文/池上信次

前回(https://serai.jp/hobby/1140571)、ジャズはつねに「新しさ」のアピールをしてきた(している)ことを、アルバム・タイトルから紹介しましたが、それ以前に、それを作るレコード会社名やレーベル名が「新しさ」を主張するものばかりでした。とくに1950年代から60年代のモダン・ジャズの時代が顕著です。そもそも「モダン=新しい」ジャズですから。一歩でも先を行っているイメージが大切だったのでしょう。


エリック・ドルフィー『アウトワード・バウンド』(New Jazz)
演奏:エリック・ドルフィー(アルト・サックス ほか)、フレディ・ハバード(トランペット)、ジャッキー・バイアード(ピアノ)、ジョージ・タッカー(ベース)、ロイ・ヘインズ(ドラムス)
録音:1960年4月1日
エリック・ドルフィーのファースト・アルバム。「New Jazz」というレーベル名は、まさにドルフィーのイメージ。期待を高めてくれますね。

有名なところでは、そのものズバリの「New Jazz」レコーズ(レーベル)。これはSPレコード時代の1949年にボブ・ワインストックによって設立されました。ワインストックはすぐに「Prestige」レコーズ(レーベル)も立ち上げて、LPレコードの時代になるとこちらをメインとしたため、「New Jazz」の作品は多くはなく、印象も薄いものでした。しかし、59年に「New Jazz」を復活させ、ジャッキー・マクリーン、エリック・ドルフィーといった新人たちを続々と起用し、文字通りの「New Jazz」アルバムを連発しました。「New Jazz」はストレートすぎるネーミングですが、今なら「シン・ジャズ」というイメージでしょうか。

「Contemporary」も新しいイメージがありますね。創設者はレスター・ケーニヒ。彼は49年にディキシーランド・ジャズの専門レコード会社(レーベル)「Good Time Jazz」を設立・運営していたのですが、51年に「Contemporary」レコーズ(レーベル)を設立し、多くのアルバムを制作します。Contemporaryは同時代という意味ですが、「Good Time Jazz」を踏まえると、そこに「新しいジャズ」という意味をもたせていたことは明らかです。とはいえ、初期の看板はシェリー・マン(ドラムス)、ハンプトン・ホーズ(ピアノ)、バーニー・ケッセル(ギター)らで、多くの作品はオーソドックスな内容でした。だからこそ「Pacific Jazz」に並ぶウェストコースト・ジャズの代表的なレーベルのひとつとなったのですが、オーネット・コールマンのファースト・アルバム『サムシング・エルス!』(前回紹介:https://serai.jp/hobby/1140571)など、「新しい」アルバムも数は少ないながらも積極的に制作し、先進性を印象づけました。


ジョン・コルトレーン『アフリカ/ブラス』(Impulse)
演奏:ジョン・コルトレーン(テナー・サックス、ソプラノ・サックス)、エリック・ドルフィー(フルート ほか)、マッコイ・タイナー(ピアノ)、レジー・ワークマン(ベース)、アート・デイヴィス(ベース)、エルヴィン・ジョーンズ(ドラムス)、ブラス・セクション
録音:1961年5月23日、6月7日
ジョン・コルトレーンのImpulse第1作。ここから始まったコルトレーンの作品群は、まさに「Impulse=衝動」を表現したものでした。

1960年設立の「Impulse(インパルス)」。ロゴマークには「!」を付け、裏ジャケットには「The New Wave Jazz is on Impulse!」と大書きし、新しさのイメージを前面に打ち出しました。第1弾はレコード番号A-1、カイ・ウィンディングとJ.J.ジョンソンによる『ザ・グレイト・カイ&J.J.』で、内容は正直なところあまり「衝動」は感じませんが、61年にレーベルと契約したジョン・コルトレーンの諸作は、まさにキャッチコピーの宣言を感じさせる内容でした。


マル・ウォルドロン『フリー・アット・ラスト』(ECM)
演奏:マル・ウォルドロン(ピアノ)、イズラ・エッキンガー(ベース)、クレランス・ベクトン(ドラムス)
録音:1969年11月24日
創立から50年以上、現在も新作リリースが続くECM。初期の頃からはレーベル・イメージも大きく変わってきましたが、それこそが「Contemporary Music」であることの証です。

モダン・ジャズ時代の後でも、レーベルによる「新しさ」のアピールは変わらず続いていました。

60年代末からヨーロッパでふたつの新しいレコード会社が設立されました。1969年にドイツのミュンヘンで設立されたのが「ECM」レコーズ(レーベル)。創設者はマンフレート・アイヒャー。この「ECM」とは、「Editions of Contemporary Music」の略です。「現代の音楽の作品集」といった意味合いですが、作品系列を見れば、明らかに「新しいジャズ」を意味しています。第1弾アルバムはレコード番号1001、ピアニスト、マル・ウォルドロンの『Free At Last』でした。

そしてそれを追うかのように、1971年に同じくミュンヘンでマティアス・ウィンケルマンとホルスト・ウェーバーによって設立されたのが「Enja(エンヤ)」レコーズ(レーベル)。「Enja」は「European New Jazz」の略で、こちらははっきりと「新しいジャズ」を標榜しています。第1弾はレコード番号2004、マル・ウォルドロンの『Black Glory』。

はい、なんと驚くことにECMとEnjaの第1弾アーティストはいずれもマル・ウォルドロンなのでした。ライバルのレーベルと同じマルを持ってくるとは、Enjaはどういうつもりだったのかはわかりませんが、レーベルのお披露目となるわけですから、それは熟考された結果だと思われます。マルは、振り返ればジャズ史を動かすようなタイプではありませんでしたが、当時は「新しさ」を象徴するアーティストだったのでしょう。「新しさ」の視点も時代とともにつねに移り変わっているのですね。

文/池上信次
フリーランス編集者・ライター。専門はジャズ。ライターとしては、電子書籍『サブスクで学ぶジャズ史』をシリーズ刊行中。(小学館スクウェア/https://shogakukan-square.jp/studio/jazz)。編集者としては『後藤雅洋著/一生モノのジャズ・ヴォーカル名盤500』(小学館新書)、『小川隆夫著/マイルス・デイヴィス大事典』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、『後藤雅洋監修/ゼロから分かる!ジャズ入門』(世界文化社)などを手がける。また、鎌倉エフエムのジャズ番組「世界はジャズを求めてる」で、月1回パーソナリティを務めている。

 


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