文/印南敦史

『まさか!の高脂質食ダイエット』
多くの方は、「脂質は減らすべき」だという考えているのではないだろうか。だからこそ、『【増補完全版】まさか!の高脂質食ダイエット ~本当にやせる「糖質制限2.0」』(グラント・ピーターセン 著、金森重樹 監修、石黒千秋 訳)というタイトルには少なからずインパクトを感じるかもしれない。

サンフランシスコの自転車メーカー、リーベンデール(Rivendell)の設立者である著者は、「脂肪をたくさん食べて、タンパク質はちょっぴり、緑黄色の葉菜をそこそこにしておく」のが一番だと主張するのだ。

ただし、脂肪にも「体によいもの」と「命を縮めるもの」があり、それらを見分ける目安は、オメガ3脂肪酸とオメガ6脂肪酸のバランス。どちらも生命維持に不可欠な脂肪だが、食事からしか摂れない。

たとえば、オメガ3脂肪酸1に対してオメガ6脂肪酸が20以上という比率は、高炭水化物食では普通のことだが、こんな食事をしていると高血圧、心臓病、ぜんそく、さまざまな炎症性疾患が起きやすくなる。(本書83ページより引用)

では、“よい脂肪”にはどのようなものがあるのだろうか?

まずは、サーモン、イワシ、ニシン、カタクチイワシなど、冷水魚の脂。そしてカニ、エビなどの甲殻類、ホタテ、牡蠣など食物連鎖の下層にいる生き物を餌にしている貝類。

これらは寿命が短いので、マグロやメカジキなど寿命が長い大型魚のようには水銀が体内には蓄積されないのだという。そしてオメガ3の量が多く、オメガ6の量は少ない。

次に、牧草で飼育した動物の脂。脂肪の多い魚を圧倒するほどではないものの、オメガ3とオメガ6のバランスはまずまずなのだそうだ。

続いてオリーブ、アボカド、とくにマカダミアナッツに多く含まれる一価不飽和脂肪。オメガ3は多くないものの、脂肪分の多い他の食品と比較すると、オメガ3脂肪酸とオメガ6脂肪酸とのバランスがすばらしいのだとか。

たとえば、オリーブオイルは1:10、アボカドは1:15、それにマカダミアナッツは1:1だ。オリーブオイルとアボカドの比率にはさほど魅力を感じないかもしれないが、ベニバナ油やゴマ油、それにアーモンドオイルの比率が最低でも1:1000というのをみたら考えが変わるだろう。(本書84ページより引用)

オリーブオイルもアボカド油も、その脂肪分の多くを占めるのは一価不飽和脂肪。オメガ3とオメガ6のバランスがぱっとしない分を十分に埋め合わせてくれることが、この脂肪が健康にもたらすメリットだ。

そして、もうひとつの“よい脂肪”が中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)。この脂肪の長所は、他の脂肪とは代謝のされ方が異なる点。エネルギーとして燃焼されやすく、体内で分解されるとケトン体になるという。ちなみにケトン体は、全身、心臓、脳機能にとって効率のよいエネルギー。そしてMCTの最善の供給源は、ココナッツオイルだ。

イワシやニシンのような小型魚はオメガ3が豊富な海藻類を食べ、大型魚は小型魚を食べ、ヒトは大型魚を食べる。

食物連鎖の上位に行けば行くほどオメガ3は蓄積されるため、脂肪分の多い魚、たとえばイワシ、ニシン、サバ、サーモン、マグロの順に大きくなるほどオメガ3を多く含むことになるわけだ。

ちなみに昔は、天然サーモンのほうが養殖サーモンよりもはるかに体によいといわれていた。養殖サーモンは、オメガ3脂肪酸を含む餌を食べていなかったからだというのがその理由だ。

ところが、いまは事情が違うようだ。養殖業者はサーモンにオメガ3脂肪酸をたっぷり混ぜた餌を与えているからである。したがって、なかには天然物にひけをとらない養殖サーモンもある。

しかし、そうなると気になるのが「食べるべきではない脂肪」。その筆頭として著者が挙げているのは、マーガリンに使われているトランス脂肪酸だ。ご存知のとおりトランス脂肪酸は安価であり、冷蔵庫に入れなくても1年以上もつ。だが、だからこそ問題点も多いのだ。

体内に入ったトランス脂肪酸は、VLDL(超低密度リポタンパク質)を増やす。VLDLは動脈を詰まらせる。またトランス脂肪酸は動脈をきれいにするHDL(高密度リポタンパク質)を減らす。(本書86ページより引用)

次に問題なのはシードオイル(植物の種子由来の油)。ヒマワリの種、ベニバナの種、ゴマの種、綿実、菜種を絞った油はどれも、オメガ6脂肪酸が高すぎるのだそうだ。

また大豆油、コーン油、ピーナッツ油、アーモンド油など、「よい脂肪」リストに入っていないすべての植物油も要注意。これらの油に多く含まれる脂肪オメガ6は、熱や空気に触れると劣化しやすい。当然ながら、劣化した油をとると、動脈硬化が起きるリスクがさらに高くなる。

一番よいのは、脂肪の多い魚類、牧草育ちの動物の肉や乳製品、オリーブ、アボカド、マカダミアナッツやココナッツオイルを中心に摂ること。念のため、オメガ3のサプリメントをプラスしよう。(本書88ページより引用)

つまり脂質すべてがよくないのではなく、脂質の“タイプ”を知り、「よい脂肪」を摂ることが重要だというのが著者の主張。参考にしてみる価値は、大いにありそうだ。

『【増補完全版】まさか!の高脂質食ダイエット ~本当にやせる「糖質制限2.0」』

グラント・ピーターセン 著、金森重樹 監修、石黒千秋 訳
きずな出版
本体価格 1700円(税抜)
2019年11月発売


文/印南敦史

作家、書評家、編集者。株式会社アンビエンス代表取締役。1962年東京生まれ。音楽雑誌の編集長を経て独立。複数のウェブ媒体で書評欄を担当。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)などがある。新刊は『書評の仕事』 (ワニブックスPLUS新書)。

 

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