文/川口陽海
松下さん(50代男性)は、5年前に脊柱管狭窄症と診断され、手術を受けました。
しかし、術後3年ほどは順調だったのですが、2年くらい前から脚にこわばりや違和感、痛みやしびれなどを再び感じるようになってしまいました…。
恐れていた症状の再発なのでしょうか?鍼治療などに通いましたが、あまり効果はありません。
再び手術するのはイヤだったので、何か良い方法がないかと探していたところ、筆者の腰痛トレーニング研究所を知り、訪ねてこられました。
松下さんのように脊柱管狭窄症を治すために思い切って手術をしたのに、
■痛みやしびれが治りきらない…。
■かえって悪化してしまった…。
■一旦良くなったのに症状が再発してしまった…。
そんなつらい相談を受けることが時々あります。
病院で相談をしても「手術自体はうまくいっています。これ以上できることはありません」などと言われてしまうことも…。
しかし、このような症状を少し違う視点から見ると、また違った原因や解決法が見えてくることがあります。
脊柱管狭窄症とは
加齢、労働、あるいは背骨の病気による影響で変形した椎間板と、背骨や椎間関節から突出した骨などにより、神経が圧迫されます。 脊柱管は背骨、椎間板、関節、黄色靱帯などで囲まれた脊髄の神経が通るトンネルです。年をとると背骨が変形したり、椎間板が膨らんだり、黄色靱帯が厚くなって神経の通る脊柱管を狭くなって(狭窄)、それによって神経が圧迫を受け、神経の血流が低下して脊柱管狭窄症が発症します。
公益社団法人日本整形外科学会HP|腰部脊柱管狭窄症 より(https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/lumbar_spinal_stenosis.html)
症状としては、腰から脚にかけての痛みやしびれ“坐骨神経痛”や、歩いていると痛みやしびれがひどくなって歩けなくなり、少し休むとまた歩けるようになる“間欠性跛行”などがあります。
標準的な治療としては、鎮痛剤や血行促進剤などの処方や、けん引・電気治療・リハビリなどの保存療法をおこない、それでも治らない場合に手術をおこなう場合があります。
手術の方法としては、脊柱管を狭めてしまっている場所を切除して圧迫を取り除く“椎弓切除術”や、ずれた背骨を固定する“脊椎固定術”などがあります。
しかし、手術をしたからと言って必ずしも良くなるわけでなく、次のようなネガティブなエビデンスも報告されています。
腰部脊柱管狭窄症による椎弓切除術を受けた患者88名を約10年間追跡調査した結果、75%が手術の結果に満足していたものの、23%が再手術を受け、33%が重度の腰痛を訴え、53%が2ブロック程度の距離も歩けないことが判明。(Katz JN. et al, Spine, 1996)
手術を受けた患者の5~50%は、症状がまったく変わらないかさらに悪化する、脊椎手術後不全症候群(FBSS)に陥る。(Bogduk N, Med J Aust, 2004)
ストレッチで症状が改善し、5年ぶりにゴルフをプレーできるまでに回復
本記事冒頭の松下さんに話を戻しますが、彼が陥ってしまったのも、まさに前記のエビデンスと同じ状況のように見受けられます。
とくに悩まされているのが脚のこわばりでした。
朝起きた時から仕事中、また寝る時まで、股関節や太ももなど、足全体が常にこわばって不快な違和感があります。またそれにともなって痛みやしびれなどもありました。
松下さんの腰や殿部から脚を触診していくと、どこもかしこも筋肉がカチカチにこわばっていますが、ところどころ押圧すると「痛気持ちいい」ようです。
そのまま施術により筋肉をほぐしていくと、脚のこわばりや違和感がだいぶ緩和されました。
聞くと普段お仕事では立っていることが多く、運動もあまりされていないようです。
私は、「今の症状は脊柱管狭窄症が再発したというより、お仕事や運動不足により脚全体の筋肉が凝り固まってしまったために、こわばりや違和感が出ているようですね。施術やストレッチなどで筋肉を緩めることで良くなっていくでしょう」と説明しました。
そしていくつかのストレッチを指導し、できるだけ毎日おこなっていただくようにしました。
その結果はかなり順調で、2週間ほどで効果を感じるようになり、約1か月後にはほとんどの症状は改善しました。
