文/鈴木拓也
日本では100歳以上の百寿者の数は、いまや7万人近く。他国に比べて飛びぬけて多いが、その理由は何であろうか?
それを解き明かすべく様々な医学的研究が進められており、多くのことが分かってきている。例えば、健康・体力づくり事業財団による「全国100歳老人の1/2サンプルの横断的研究」によれば、百寿者の8割が、腹8分目を心がけつつ3食きちんと摂り、魚を2日に1回以上の頻度で食べていることが判明している。
こうした調査・研究結果を下敷きにしながら、長寿者の特徴について最新の知見をまとめたのが、10月に刊行された新書『「日本人の体質」研究でわかった長寿の習慣』(青春出版社)だ。
著者は、内科医として健診・人間ドック施設で20万人以上を診てきた奥田昌子医学博士。日本人の体質に即した健康改善に関する著書を、すでに数冊上梓している。
本書の内容は、世界三大長寿村の食生活や香港の平均寿命が急速に伸びた理由など、海外事情も含めて多岐にわたるが、なかでも関心が惹かれるのが、日本人の長寿の秘訣。著者によれば、100歳を超えてもなお元気な人には、以下のような幾つかの共通点があるという。
■百寿者には魚好きが多い
健康・体力づくり事業財団の調査などから分かるように、百寿者には好んで魚を食べている人が多い。
魚が健康に良いのは、これに含まれる脂肪酸のEPA(エイコサペンタエン酸)とDHA(ドコサヘキサエン酸)が、「中性脂肪を減らし内臓脂肪をつきにくくする作用があるから」と著者は論じている。
体につく脂肪には皮下脂肪と内臓脂肪があるが、日本人は脂肪を摂りすぎると内臓脂肪をためこみやすいという体質がある。余計な内臓脂肪からは、血圧や血糖値を上げ、動脈硬化を進め、がんや認知症のリスクを高める物質が分泌される。そのため、魚食の習慣は、内臓脂肪を素因とする様々な病気を予防することになる。
105歳まで生きた日野原重明医師も週に5日魚を食べていたが、「青魚を中心に、週に3回」食べれば十分とのこと。
■百寿者には体をよく動かす人が多い
百寿者の約半数は、毎日のように散歩(ウォーキング)や体操をしている。
ウォーキングは有酸素運動といって、(健常な状態と要介護状態の中間である)フレイルや認知症の予防に有効なことが分かっている。その理由はやはり内臓脂肪。有酸素運動を継続することで、内臓脂肪が適正なレベルまで減り、アディポネクチンという物質の分泌が増える。この物質は、がんや糖尿病を含む生活習慣病になりにくくする効果があり、百寿者の血液にはアディポネクチンが多い傾向があるという。
一方で筋力トレーニングも有効。特に脚を鍛えると、(筋肉の衰えがからむ)転倒を防げるだけでなく、全身の血のめぐりも改善され、心臓と肺の機能が高まると著者は述べる。
■肉を食べれば本当に長生き?
著者は、「肉をよく食べる高齢者は長生きする」という最近よく聞く話は要注意だとする。
というのも、この説の出どころは、「たいてい1970~1980年代に行われた調査」で、この時代の日本人は、それまで不足気味であった蛋白質の摂取量が上昇。そのため、蛋白質の不足で起きやすい脳出血が減ってゆき、日本人の平均寿命を押し上げた。
今では十分すぎるほど動物性蛋白質が摂取できており、むしろ摂りすぎが問題になりつつあると著者は警告する。また、本書に出てくる米国人研究者による論文では、筋力が低下している高齢男性が必要以上に蛋白質を摂ったところで、そのぶん筋力・筋量がアップするわけではないことが確かめられている。何事も、ほどほどが肝心ということなのだろう。
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本書では、食や運動にかかわる生活習慣のほかに、長寿者の心理的な側面にも触れているが、これもなかなか興味深い。
内閣府の世論調査では、若い人を含む成人の実に3人に2人が「悩みや不安を感じている」という結果が出ている。
それに対して、百寿者の約8割が「毎日気分よく過ごせる」、「将来に不安を感じていない」と回答(前出の健康・体力づくり事業財団の調査)。中には「これからのことに夢や希望を持っている」と答える人もいて、現役世代とは対照的だ。
もっと若い平均年齢67歳を対象にした別の調査でも、「人生に目的を持っている」とか「人生に前向きに取り組んでいる」と答えた人たちは、死亡率や脳梗塞の発症率が低いというデータが出ている。
これに基づき著者は、「困難にみまわれても『大丈夫、何とかなる』『これからよくなる』と未来に目を向ける」習慣を勧めている。
「気の持ちよう」とよく言われるが、これは健康面において紛れもない真実。ご長寿たちをお手本に、もっと前を向いて生きようではないか。
【今日の健康に良い1冊】
『「日本人の体質」研究でわかった長寿の習慣』
http://www.seishun.co.jp/book/20412/
(奥田昌子著、本体980円+税、青春出版社)
文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライター兼ボードゲーム制作者となる。趣味は散歩で、関西の神社仏閣を巡り歩いたり、南国の海辺をひたすら散策するなど、方々に出没している。