ライターI(以下I):『光る君へ』第10回では、花山天皇(演・本郷奏多)に出家を強いて退位させた「寛和の変」が描かれました。
編集者A(以下A):実は密かに鎌倉幕府を創設した源頼朝のご先祖様が登場するのではないかと期待していたのですが、スルーだったようですね。というのも、道兼(演・玉置玲央)と花山天皇の乗った牛車には、行程途中から護衛の武者が取り囲んだことがわかっています。歴史書『大鏡』には、「なにがしかがしというふいみじき源氏の武者たちをこそ、御送りに添えられたりけれ(なんのだれそれという有名な源氏の武者たちを、護衛として添えられたのでした)」とあります。藤原兼家(演・段田安則)が道兼のために源氏の武者たちを派遣したわけです。『新編 古典文学全集』(小学館)の脚注によると、源満仲とその子源頼光、源頼信らだといわれています。
I:源満仲、頼光、頼信! 確かに鎌倉幕府を立てた源頼朝のご先祖様たちですね。
A:この源氏の武者どもを登場させなかったのはちょっと残念でした。本筋には必要ないといえば必要ないのですが、このころから藤原兼家→道隆→道兼→道長と継承されていく摂関家と源氏が強固に結びついていたことが、後々の歴史に大きな影響を与えていたことを浮き彫りにさせる場面になったわけですから、ちょっと惜しいなと思います。
I:鎌倉幕府創設に至る、小さな種が撒かれていて、発芽したくらいの時期ですかね。まあ、でもしょうがないですよ。本編とはあまり関係ないという判断なのでしょう。
A:実は、1976年の『風と雲と虹と』では、源満仲の父六孫王経基が登場しています。源満仲-頼光の流れからは源頼政(以仁王の令旨に呼応して挙兵)が出ますし、満仲-頼信の流れからは、源頼義、義家(1993年『炎立つ』で登場)、さらには為義、義朝(2012年『平清盛』で登場)、さらには複数の大河ドラマで登場する頼朝、義経など、「大河ドラマ版源氏の系譜」がほぼ貫通することになったのになと思っちゃうのですよ。
I:源氏ファンにとっては、源満仲が登場したら喜んだのかもしれないですね。
A:寛和の変で満仲の息子頼信が道兼の護衛を務めていたとされる源頼信ですが、道長が亡くなった直後に東国で発生した「平忠常の乱」平定に功を挙げ、源氏の東国進出の橋頭保を築きます。
I:種が撒かれ、発芽したものがどんどん成長していったのですね。
A:はい。その源頼信から頼義、義家と続く系譜は、前九年の役、後三年の役を経て、東国における源氏の勢力を確固たるものにします。
I:それもこれも、藤原兼家一族が打った大博打が成就した賜物ですよね。ということは、『光る君へ』第10回で描かれた「寛和の変」を源流とする流れが、鎌倉幕府創設という大河になったともいえますね。
A:歴史って本当に面白いですよね。そう考えるとやっぱり、道兼の護衛として源満仲、登場させて欲しかったですね。
I:まだ言ってる(笑)。
※『大鏡』『栄花物語』の原文、訳文は『新編 古典文学全集』(小学館)からの引用です。
●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。「藤原一族の陰謀史」などが収録された『ビジュアル版 逆説の日本史2 古代編 下』などを編集。古代史大河ドラマを渇望する立場から『光る君へ』に伴走する。
●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2024年2月号の紫式部特集の取材・執筆も担当。お菓子の歴史にも詳しい。『光る君へ』の題字を手掛けている根本知さんの仮名文字教室に通っている。猫が好き。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり