取材・文/わたなべあや

『認知症リスク減!続々国循のかるしおレシピ』(セブン&アイ出版)より「ほうれん草とぶりのビビンバ丼」(写真/松久幸太郎)

認知症は、一度発症してしまうと治療するのは難しい病気です。根治薬を開発するための治験は200以上実施されましたが、いまのところ効果は確認されておらず、世界的に「認知症になる前に予防する」という考えが主流になっています。

国立循環器病研究センター(以下、国循)では、アメリカの研究で認知症予防に効果があったマインド食に国循の「かるしお」という減塩食をプラスして、日本人に合った認知症予防のための食事法を提案しています。今回はその要点をご紹介しましょう。

■認知症は、予防する時代に

認知症には、アルツハイマー病のほか、脳梗塞が原因となる血管性認知症があり、この2つの認知症が合併している認知症も多いと考えられています。

アルツハイマー病には、基本的に治療法も予防法もないと考えられていて、特に、根治できる薬はありません。しかし、アルツハイマー病の最大の原因は加齢による老化なので、高血圧や糖尿病などの生活習慣病、脳梗塞を予防することができたら、進行や発症を抑制することも夢ではありません。特に、アミロイドβという物質が血管内にたまらないように動脈硬化予防すること、すなわち、しなやかな血管を維持することは、非常に有効な予防法になり得るのです。

さらに、生活習慣病予防や脳梗塞予防は、血管性認知症の予防にもつながるため、2つの認知症を同時に予防できると考えられます。

■攻撃因子と防御因子

予防のために若々しい血管を保つ必要がありますが、そのためには高血圧や糖尿病などの生活習慣病、脳梗塞といった攻撃因子を抑制するのと同時に、防御因子、つまり運動や食事の質を高めることも重要です。しかし、誰もが仙人のような生活ができるわけではありません。すべてにおいて体に良いとされることを実践するのは困難ですが、運動と食事の質を見直し、「より良くする」ことは可能です。

デュアルタスクといって、頭を使いながら体を動かそうという取り組みも有名ですが、食事は、三度三度のもの、年間1,000回以上も食べるので、最も有効性が高い認知症予防法と考えられています。

さまざまな食品に関して、認知症予防に効果があるのではないかと研究が進められてきましたが、やはり、ひとつの食品をたくさん摂取しても認知症予防はできません。いろんな良い食品を、幅広く摂取する必要があります。実は、それが「マインド食」なのです。アメリカで実施された調査では、80数歳の人を対象にマインド食を5年間続けた結果、アルツハイマー病になる確率が53%減少したのです。

■認知症予防できる!マインド食とは

マインド食とは、地中海式ダイエットとダッシュ食という2つの食事法を組み合わせた食事法です。地中海式ダイエットは、生活習慣病や心疾患予防が期待できる食事法で、ダッシュ食は高血圧予防を目的とした食事法です。いずれも厳格な食事法なので実践するのが難しいのですが、マインド食は非常に緩やか。「推奨される食材」と「避けるべき食材」が決められていて、それぞれ一週間ごとに摂取する回数が決められているのですが、避けるべき食材、たとえばお菓子も食べてはいけないというものではありません。

ただ、日本人に比べ、欧米人は塩分摂取量が少ないため、マインド食には塩分の制限がありませんでした。そのため、国循では、マインド食に国循の減塩食「かるしお」をプラスした食事法を提案しています。

マインド食で「推奨される食材」「避けるべき食材」

「推奨される食材」
緑黄色野菜:週6日以上
その他の野菜:1日1回以上
ナッツ類:週5回以上
ベリー類:週2回以上
豆類:週3回以上
全粒穀物:1日に3回以上
魚:なるべく多く
鶏肉:週2回以上
オリーブオイル(エキストラヴァージン):優先して使う
赤ワインもしくは緑茶(抹茶):1日グラス1杯

「避けるべき食材」
赤身の肉:週4回以下
バター:なるべく少なく
チーズ:週1回以下
お菓子:週5回以下
ファーストフード:週1回以下

「避けるべき食材」を決められた回数以下に抑え、推奨される食材は、決められた回数以上摂取するのですが、15項目のうち10項目の要件を満たしていれば良いので、マインド食は無理なく続けられる食事法です。また、ひとつひとつの食材は、認知症予防に有効ということが証明されています。いずれの食材もまんべんなく食べ、塩分は1日6gまでに抑えるようにしましょう。

エキストラヴァージンオリーブオイルやベリー類、ナッツ類は、日本人にとって馴染みの薄い食材かもしれませんが、国循では、これらの食材を取り入れやすいレシピを考案しています。エキストラヴァージンオリーブオイルは、えごま油など良質なオイルに変えても構いません。脳の成分は脂質が非常に多いので、摂取する油分にもこだわりたいものです。

認知症予防のために、イギリスでは国が主導してパンの塩分含有率を減らすなどして、国を挙げて減塩に取り組んだ結果、認知症患者を30%減らすことに成功。中国やフィンランドからも軽度認知症患者を対象に、動脈硬化など血管トラブルを引き起こす病気の治療や管理などを行った結果、有意であったとの報告がされています。

無理なく続けられる「マインド食+かるしおレシピ」。詳しいレシピは『続々国循の認知症リスク減!かるしおレシピ』(セブン&アイ出版)にたくさん紹介されています。ぜひ日々の食事に取り入れてみてください。

『認知症リスク減!続々国循のかるしおレシピ』(セブン&アイ出版)より「チンゲン菜のナッツ炒め」(写真/松久幸太郎)

『認知症リスク減!続々国循のかるしおレシピ』(セブン&アイ出版)より「まぐろのたたきマリネ」(写真/松久幸太郎)

『認知症リスク減!続々国循のかるしおレシピ』(セブン&アイ出版)より「ブルーベリーと白桃の赤ワインゼリー」(写真/松久幸太郎)


指導/猪原匡史さん(いはら・まさふみ)
平成7年京都大学医学部卒業.京大病院、西神戸医療センターで内科研修を行い,京都大学博士(医学)取得後,認知症の研究のために英国ニューカッスル大学に留学.帰国後に京大病院等を経て平成25年より国立循環器病研究センター脳神経内科医長,平成28年より同部長.患者さんの生涯健康脳を目指し,「循環器病予防が一番の認知症予防!」を合言葉に日々診療と研究に従事.国循脳神経内科の活動はこちら

取材・文/わたなべあや
1964年、大阪生まれ。大阪芸術大学文芸学科卒業。2015年からフリーランスライター。最新の医療情報からQOL(Quality of life)を高めるための予防医療情報まで幅広くお届けします。趣味と実益を兼ねて、お取り寄せ&手土産グルメも執筆。

 

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