文/池上信次

もうすぐ2023年もおしまい。休む人あり、働く人あり、大晦日の過ごし方は人それぞれですが、ジャズ・ミュージシャンはどうでしょうか。パフォーマーとしてのライヴ出演は昔も今もふつうのことですが、ディスコグラフィーを見ると、なんと(ライヴの録音ではない)スタジオ・レコーディングをしている人もいました。スタジオでのレコーディングでは、リーダーは共演者を集め、プロデューサーはスタジオを確保し、エンジニアを雇わなければなりません。ミュージシャン以外の多くの人が関わるわけで、よりによって大晦日にやらなくても、とは思いますが、ジャズはチャンスが重要。「その時」でなければ作ることができない作品もあるのです。

以下、おもだったものを時代順に列挙します。録音日はすべて12月31日です(アルバムの一部の録音も含む)。


ソニー・スティット『プリミティーヴォ・ソウル!』(プレスティッジ)
演奏:ソニー・スティット(テナー・サックス)、ロニー・マシューズ(ピアノ)、レナード・ガスキン(ベース)、ハービー・ラヴレー(ドラムス)、オズヴァルド・マルティネス(ボンゴ)、マルセリーノ・ヴァルデス(コンガ)
録音:1963年12月31日
録音が行なわれたヴァン・ゲルダー・スタジオと、オーナーでエンジニアのルディ・ヴァン・ゲルダーは、当時は年中無休のように稼働していました。

●メトロノーム・オールスター・バンド『メトロノーム・オールスターズ』(コロンビア)
1941年ニューヨークにて録音
ベニー・グッドマン、ロイ・エルドリッジら『メトロノーム』誌の人気投票上位者によるビッグバンド。人気者を一堂に集めるには大晦日しかなかったのでしょう。SP時代なので、両面分2曲を録音。

●イリノイ・ジャケー・フィーチャリング・カウント・ベイシー『ポート・オブ・リコ』(クレフ)
1952年ニューヨークにて録音
●オスカー・ピーターソン・トリオ『プレイズ・ジェローム・カーン』(クレフ)
1953年ロサンザルスにて録音
●ベニー・カーター『コスモポライト』(ノーグラン)
1953年同上
クレフとノーグランのプロデューサーはノーマン・グランツ。2年続けて大晦日は休みなし。ピーターソンとカーターは同一のセッションと思われます。

●チェット・ベイカー『チェット・ベイカー&ストリングス』(コロンビア)
1953年ロサンゼルスにて録音
12月30日と31日に録音。ストリングスのメンバーの確保はたいへんだったのでは?

●『ベスト・フロム・ザ・ウエスト/モダン・サウンズ・フロム・カリフォルニア vol. 1, 2』(ブルーノート)
1954年ロサンゼルスにて録音
評論家のレナード・フェザーがプロデュースし、コンテ・カンドリ、チャーリー・マリアーノらが参加したオムニバス・アルバム。

●ジミー・ジュフリー『ミュージック・マン』(アトランティック)
1957年コースタル・レコーディング・スタジオ(ニューヨーク)にて録音
編成は7管。メンバーが集まれるのは大晦日だけだったのか。

●ソニー・スティット『プリミティーヴォ・ソウル!』(プレスティッジ)
1963年ヴァン・ゲルダー・スタジオ(ニュージャージー)にて録音
パーカッション2人が入っているものの基本はカルテット。大晦日も日常の延長か。

●ケニー・ドリュー・ソロ・ピアノ『エヴリシング・アイ・ラヴ』(スティープルチェイス)
1973年デンマーク・コペンハーゲンにて録音
ソロ・ピアノならいつでも録音できる、ということではないのでしょう。

●ブランフォード・マルサリス『ルネッサンス』(コロンビア)
1986年RCA Studio A(ニューヨーク)にて録音
共演はハービー・ハンコック、トニー・ウィリアムスら。当時ブランフォードはハンコック・カルテットのメンバーでツアー直後。このタイミングしかなかったのでしょう。

●ケニー・バロン・トリオ『グリーン・チムニーズ』(クリスクロス)
1987年ヴァン・ゲルダー・スタジオ(ニュージャージー)にて録音
●ラルフ・ムーア・カルテット『623 C Street』(クリスクロス)
1987年同上
このふたつのセッションに共通するメンバーはバスター・ウィリアムスのみ。彼だけが休憩なし?

ジャズ・スタンダードになっている「ホワット・アー・ユー・ドゥーイング・ニュー・イヤーズ・イヴ?」(フランク・レッサー作詞・作曲)では、「大晦日に(好きな)あなたは誰と過ごしているの?」と歌われますが、当のジャズ・ミュージシャンたちは、いつものようにジャズを演奏しているというわけでした。ついでにチェック。さすがに元日の録音はないだろうと思いましたが、なんとありました!

●エリック・クロス『ドアーズ』(コブルストーン)
1972年1月1日/RCAスタジオ(ニューヨーク)にて録音

ジャズ・ミュージシャン(そしてプロデューサー、スタジオの人も)は働き者なのです。

文/池上信次
フリーランス編集者・ライター。専門はジャズ。ライターとしては、電子書籍『サブスクで学ぶジャズ史』をシリーズ刊行中。(小学館スクウェア/https://shogakukan-square.jp/studio/jazz)。編集者としては『後藤雅洋著/一生モノのジャズ・ヴォーカル名盤500』(小学館新書)、『小川隆夫著/マイルス・デイヴィス大事典』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、『後藤雅洋監修/ゼロから分かる!ジャズ入門』(世界文化社)などを手がける。また、鎌倉エフエムのジャズ番組「世界はジャズを求めてる」で、月1回パーソナリティを務めている。

 

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