取材・文/わたなべあや

腰痛トレーニング研究所の川口陽海(かわぐち・はるみ)さんは、自身も長年腰痛に悩んだ末に、独自の腰痛緩和メソッドを編み出し、これまで1万人もの腰痛に悩む人を治療してきました。本連載では、そんな川口さんの過去の治療事例を元に、腰や脚の痛みやしびれの解決法を実例と共にご紹介します。

慢性的な痛みは、目に見えるものではないので、なかなか人に伝わりにくいもの。しかし、本人は非常につらく、そのまま引きずっていては生活の質も低下してしまいます。長い人生、腰痛など体の痛みに悩む方々は、ぜひご一読を。

*  *  *

今回の相談者は、高野信之さん(仮名・53歳)、身長170cm、体重78kgの会社員。電車で通勤していますが、1時間半立ったまま。逆に、仕事中はほとんど動くことがなく、座りっぱなしです。特に、運動はしていません。

起床時に起き上がる時や寝返りを打つ時、長時間立ちっぱなし、あるいは座っていた後に腰痛に襲われました。あまりにもつらいので病院でMRI検査を受けたところ、「椎間板ヘルニア」だということが分かったのです。

「昔から軽い腰痛はありました。しかし、3年前にぎっくり腰で動けなくなり、それからずっと慢性的な痛みに悩まされてきたのです。病院では椎間板ヘルニアと診断され、痛み止めを処方されたのですが、あまり効果は感じられませんでした。

リハビリに通いながら電気治療やけん引、マッサージを受けてみましたが、結果は思わしくなく。腹筋を鍛えなさいと言われてスポーツクラブに通ったのですが、かえって悪化してしまいました。

鍼灸治療やカイロプラクティックも試したのですが、一時的に痛みが和らいでも、またすぐにぶり返すといったことの繰り返しでした」

さらに、高野さんは、病院では、「ヘルニアが神経を圧迫するため痛むので、薬などで様子を見ても改善しないようなら手術も必要」と言われたのです。

話を聞いた川口さんは、「椎間板ヘルニアという診断は間違いないと思います。しかし、痛みがそこからきているのではない可能性もある」と考えました。

「椎間板が正常で、ヘルニアがなくても、ものすごく痛いという人もいます。しかし、MRIなどの画像診断でヘルニアが発見されても、腰痛とは関係ないことが多々あるのです。世界的にも、ヘルニアが痛みの原因になることはあまり多くないと考えられています。

高野さんの場合は、トリガーポイント(痛みをもたらす筋肉等のコリ)が腰痛の原因ではないでしょうか。まず、筋肉を緩める治療を行い、その後、運動療法をしてみましょう」

腰痛をもたらすトリガーポイント(筋肉のコリ)にはパターンがある。

では、川口さんの施術法を見てみよう。まず、川口さんは、高野さんの姿勢や動作を確認しました。

「高野さんの姿勢を見ると、腰の反りが強くて、少しお腹が出ています。インナーマッスルが弱って、腰に負担がかかる典型的な姿勢です。前かがみになったり、体を右に曲げたりひねったりする時、つま先立ちや右足で立つ時などに腰、特に右側に痛みが出るでしょう」

「腰が反っているのは、腸腰筋や大腿四頭筋などの筋肉が緊張しているのではないでしょうか。腰の反りが強くなると筋肉の緊張が強くなったり、背骨の関節の負担が大きくなったりして、痛みが出てしまいます。そして筋肉の緊張は骨盤自体を引っ張って、さらに前に傾けてしまいます。」

次に川口さんは、横になっている高野さんの筋肉に触れて、痛みの原因になっているトリガーポイント(筋肉のコリ)を探しました。痛むところに直接触れるのではなく、痛みの原因になっている筋肉を触るのですが、高野さんはいつもと同じ痛みを感じます(これを「再現性がある」と言います)

高野さんの場合、背骨や神経を刺激しているわけではないのに、腰の、いつも痛む部分に何か響くような痛みを感じました。お尻の筋肉のコリが腰痛の原因とわかったので、まずは川口さんの手技で、その部分の筋肉を10~15分ほど緩めてもらいました。すると、腰の痛みを感じなくなり、ベッドからスムーズに起き上がり、立つこともできるようになったのです。

1回目の施術後、自宅で、痛みの原因になっている筋肉をテニスボールでほぐす「セルフリリース」(ボールほぐし)を行った高野さん。ボールほぐしは、テニスボールを腰や臀部の狙った筋肉にあてるだけなのに、次第に痛みが和らいでいくのを感じました。7日間続けたところ、寝返りを打った時や起床時の痛みはほぼ無くなり、昼間の痛みも以前より軽減。10日目からは、ボールほぐしとストレッチに加え、体幹インナーマッスルのトレーニングも行いました。

さらに1か月経過する頃には、痛みが残ってはいるものの全般に回復傾向に。そのため、1日15分のウォーキングもメニューに加えました。

7週目には、痛くてつらいということがほとんどなくなり、気持ちも明るくなってきた高野さん。ウォーキングの時間も30分に増やし、8~9週目には、問題なく日常生活を送れるまでに回復したのです。

*  *  *

以上、今回の高野さんへの施術ポイントをまとめておきましょう。

【施術ポイント】 
(1)中殿筋というお尻の筋肉のトリガーポイントをゆるめる
(2)同じポイントを自分でもテニスボールを使ってゆるめる

「私自身が、かつて腰椎椎間板ヘルニアの診断を受け、ひどい腰痛坐骨神経痛に18年以上悩まされました。しかし、トリガーポイント治療や運動療法を研究して実践した結果、手術をせずに完治することができたのです」と語る川口さん。

本稿では、椎間板ヘルニアをはじめ、脊柱管狭窄症や腰椎分離すべり症など、腰や脚の痛みやしびれの解決法を実例と共にご紹介していきます。ご期待ください。

【今日のポイントまとめ】
(1)ヘルニアがあっても無害なことが多く、手術が必要なケースは少ない。
(2)痛みはこり固まった筋肉=トリガーポイントが原因
(3)こり固まった筋肉=トリガーポイントをゆるめる治療やセルフケアで、痛みは改善できる


指導/川口陽海
厚生労働大臣認定鍼灸師。腰痛トレーニング研究所代表。治療家として20年以上活動、のべ1万人以上を治療。自身が椎間板へルニアと診断され18年以上腰痛坐骨神経痛に苦しんだが、様々な治療、トレーニング、心理療法などを研究し、独自の治療メソッドを確立し完治する。現在新宿区四谷にて腰痛・坐骨神経痛を専門に治療にあたっている。

腰痛トレーニング研究所/さくら治療院
東京都新宿区四谷2-14-9森田屋ビル301
TEL:03-6457-8616
http://www.re-studio.jp/index.html

取材・文/わたなべあや
1964年、大阪生まれ。大阪芸術大学文芸学科卒業。2015年からフリーランスライター。最新の医療情報からQOL(Quality of life)を高めるための予防医療情報まで幅広くお届けします。趣味と実益を兼ねて、お取り寄せ&手土産グルメも執筆。

イラスト/上田耀子

 

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