そして2か月を過ぎた頃には、手術をして以来の約5年ぶりにゴルフをプレーできるまでに回復しました。
背骨や神経ではなく、筋肉の過緊張が痛みやしびれをおこすことがある
松下さんの場合、手術をされる前のことはわかりませんが、今回の症状は背骨や神経の問題ではなく、筋肉のこわばり(過緊張)が原因だったようです。
筋肉は、過緊張をおこすと『トリガーポイント』と言われる“発痛点”ができてしまい、その周囲や離れたところにまで痛みやしびれがおこることがあるのです。
本連載ではおなじみですが、このような筋肉の過緊張『トリガーポイント』が原因で痛みやしびれ、違和感などが起こる症状を“筋筋膜性疼痛症候群”といいます。
脚のこわばりの原因となる筋肉
松下さんの場合は、とくにお尻や太ももの次のような筋肉が過緊張をおこしていました。
【中殿筋】
【大殿筋】
【ハムストリング】
【大腿四頭筋】
これらの筋肉がこり固まってしまったため、
脚のこわばりを改善するストレッチ
このような症状を改善するために、
【中殿筋・大殿筋のストレッチ】
足の裏がしっかりつく高さのイスに、やや浅めに腰かけます。
片方の足首を、反対の膝に乗せます。
そのまま上半身を股関節から前に倒します。
背中や腰は丸め過ぎず、胸を脚に近づけるようにしていきます。
適度にお尻の筋肉が伸びたところで止め、楽に深呼吸しながら力を抜き、30秒~1分ほど伸ばします。
終わったら上半身をゆっくり戻し、反対の足も同じようにおこないます。
これを片側2~3回ずつおこなってみましょう。
※ご注意)
痛みのためにこの姿勢ができない、またはこの姿勢をとると症状が悪化する時はやめてください。
【ハムストリングのストレッチ】
このストレッチでは、バスタオルなどを使用します。
仰向けになり、バスタオルを片脚のつま先あたりにかけます。
そこからバスタオルを引っ張るようにして脚を上に伸ばしていきます。
適度に腿裏からアキレス腱が伸びたところで止め、楽に深呼吸しながら力を抜き、30秒~1分ほど伸ばします。
終わったら脚をゆっくり戻し、反対の足も同じようにおこないます。
これを片側2~3回ずつおこなってみましょう。
※ご注意)
痛みのためにこの姿勢ができない、またはこの姿勢をとると症状が悪化する時はやめてください。
また、膝の裏を両手で持つ方法や、座ってタオルで伸ばす方法などもありますので、次の画像を参考におこなってみましょう。
【大腿四頭筋のストレッチ】
壁などに手をついて立った姿勢で、片足の足首を手で持ち、その踵をお尻につけるように足を曲げます。
適度に腿の前側が伸びたところで止め、楽に深呼吸しながら力を抜き、30秒~1分ほど伸ばします。
終わったら脚をゆっくり戻し、反対の足も同じようにおこないます。
これを片側2~3回ずつおこなってみましょう。
※ご注意)
痛みのためにこの姿勢ができない、またはこの姿勢をとると症状が悪化する時はやめてください。
また立ったままでは難しい場合は、横向きに寝た姿勢で同じように脚を曲げることでストレッチすることができます。
終わりに
このようなストレッチで松下さんの症状は回復することができました。
ひと口に脊柱管狭窄症と言っても、実際の症状は人によって千差万別です。
病院での治療で効果がみられているならそれに越したことはありませんが、手術をしても、またしていなくても、なかなか症状が改善しないようでしたら、このような運動・体操が功を奏する場合もあるのです。
必要に応じて専門家に相談しながら、積極的に身体を動かすことをおすすめいたします。
その他以下の記事で様々な腰痛・坐骨神経痛改善エクササイズをご紹介しております。
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文・指導/川口陽海
厚生労働大臣認定鍼灸師。腰痛トレーニング研究所代表。治療家として20年以上活動、のべ1万人以上を治療。自身が椎間板へルニアと診断され18年以上腰痛坐骨神経痛に苦しんだが、様々な治療、トレーニング、心理療法などを研究し、独自の治療メソッドを確立し完治する。現在新宿区四谷にて腰痛・坐骨神経痛を専門に治療にあたっている。
【腰痛トレーニング研究所/さくら治療院】
東京都新宿区四谷2-14-9森田屋ビル301
TEL:03-6457-8616
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