文/印南敦史
加齢に伴って新陳代謝が悪くなり、ふと気がつけばずいぶん太っていた……。そんな経験をお持ちの方も、決して少なくはないだろう。
なんとかしてやせようと、糖質制限やカロリー制限をしてみたり、野菜だけダイエットやファスティングに挑戦してみたり、あるいは激しい運動をしてみたりと、いろいろなことを試してみたという方もいらっしゃるはずだ。
ところが多くの場合、一時的にやせたとしても、結局はリバウンドしてしまったりするものだ。だから絶望的な気分にもなってしまうわけだが、『101の科学的根拠と92%の成功率からわかった 満腹食べても太らない体』(富永康太 著、SBクリエイティブ)に目を通してみれば、自身の過去のダイエットの問題点に気づくことができるかもしれない。
著者もかつては多くの方々と同じように、肥満の悩みを抱えていたのだそうだ。だが、本書で紹介している「食欲コントロール法」のもととなる原理を知ってから、無理なく「やせ続けられる」ようになったというのだ。しかもこの減量法は、「食事制限」とはまったくの別ものなのだとか。
食事制限は「食べたいけど我慢する」こと。その一方で「食欲コントロール法」とは、「自然と必要以上に食べたくなくなる状態」を作ることです。(本書「はじめに」より)
だが、それは体質も大きく関係することなのではないだろうか? だとしたら、後天的につくれるようなものではないという気もするのだが、著者によれば肥満の原因の70%は後天的な生活習慣によるものなのだという。もちろん体質的に太りにくい人もいるが、理化学研究所の研究によると、体重に遺伝子が影響している割合は30%と結論づけられているそうなのだ。
そこで「食欲コントロール法」は、そんな“太るか太らないか”を決める70%の生活習慣にアプローチすることで「自然と必要以上に食べたくなくなる状態」をつくろうとしているのだ。
注目すべきは、「栄養」「心理」「習慣」「脳」と異なる観点から食欲コントロールを論じている点。つまりは広い視野でこの問題と向き合っているのである。
ここでは第2章「心理――食べたいものを食べて心を満たすほうが太らない」のなかから、ケーキにまつわる興味深いトピックをご紹介したい。
ダイエットのためにケーキを食べられないとしたら、甘党の方にとって日常はつらいものになるだろう。しかし著者は、ダイエットしていてもケーキは食べられると断言している。事実、毎日3食の食事と別にケーキを1つ食べる生活を1か月続け、体重が増えるか実験してみたところ、まったく増えなかったというのだ。
ケーキなどのハイカロリーなものを食べても太らないコツは、トータルカロリーを上げないことです。毎日ケーキを食べても、トータルのカロリーが増えなければ太りません。ここで、「じゃあケーキの分を食事で調整しないといけないの?」という疑問をもったはずです。そうなのですが、それは意図的な調整ではなく、自然に調整されるように工夫をするのです。(本書129ページより)
通常、ケーキを食べればその分だけ、次の食事でお腹が空かなくなる。たとえばケーキは約350kcalあるが、お昼のおやつでショートケーキを食べたとすると、夕食や翌日の朝の食事でお腹が空かないので、350kcal分少なくて済むようになるわけだ。
ただし、これについては「私はそんなことはない。ケーキを食べても、夕食だっていつもどおり食べる」という異論もあろう。しかし、それはケーキや夕食の食べ方に問題があるのだと著者は反論する。
例えば、ケーキを13時などの早い時間に食べて夕食が20時になれば、時間が空いているので夕食時にお腹が空くのは当然です。そのため、間食としてケーキを食べるときは、15時など夕食に近い時間にしたり、夕食を18時など早い時間にしたりすることが大切になります。夜遅く食べる弊害の一つは、前回の食事で食べ過ぎても時間が空くから、自然の調整が起こらずにカロリーオーバーになることです。(本書129ページより)
したがって、「ケーキを食べる時間を夕食に近い時間にする」「夕食を早めにする」ということが、ケーキを食べても太らないポイントになるということだ。
なお、「甘いものは別腹」などといわれるように、スイーツと食事は別ものとして扱われがちだ。だが、やはりそれではいけないようだ(当然といえば当然なのだが)。ケーキのせいでお腹が空いていないにもかかわらず、夕食をいつもどおり食べてしまうのは問題なのである。
おやつでケーキを食べた場合、カロリーを摂ることになるため夕食時にお腹が空きにくくなっているものだ。なのに、それを感じることなく、なにも考えずにいつもどおり食べてしまうと、体が発している「これ以上は食べる必要ないよ」というサイン(ホメオスタシス)を無視してしまうことになるのだ。
このように、ケーキを食べながらダイエットをしたいのであれば、ケーキを食べた後の食事や翌日は特にお腹具合を意識して食事をするようにしましょう。食事の前に「本当にお腹空いているかな?」と問いかければ、ケーキを食べた分は自然と調整されて太らなくなります。(本書130ページより)
この、「本当にお腹空いているかな?」と問いかけるべきだという部分は、多くのダイエット失敗者に共通する重要なポイントではないだろうか? 実際にはさほどお腹が空いていなかったとしても、食卓に好物が並んだりすれば「ま、食べてもいいか」と、お腹具合を無視して食べてしまったりするものだからだ。
だからこそ、まずはその点を意識してみるだけでも、相応の効果は期待できそうだ。
『101の科学的根拠と92%の成功率からわかった 満腹食べても太らない体』
文/印南敦史 作家、書評家、編集者。株式会社アンビエンス代表取締役。1962年東京生まれ。音楽雑誌の編集長を経て独立。複数のウェブ媒体で書評欄を担当。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)などがある。新刊は『「書くのが苦手」な人のための文章術』( PHP研究所)。2020年6月、「日本一ネット」から「書評執筆数日本一」と認定される。