文/鈴木拓也

「もしかしてウチの親は認知症?」と思ったときにとるべき対策とは?|『親の認知症に気づいたら読む本』

平均寿命の伸びとともに、「人生100年」が当然のことと考えられるようになった昨今だが、加齢に伴う健康問題が解消されたわけではない。むしろ、深刻さの度合いを増していると言えそうだ。

その1つが認知症。厚生労働省の報告では、80~84歳の認知症発症率は約2割。これが85~89歳になると約4割に倍増し、90~94歳だと過半数を超えて約6割になる。5年後には、認知症患者数は約700万人と推定される一方で、(一部の認知症を除き)治癒がみこまれる治療法は確立していないが現状。

だから、「しっかりしている自分の親に限って認知症になることはないだろう」と楽観視するのは禁物と忠告するのは、川崎幸クリニックの杉山孝博院長だ。

杉山院長は、監修を務めた書籍『親の認知症に気づいたら読む本』(主婦の友社)の中で、「認知症の医療や介護の現場では、家族の知識不足が原因の混乱が非常に多く見られます」と指摘する。「うちの親に限って」という思い込みが、認知症に関する知識を遠ざけ、いざとなったときに、大変な事態をもたらすわけだ。

そうならないための情報が本書に詰まっているが、特に重要なのは認知症の兆候が見えたときの初動。
「親が明らかにおかしい」と実感せざるを得ないとき、あなたはまずどうするだろうか?

本書から、とるべき対策を紹介したい。

■最初にかかりつけ医を受診

親に認知症の疑いがある場合、まっさきに認知症の専門医のもとを訪れるのではなく、まずはかかりつけ医に診てもらうことを、杉山院長はすすめる。

かかりつけ医とは、日頃から親を含めた家族の健康状態を診てくれる身近な存在。以前から健康面の問題を把握しているので、何かあったときの対応が早くて正確。また、必要に応じ認知症専門の医療機関を紹介してもらえるし、紹介状や(介護保険申請時に必要な)意見書を書いてもらえるというメリットがある。

■地域包括支援センターに相談

各市区町村には、地域包括支援センターという名称の施設が設置されている。ここでは、認知症地域支援推進員や保健師など専門職が揃っており、「介護保険や福祉の制度の内容がよくわからない」、「自宅で介護ができるのかどうか不安」といった相談を受け付けている。

かかりつけ医がいないといった理由で、認知症の診療をどこで受けるべきかわからない場合も相談に乗ってくれるので、とても頼りになる存在だ。

■受診を親にすすめるコツ

どの医療機関を訪問するかという問題以前に、「親が受診したがらない」という大きな障壁が立ちはだかるかもしれない。

杉山院長は、「『私は病気ではない』と受診を拒否するケースが圧倒的に多い」と述べる。特に、行き先が精神科や精神神経科だと抵抗感はなお強くなるとも。

その対策についても、本書で幾つか述べられている。例えば、家族の誰かが「私の健康診断につき合ってくれない?」と誘う。あらかじめ医療機関にそのことを伝え、対応してもらう手間をかけてしまうが、有効な方法だ。あるいは、「保健所に健康診断に行きましょう」と誘う。地元の保健所が、もの忘れ相談の体制を整えているのが条件だが、親がとにかく「病院」嫌いな場合に使える。

■受診当日に付き添いが気をつけること

親が受診にOKしても、「〇月〇日に予約したのでそのつもりで」と、本人に伝えないほうがいいという。その理由について、本書では以下のように説明されている。

そう言われると本人は落ち着かなくなって眠れなくなったり、当日になって「行かない」「そんな約束はしていない」などと言い始めたりすることがあります。
そのため、受診日をあらかじめ知らせず、当日になってから「いっしょに行きましょう」と誘うのが適切です。(本書54pより)

当日になってどうしても「行かない」と言い張る場合、強引に連れて行くようなマネはご法度。医療機関に電話で事情を話してキャンセルし、また別の機会を探るのが賢明だ。

首尾よく受診できることになったら、付き添いは2人が理想的。これは、受付で手続きしたり、待合室にいて目を離した隙に「どこかへいなくなってしまう」リスクを避けるため。家族の1人が受付手続きをしている最中は、もう1人が親の相手をすれば万全。

■診断結果を親に告知すべきか

「インフォームド・コンセント」が既に常識となっている今の時代は、本人に病気を告知すべきという考えが大勢を占めている。しかし、高齢の親の認知症については、「非常にデリケートで難しい問題」だという。

本書では1つの考えとして「理解力や判断力が低下し、ゆったりと生活を送っている場合には、あえて告知をする必要はないかもしれません」とある。また、医師に「年齢のせいか、もの忘れが進んでいるようですので、治療しましょう」と、ソフトな言い方で説明してもらうのも手だ。

ダイレクトに告知してしまうのは、本人の精神的なショックが予想外に大きくて、筆舌に尽くしがたい恐怖や不安をもたらしてしまうリスクがある。医師にも相談し、最適な仕方をとるようにしたい。

*  *  *

自分の親が認知症にかかるというのは、受け入れ難いものだが、何もせずズルズル…というのはいけない。この病気も「早期診断・早期治療」が肝心で、治せるタイプの認知症の治療が手遅れにならずに済んだり、症状の進行をコントロールしやすくなるなど良い点が多い。本書では、初動以降の対策についても、介護・福祉サービスの利用、服薬の介助、介護保険の申請方法など、多岐にわたる情報があり役立つ。「もしかしてウチの親は認知症?」と思ったら、読んでおきたい1冊である。

【今日の健康に良い1冊】
『親の認知症に気づいたら読む本』

http://shufunotomo.hondana.jp/book/b468230.html

(杉山孝博監修、本体1,400円+税、主婦の友社)『親の認知症に気づいたら読む本』
文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライター兼ボードゲーム制作者となる。趣味は散歩で、関西の神社仏閣を巡り歩いたり、南国の海辺をひたすら散策するなど、方々に出没している。

 

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