取材・文/編集部
東京・浅草は新仲見世通りに店を構える高久は、創業80年の江戸小物・雑貨商である。「扇子、羽子板、人形、履物から各種江戸小物まで、幅広く扱っています」と語るのは社長の鷹合豊一さん。父親が創業した高久を引き継ぎ、事業を広げてきた。
「元々は人形専門店でしたが、親父が亡くなって私が継いでから、扇子を手始めに扱う商品を増やしてきました」高久の扇子や人形は、いまや外国人観光客にも人気の浅草みやげとなっている。
下駄を扱い出したのも、元々扱っていた雛人形が縁だった。「人形の生産で有名なのは埼玉県の岩槻や鴻巣ですが、菱餅や三宝といった道具類の職人は静岡にいました。実は人形の道具作りと下駄作りとは技術的なつながりがあり、静岡では下駄も生産していました。そこで古くから付き合いのある職人を通じて下駄の職人を紹介してもらったり、道具作りで余った端切れを鼻緒に使わせてもらったりして、ウチの下駄を作ってもらうことになりました」
高久の店先には種々の下駄が並ぶが、なかでも最近よく売れているのが「八ツ割下駄」である。下駄の台の部分に切り込みが入れられ、足に合わせて全体がしなるから、一般的な下駄より足に馴染んで履きやすい。
足裏側には竹で編んだ表(おもて)が貼られ、接地側にはゴム底が貼られる。「スニーカーの原型のようなものです。あまり見かけないかもしれませんが、じつは江戸以来の歴史ある伝統の型なんです」元は片足が四ツ割で、両足で「八ツ割」となっていたが、やがて改良されて現在の片足六ツ割になったという。
しなりがあるため、表やゴム底を貼るにも鼻緒をすげるにも技術が必要な、職人泣かせの下駄というが、足に心地よくフィットするその履き心地は抜群。「ためし履きのため店に来るお客さんもいますが、履けば足に馴染む感じが一発でわかりますよ」そして履き続けるうちにどんどん足に馴染むから、何十年も履き続けるというお客さんもいるという。「ゴム底は減ってきたらウチのほうで貼り替えます。なかなか買い替えてくれないのでウチとしては困っちゃいますけどね」と鷹合さんは笑顔を見せる。
表は明るい色の茶竹と、黒味が渋い鴉の二種。下駄の顔とも言える鼻緒にもこだわって、似合う組み合わせを日々研究しているという鷹合さん。「下駄は鼻緒との組み合わせが大事です。茶竹にはトンボ柄、鴉には縞を合わせてみたら様子が良かったので、定番の組み合わせとして出しています」どちらも和装だけでなくジーンズにもよく似合う。「雪駄と違って音も出ませんし、まさにスニーカー感覚で履いてもらえます」
下駄の製造を担っているのは、静岡駅からほど近くの街中にある安井康太郎商店。下駄作り一筋の小さな製造元だ。
「下駄作りは分業化されていて、専門の職人が方方にいます。私どものところでは下駄の企画をし、職人たちに作業を依頼しています」と語るのは安井孝子さん。ご主人と二人三脚で同店を切り盛りしている。「たとえばこの八ツ割下駄は、表は東北で、台は四国で、それぞれ作ってもらっています。それをウチで仕上げて高久さんに納めています」
最終仕上げとも言える鼻緒をすげる工程を見せていただいた。千枚通しで表から台へと穴を空け、糸を通して結んでいく。鮮やかな手つきですげていく安井さん。30分ほどかけて一足の八ツ割下駄を仕上げた。
「八ツ割はすげるのに普通の下駄の3倍くらい時間がかかります。あまり多くは作れませんので、大量の注文は受けられないのです」近頃では各工程の職人も高齢化し、若い後継者もなかなかいないという。安井さんは出来上がった八ツ割下駄を眺めながら「いつまで続けられるかわかりませんが、できるかぎり作り続けていきたいですね」としんみり語った。
取材・文/編集部
※今回取材した浅草高久の八ツ割下駄は小学館の通販メディア「大人の逸品」で販売しています。
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