第10回で結ばれたまひろと道長
I:さて、そうしたやりとりを経て、廃墟でまひろと道長が結ばれます。キスシーンなど唇を交わしたシーンも描かれました。
A:現状NHK的限界ギリギリのラブシーン表現に挑んだということでしょうか。月明かりに照らされた廃邸で結ばれるという美しい場面になりました。今回はNHKの大ベテラン黛りんたろうさん演出回。1994年の『花の乱』など叙情的な映像が印象的な方ですが、寛和の変と同時にまひろと道長が結ばれる重要回に起用されたのは、この場面のためだったのかもしれません。
I:ちなみに、劇中の平安中期には現代でいう「キス」同様の行為は「口吸い」と呼ばれていたようです。『土佐日記』でも「口をのみぞ吸ふ」と言及されているようですね。
A:蛇足ですが、「接吻」という表現は明治以降の造語ということになります。
I:ところで、まだ第10回なのですが、まひろと道長が結ばれてしまいました。いったい今後どういう物語になっていくのでしょうか。詮子(演・吉田羊)の先導で源高明の娘の明子(演・瀧内公美)との縁談が進められます。左大臣源雅信(演・益岡徹)の娘倫子(演・黒木華)とあわせて源氏の姫との「W縁談」とまひろの関係がどうなっていくのか。
A:ドラマとしては、ものすごく楽しみですよね、
I:そして私は、頻繫にカットインされる月がカギを握っているような気もしています。月明かりのもとで結ばれたふたり。道長の有名な歌で詠まれた「月」も、もしかしたらまひろと結ばれた日の月のことだったりとか……。
A:そういう議論、大いにしてほしいですね。寛和の変の夜も『栄花物語』によれば「有明の月のいみじく明かりければ」という日だったわけですし……。
柄本佑さんの所作は刮目して見るべし
I:最後に、道長役の柄本佑さんの役どころに対するすさまじい意欲が垣間見られる場面があったので触れたいと思います。姉の詮子と話しているときの座り方がとても美しかった! いわゆる楽坐で、あぐらのように座りますが、足首は組まず、左右の足の裏をくっつけるようにして座ります。この座り方は、慣れないと膝が高く上がってしまうのですが、柄本さんはしっかり太ももが床と水平になっていて、立派でした。私なんかは身体がかたくて、これが全然できなくて、みっともない座り方になってしまうのです。
A:ほう。そこは気がつきませんでした。さすが、神職資格を持つIさんならではの着眼点。柄本さんは先日の打毬の撮影のために乗馬の訓練もしたようですし、平安貴族の足の運び方も日々意識して歩いていると言っていましたね。
I:なんだか凄いドラマになってきましたね。
※『大鏡』『栄花物語』の原文、訳文は『新編 古典文学全集』(小学館)からの引用です。
●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。「藤原一族の陰謀史」などが収録された『ビジュアル版 逆説の日本史2 古代編 下』などを編集。古代史大河ドラマを渇望する立場から『光る君へ』に伴走する。
●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2024年2月号の紫式部特集の取材・執筆も担当。お菓子の歴史にも詳しい。『光る君へ』の題字を手掛けている根本知さんの仮名文字教室に通っている。猫が好き。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり