文/池上信次
前回に続いて「編成で聴くジャズ」、今回はひとり増えた3人編成の「トリオ」です。ジャズのトリオといえば、ほとんどのジャズ・ファンはまず「ピアノ・トリオ」、それもピアノ+ベース+ドラムスの編成を思い浮かべると思います。現在ではそれほどこの編成はジャズ・バンドの「基本」として認識されていますが、トリオ=ピアノ・トリオという認識は長いジャズの歴史から見れば、じつは新しめの部類に入るといえます。ピアノ・トリオの編成・スタイルの変遷についてはまたあらためて解説しますが、ジャズは編成の「縛り」がない音楽ゆえ、古くからさまざまな組み合わせのトリオが存在しました。

「トリオ」を名乗り、最初に広く知られたのは「ベニー・グッドマン・トリオ」でしょう。グッドマンはスイング・ジャズ時代に大人気を博したバンド・リーダーでクラリネット奏者。グッドマンはオーケストラを率いる一方で、オケのピックアップ・メンバーで小編成の演奏も好んでしていました。トリオはそのうちのひとつで、最初のレコードは1935年に録音されています。編成はグッドマンのクラリネット、テディ・ウィルソンのピアノ、ジーン・クルーパのドラムスというもの。この組み合わせは現在ではほとんど見ることはありませんが、グッドマン・トリオはたいへんな人気で、メンバーを変えつつ、50年代半ばまでこの編成での録音を残しています。

(1)ベニー・グッドマン・トリオ『ザ・コンプリート・トリオズ』(キャピトル)
ベニー・グッドマン・トリオ『ザ・コンプリート・トリオズ』

ベニー・グッドマン・トリオ『ザ・コンプリート・トリオズ』

録音:1947~54年
演奏:ベニー・グッドマン(クラリネット)、テディ・ウィルソン(ピアノ)、ジミー・クロフォード(ドラムス)、ほか
※47年から54年のトリオ音源集。クルーパ在籍時の初期音源は収録されていないが、比較的良い音でグッドマン・トリオが楽しめる。

そこに参加していたクルーパは38年にグッドマンのバンドから独立し、51年に自身の「トリオ」を結成しました。そのメンバーはクルーパと、テナー、バリトン、バスの3種類のサックスを演奏するマルチ・サックス・プレイヤーのチャーリー・ヴェンチュラ、そしてピアノのテディ・ナポレオンでした。ちなみにこのトリオは52年に来日公演(東京、横浜、大阪)公演を行ない大盛況。日本でレコードも録音し、それは爆発的な売れ行きをみせました。

というわけで、スイング・ジャズの時代とその流れを汲むジャズマンたちにとって「トリオ」といえば、管楽器+ピアノ+ドラムスという編成だったのです。おそらくはスイング・ジャズ・オーケストラの超凝縮版という考えだったのでしょう。ダンス音楽ですからドラムスは必須で、最小限のサウンドを作るためにメロディ楽器とピアノを選んだということですね。

(2)ジーン・クルーパ・トリオ『ジャズ・イン・ジャパン 1947-1963』(ビクター)

録音:1952年4月22、23日
演奏:ジーン・クルーパ(ドラムス)、チャーリー・ヴェンチュラ(サックス)、テディ・ナポレオン(ピアノ)
※CD9枚組のボックス・セット。このうちの1枚が、当時SPで発売されたクルーパ・トリオの日本録音音源。クルーパ・トリオ単体のCDは現在発売されていないようだ。

グッドマン、クルーパの人気の一方で、もうひとつの「トリオ」も人気を博していました。それは「ナット・キング・コール・トリオ」。ナット・キング・コールはヴォーカリストとして知られますが、歌い始めたのは40年代半ばから。それ以前はピアニストとして活動していました(ピアノも弾けるヴォーカリストではなく、歌えるピアニスト、なのですよ)。コールは39年にトリオを結成。編成はコールのピアノ、オスカー・ムーアのギター、ウェズリー・プリンス(のちにジョニー・ミラー)のベースでした。同じ「トリオ」でありながら、スイング・ジャズの流れの上にあるグッドマン〜クルーパのトリオとはまるで異なる、「ピアノをメインにしたバンド」のサウンドは、当時たいへん革新的なものでした。ピアノ+ベース+ドラムスというピアノ・トリオが広まるのは、40年代半ばのセロニアス・モンクやバド・パウエルら、「ビ・バップ派」ピアニストの出現以降のことです。しかし、彼らの活躍でその編成がすぐに一般化したというわけではなく、40年代末にカナダからアメリカに進出して注目された「バカテクの新人」オスカー・ピーターソンは、コールに大きな影響を受けており、50年代に人気があった彼のピアノ・トリオは、コールと同じピアノ+ギター+ベースという編成でした。「ピアノ・トリオ=ピアノ+ベース+ドラムス」が主流になるのは、それよりもまだ先のことなのです。

(3)ナット・キング・コール・トリオ『ヴォーカル・クラシックス&ピアノ・クラシックス 』(キャピトル)
ナット・キング・コール・トリオ『ヴォーカル・クラシックス&ピアノ・クラシックス 』

ナット・キング・コール・トリオ『ヴォーカル・クラシックス&ピアノ・クラシックス 』

録音:1943~49年
演奏:ナット・キング・コール(ピアノ、ヴォーカル)、オスカー・ムーア(ギター)、ウェズリー・プリンス(ベース)ほか
※コール・トリオのデビュー時はSPレコードの時代で、当時のオリジナルの形ではCDになっていない。これはヴォーカルを含めた初期音源集。

(4)オスカー・ピーターソン『シェークスピア・フェスティヴァルのオスカー・ピーターソン』(ヴァーヴ)
オスカー・ピーターソン『シェークスピア・フェスティヴァルのオスカー・ピーターソン』

オスカー・ピーターソン『シェークスピア・フェスティヴァルのオスカー・ピーターソン』

録音:1956年8月8日
演奏:オスカー・ピーターソン(ピアノ)、ハーブ・エリス(ギター)、レイ・ブラウン(ベース)

※本稿では『 』はアルバム・タイトル、そのあとに続く( )はレーベルを示します。

文/池上信次
フリーランス編集者・ライター。専門はジャズ。近年携わった雑誌・書籍は、『後藤雅洋監修/隔週刊CDつきマガジン「ジャズ100年」シリーズ』(小学館)、『村井康司著/あなたの聴き方を変えるジャズ史』、『小川隆夫著/ジャズ超名盤研究2』(ともにシンコーミュージックエンタテイメント)、『チャーリー・パーカー〜モダン・ジャズの創造主』(河出書房新社ムック)など。

 

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