文/川口陽海
腰から脚にかけての痛みやしびれがおこると、たいていの場合“坐骨神経痛”と診断されます。
MRIなどの検査をすると、腰椎椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症などの背骨の異常がみつかり、それによって神経が圧迫されて痛みやしびれがおこると説明されるかもしれません。
多くの場合は鎮痛剤や湿布などが処方され、経過をみることになりますが、なかなか治らない場合は手術をすすめられることもあります。
しかし、少し違う視点“筋肉”からこのような症状を見ると、また違った原因や解決法が見えてくることがあります。
今回は脚の痛みやしびれが、すねの外側の筋肉をゆるめることで改善したケースをご紹介します。
ヘルニアによる坐骨神経痛が改善した70代男性
中田さん(仮名・70代・男性)は、長い間左脚の痛みとしびれに悩まされていました。
整形外科では『腰椎椎間板ヘルニアによる坐骨神経痛』と診断され、鎮痛薬やシップを処方されていますが一向に効かず、痛みがひどい時には座薬を使ってなんとかしのいでいるような状況です。
はじめは左のお尻から太ももの外側、脛の外側、足首などの痛みやしびれでしたが、そのうちに首や肩など上半身まで痛みを感じるようになってきます。
そんな時に中田さんは、筆者の腰痛トレーニング研究所に訪ねてこられました。
はじめは当院の標準的な施術や体操など様々なことを試みましたが、全身の筋肉がコチコチに固まっていて、なかなか改善しません。
しかし、ある筋肉をゆるめたところ、不思議と呼吸が深くなり、全身がふわっとリラックスするようにゆるんでいきました。
その翌週の治療に来られた際には、驚いたことに『先生、おかげさまで左脚の痛みがだいぶ癒えました』とおっしゃられるまでに快復したのです。
ゆるめたのは“腓骨筋”
中田さんの症状が快復した時にゆるめた筋肉とは、“腓骨筋”という、脛の外側にある筋肉です。
“腓骨筋”は細長いすじ状の筋肉で、長腓骨筋、短腓骨筋、第3腓骨筋の3つの筋肉の総称です。
歩行時や立っている時など、足や足首を動かしたり支えたりする筋肉です。
この腓骨筋が過緊張をおこすと、それだけで脛の外側や足首などに強い痛みをおこすことがあります。
筋肉は、過緊張をおこすと『トリガーポイント』と言われる“発痛点”ができてしまい、その周囲や離れたところにまで痛みやしびれがおこることがあります。
上の図でいうと、✖印の部分が腓骨筋の『トリガーポイント』で、赤い範囲に痛みやしびれの症状があらわれます。
このような『トリガーポイント』が原因となる痛みを『筋筋膜性疼痛症候群』といいます。
腓骨筋の過緊張が全身に影響を及ぼす
筋肉は筋膜という膜に包まれていますが、この筋膜によって隣の筋肉や関節の向こう側にある筋肉とつながっていき、全身に渡ってある種のネットワークとしてつながっています。
例えば“腓骨筋”は、膝の下から外側のくるぶしにわたってすねの外側にある筋肉ですが、そこから腿の外側や裏側につながり、お尻、腰、背中、首というようにつながっています。(下図1・2)
※図1 赤ライン 足首→すねの外側→腿の外側→お尻→腰
※図2 赤ライン 腿の外側→お尻→腰→背中→首
そしてつながっている筋肉は、お互いにひっぱりあったりして影響を及ぼしあいます。
腓骨筋が過緊張をおこすと、つながっているライン上の筋肉をひっぱり、緊張させてしまうことがあるのです。
中田さんが足の痛みから上半身まで不調をおこしたのも、腓骨筋をゆるめたことで全身がゆるんだのも、この筋膜のつながりの特性ゆえだったのです。
腓骨筋をゆるめるストレッチ
中田さんの場合は施術により腓骨筋をゆるめましたが、ストレッチでご自分でゆるめる方法もありますのでご紹介します。
バスタオルなどをご用意ください。
仰向けになり、バスタオルを片足(痛みのある側)のつま先あたりにかけます。
そこから膝を伸ばすようにしながら、内側に向けて傾けていきます。
内側とは、画像のように右脚をストレッチする場合は左脚方向に傾けるということです。
この時に、内側のタオルをひっぱるようにして、足首を内側に少しひねるようにすると、より腓骨筋がストレッチされます。
ふくらはぎ、すねの外側が伸びる感覚があればOKです。
適度にすねの外側の筋肉が伸びたところで止め、楽に深呼吸しながら力を抜き、30秒~1分ほど伸ばします。
終わったら脚をゆっくり戻し、反対の足も同じようにおこないます。
これを片側2~3回ずつおこなってみましょう。
※ご注意)
痛みのためにこの姿勢ができない、またはこの姿勢をとると症状が悪化する時はやめてください。
すぐに効果が出てくるとは限りませんが、このストレッチを1日1~3回ほど、2週間から4週間ほど続けてみてください。
その他以下の記事で様々な腰痛・坐骨神経痛改善エクササイズをご紹介しております。
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文・指導/川口陽海
厚生労働大臣認定鍼灸師。腰痛トレーニング研究所代表。治療家として20年以上活動、のべ1万人以上を治療。自身が椎間板へルニアと診断され18年以上腰痛坐骨神経痛に苦しんだが、様々な治療、トレーニング、心理療法などを研究し、独自の治療メソッドを確立し完治する。現在新宿区四谷にて腰痛・坐骨神経痛を専門に治療にあたっている。
【腰痛トレーニング研究所/さくら治療院】
東京都新宿区四谷2-14-9森田屋ビル301
TEL:03-6457-8616
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