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取材・文/わたなべあや

誰でも年を重ねると少しずつ身体の機能が衰えて、それまで当たり前のようにしていたことがだんだんできなくなってきます。加齢によって耳が聞こえづらくなる「老人性難聴」もそのひとつ。そのまま放置しておくと認知症になるリスクが高まると指摘されています。

そこで今回はこの「老人性難聴」について、東京医療学院大学保健医療学部リハビリテーション学科の上田諭教授に伺いました。なんと老人性難聴になると「認知症」になるリスクが増大する可能性があるとのこと。いったいどういうことなのでしょう?

■70代では約半数以上が老人性難聴

老人性難聴は決して珍しい症状ではありません。60代後半から次第に増えていって、70代前半では約半数、後半になると7割近くの方が発症します。

老人性難聴になると、誰かと話していても部分的に聞き取れない、何を言っているのか分からないということが起こります。もちろん、本人は聞こえにくいながらも一生懸命理解しようとするのですが、なかなか思うように聞き取れません。母音は聞き取れても子音が聞き取りにくくなり、たとえば「こばやし」という名前が「おああい」と聞こえるのです。

また、老人性難聴になると、会話による意思の疎通も困難になります。人は話の内容について、核心になる部分だけでなく、周辺のあまり重要ではない情報も無意識に拾って全体の意味を理解します。しかし、老人性難聴になると、得られる情報量が全体的に少なくなってしまうので、話の全体の意味が捉えにくくなるのです。

■認知症と間違えられることもある

老人性難聴になった人の多くが、聞き取りにくい、理解できないと思っても、なんとなく分かったような顔をしてしまう傾向にあります。人は、たとえ聞き取りにくくても、会話している相手との関係性を壊さないように気を配ります。何度も聞き返したりするのは失礼だ、言いたいことはなんとなく分かったからもういい、と思うのです。

さらに老人性難聴の場合、家族や医師など周囲の人は、「聞き取れていない」ということになかなか気付きません。そのため、「話したのに覚えていない」「物忘れがある」「もしかすると認知症なのでは」という疑念がふつふつとわいてくるのです。

そして、そうしたことが度重なると、認知症ではないのに認知症だというレッテルを貼られてしまう。いわば「偽の認知症」患者ができてしまいかねません。時折、そういう方が「物忘れがひどい」といってご家族に連れてこられるのですが、認知症ではなく単に聞こえていないだけということが実際にあります。

とはいえ、老人性難聴を放置すると、真の認知症つまり本物の認知症になるリスクも高まるといわれています。人と話がしにくくなるため、自然とコミュニケーションを取る機会が減っていき、聴覚を刺激される機会が減少。頭を使って何かを考えたり、意味を理解したりすることが少なくなり、脳の機能が劣化していくのです。また、脳の萎縮がより進んでしまうという研究結果もあります。そして、次第に認知能力が低下し、認知症が悪化するのです。

■補聴器の利用と調整が重要

このように老人性難聴になると、偽の、あるいは真の認知症のリスクを高まるのですが、いまのところ加齢による難聴を防ぐ治療法がありません。そのため、周囲の人が、「聞こえにくいのだ」ということに早めに気付いて、ゆっくり大きな声で話しかけることが大切です。また、社会全体が難聴の方に対する理解を深め、受け入れや交流について前向きに考える必要があります。

難聴であっても補聴器をつければある程度聞こえるようになるのですが、補聴器をつけることを好まない高齢者が多いという実態があります。つけ心地がよくない、あるいは雑音まで大きくなるなど音の調子が良くないという感想をよく聞きます。このため、数十万もする高額な補聴器をせっかく購入したのに、やがてつけなくなる人が多いのです。

補聴器の性能や装着感、デザインの洗練化が求められますが、実はこうした問題を少しでも解決するための方法があります。日本耳鼻咽喉科学会が認定した補聴器相談医がいるのです。補聴器相談医に補聴器の調整をしてもらうことで、使い心地が改善される可能性があります。

人との会話がしづらい、音が聞こえにくいと思われる方は、お近くの相談医に補聴器の調整をしてもらいましょう。耳の問題だけでなく、認知症のリスクも軽減できる可能性があります。

【参考リンク】
日本耳鼻咽喉科学会認定補聴器相談医名簿(出典:一般社団法人日本耳鼻咽喉科学会)

http://www.jibika.or.jp/members/nintei/hochouki/hochouki.html

談/上田諭先生
1957年、京都府生まれ。1981年、関西学院大学社会学部卒。新聞社勤務(記者)を経て1990年に北海道大学医学部入学。東京都多摩老人医療センター内科のち精神科、東京都老人医療センター精神科などに勤務。2007年、米国デューク大学メディカルセンター“電気けいれん療法研修”を修了。2007年4月に日本医科大学精神神経科助教のち講師。2017年、東京医療学院大学リハビリテーション学科教授。北辰病院(埼玉県越谷市)にて高齢者専門外来(週1回)。専門医・指導医:日本精神神経学会、日本老年精神医学会、日本総合病院精神医学会。著書『治さなくてよい認知症』(2014、日本評論社)『不幸な認知症 幸せな認知症』(2014、マガジンハウス)、編書『認知症はこう診る』(2017、医学書院)など。

取材・文/わたなべあや
1964年、大阪生まれ。大阪芸術大学文芸学科卒業。2015年からフリーランスライター。最新の医療情報からQOL(Quality of life)を高めるための予防医療情報まで幅広くお届けします。趣味と実益を兼ねて、お取り寄せ&手土産グルメも執筆。

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