文/池上信次

前回(https://serai.jp/hobby/1167548)に続いて「ジャズの国内盤」に関連したテーマです。前回、ビル・エヴァンスの『ワルツ・フォー・デビイ』が『ビル・エヴァンスの芸術』というタイトルでリリースされていたので、日本デビュー時から「大物」扱いであると紹介しましたが、その後の調査で、(事実は正しいのですがイメージ的に)若干の訂正が必要な気がする発見がありました。

海外のジャズ・レコードの「日本盤」(日本国内で製造されて流通される商品)はSPレコードの時代からありましたが、その多くはいわゆるメジャー・レーベル(レコード会社)の作品でした。それが1950年代の末あたりから、日本のレコード会社は競って海外の独立系小規模レーベルと契約し、ジャズ・アルバムの国内盤を続々とリリースし始めました。これにより、プレスティッジ、パシフィックジャズ・レーベルなどそれまで輸入盤でしか聴けなかった作品が広く聴かれるようになり、一般のジャズ人気が高まるひとつのきっかけになりました。そしてその発売の際に、エヴァンスの『芸術』のような国内盤「独自タイトル」が付けられたのですが、それを調べていて冒頭に書いた発見をしたのです。

それは、当時の国内盤は『〈ミュージシャンの名前〉の芸術』というアルバムだらけだったこと。ですから、エヴァンスはたしかに「大物」なのですが、たくさんいる大物のひとりというふうに訂正しなければ、という次第です。以下に紹介するのは、1960年に発売された国内盤のタイトルとその原題です。かなりのジャズ・ファンでもこれらのタイトルを瞬時に原題に結びつけるのは難しいのでは? クイズのネタとしてもどうぞ。1960年というのが少しはヒントになるかもしれません。

*『国内盤タイトル』←『原題』(レーベル)です。発売順ではありません。国内盤タイトルはサブタイトルのものもあります。

『マイルス・デイヴィスの芸術』←『Workin’』(Prestige)
『ジョン・コルトレーンの芸術』←『Soultrane』(Prestige)
『ソニー・ロリンズの芸術』←『Saxophone Colossus』(Prestige)
『オーネット・コールマンの芸術』←『The Shape of Jazz to Come』(Atlantic)
『ソニー・スティットの芸術』←『Plays Arrangements From The Pen of Quincy Jones』(Royal Roost)
『ジャッキー・マクリーンの芸術』←『4, 5 and 6』(Prestige)
『ビリー・ホリデイの芸術』←『Twelve of Her Greatest Interpretations – Strange Fruit』(Commodore)


マイルス・デイヴィス『マイルス・デイヴィスの芸術(Workin’)』(Prestige)
演奏:マイルス・デイヴィス(トランペット)、ジョン・コルトレーン(テナー・サックス)、レッド・ガーランド(ピアノ)、ポール・チェンバース (ベース)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(ドラムス)
録音:1956年5月11日、10月26日
なぜ1956年の録音が60年に国内リリースされているかというと、アメリカでの発売も60年だったから。56年のセッションはアルバム4枚に分けて、57年から61年まで小出しにリリースされたのでした。

『ウィントン・ケリーの芸術』←『Kelly Great』(Vee Jay)
『セロニアス・モンクの芸術』←『Monk』(Prestige)
『スタン・ゲッツの芸術』←『The Sound』(Roost)
『チェット・ベイカーの芸術』←『Quartet: Sextet: Septet』(World Pacific)
『チャーリー・パーカーの芸術』←『All Star Sextet』(Roost)
『フィニアス・ニューボーン・ジュニアの芸術』←『Here Is Phineas』(Atlantic)
『チャーリー・ミンガスの芸術』←『Blues & Roots』(Atlantic)
『マックス・ローチの芸術』←『Award-Winning Drummer』(Time)
『ギル・エヴァンスの芸術』←『Great Jazz Standards』(World Pacific)
『ランディ・ウェストンの芸術』←『Little Niles』(United Artists)
『ミルト・ジャクソンの芸術』←『Plenty, Plenty Soul』(Atlantic)
『ジョン・ルイスの芸術』←『The John Lewis Piano』(Atlantic)
『モダン・ジャズ四重奏団の芸術(上)』←『Django』(Prestige)
『モダン・ジャズ四重奏団の芸術(下)』←『Concorde』(Prestige)
注:「モダン・ジャズ四重奏団」は「モダン・ジャズ・カルテット」のこと。メンバーのミルト・ジャクソンもジョン・ルイスも『芸術』なので、グループも当然『芸術』?

『芸術』のタイトルにふさわしい「大物」がずらり。当時「ジャズ」の訳語は「芸術」だったのです。

文/池上信次
フリーランス編集者・ライター。専門はジャズ。ライターとしては、電子書籍『サブスクで学ぶジャズ史』をシリーズ刊行中。(小学館スクウェア/https://shogakukan-square.jp/studio/jazz)。編集者としては『後藤雅洋著/一生モノのジャズ・ヴォーカル名盤500』(小学館新書)、『小川隆夫著/マイルス・デイヴィス大事典』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、『後藤雅洋監修/ゼロから分かる!ジャズ入門』(世界文化社)などを手がける。また、鎌倉エフエムのジャズ番組「世界はジャズを求めてる」で、月1回パーソナリティを務めている。

 


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