり読み込んで他教科の勉強がおざなりになったという人は意外に多いかもしれません。

I:そういう人、そんなにいますかね? さて、道綱母は「本朝三美人」に数えられるかなりの美女だったようです。兼家も当初は御執心で猛アピールしていたのに、道綱が誕生した後にはほかの女性のもとに通うなど、道綱母は常にもやもやした気持ちを抱えていたようです。兼家の文箱からほかの女性に宛てた文が出てきたことを記すなど、私は、兼家と道綱母の物語をスピンオフでやってほしいと思うくらいです。

A:あ、それはぜひやってほしいですね(笑)。『蜻蛉日記』は、80年代半ばにヒットしたテレサ・テンの曲や、立花淳一、島津ゆたかが歌った「ホテル」と空気感が似ている印象ですから、令和の時代に受けるかどうかはわかりませんが……。

I:この時代は一夫多妻の時代ということで、皆、納得済みなのかと思ったら、『蜻蛉日記』によって、当事者の女性の心が穏やかではなかったことが後世に伝わりました。この機会に読んでみたら面白いと思います。

A:藤原兼家と道綱母ですが、系譜上は曾祖父が兄弟という意外に近い関係です。その間に家格に大きな差がついているというところも歴史の面白いところです。

I:何はともあれ、せっかく役名を与えられた寧子とその子道綱の今後にも注目ですね。

道長(演・柄本佑)とは異母兄弟の道綱(演・上地雄輔)。(C)NHK

※『蜻蛉日記』の引用は『新編 日本古典文学全集13 土佐日記 蜻蛉日記』(小学館)より。

●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。「藤原一族の陰謀史」などが収録された『ビジュアル版 逆説の日本史2 古代編 下』などを編集。古代史大河ドラマを渇望する立場から『光る君へ』に伴走する。

●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2024年2月号の紫式部特集の取材・執筆も担当。お菓子の歴史にも詳しい。『光る君へ』の題字を手掛けている根本知さんの仮名文字教室に通っている。猫が好き。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

 


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