ライターI(以下I):『光る君へ』第12回冒頭では、まひろ(演・吉高由里子)の父藤原為時(演・岸谷五朗)が妾のなつめ(演・藤倉みのり)のもとで、その臨終を見守る場面が描かれました。読経する僧侶に、手に数珠を持ったなつめ。髪を削ぎ、得度を終えた旨、僧侶から告げられました。
編集者A(以下A):何気ない描写ですが、この時期の仏教の様子が垣間見られた感じがします。以前も触れましたが、同時期に天台宗の源信が極楽と地獄についてまとめた『往生要集』を著したばかりです。
I:源信は『源氏物語』に登場する横川の僧都(そうづ)のモデルともいわれる僧侶ですよね。『光る君へ』にも登場することになるのでしょうか。さて、為時の妾のなつめの家にいったまひろですが、なつめの娘のさわ(演・野村麻純)を迎えに行った縁で仲良くなります。野菜を一緒に抜いたり、床の拭き掃除をしたり、まるで仲の良い姉妹のような関係になりました。このさわさんにはモデルがいるんですよね。紫式部には姉がおり、為時が越前に行く前に亡くなったといわれています。同じ頃、妹を亡くした親友の筑紫の君(平維将の娘)と姉妹の契りを交わしたという話が、紫式部の自選和歌集『紫式部集』に書かれています。ただし、筑紫の君の方が姉君、紫式部は中の君(二女)と呼び合って文通していたそうで、ドラマとは年齢逆転です。
A:ふたりで収穫していた野菜は蕪(かぶ)ですかね。蛇足ですが、劇中の時代の50年ほど前に編纂された『和名類聚抄』(わみょうるいじゅしょう)という書物には、当時の野菜として大根(おほね)、ネギなどとともに蕪も立項されていますから、当時から人気の野菜だったのでしょう。
I:私が面白いと思ったのは、まひろに文を送った男についてのやり取りの中で、さわが「シューっとした感じ?」と言っていました。おっと、さすがに現代語過ぎないか? とは思いました(笑)。
【倫子と左大臣家、宇多源氏。次ページに続きます】