取材・文/わたなべあや

なんとなく体に不調を感じているのに、これといった病名もつかず、決め手になるような治療法もなく、もんもんとしている。もしかしたら、あなたは「感情の便秘(言いたいことが言えず、人知れず我慢している様)」に陥っているのかもしれません。

やすらぎ内科院長の新谷卓弘先生にお話を伺いました。

■未病とは「氣」が失調した状態のこと

ストレスが続き、なんだか疲れやすい、体がだるい、頭が重い気がするなど不快な症状が続いている。ところが、病院で血液検査をしても、レントゲンやCT、MRI、PETなどを撮っても、どこも悪くないと言われてしまう。そのような状態を西洋医学では、「不定愁訴」と呼び、特に治療をしてもらえません。

不定愁訴のような状態を東洋医学では、「未病(病気に向かいつつある半健康状態のこと)」と言います。中国最古の医学書、『黄帝内経(こうていだいけい)』にも「未病」についての記載がありますが、私なりの解釈をいたしますと、体調が悪く感じられるのは、「気のせい」ではありません。私たちの元氣を支えている「氣」の失調のせいととらえています。

ちなみに、気の字の「メ」は、〆切を意味しますので、閉鎖的で、それで終わりというクローズドなイメージとなります。一方、「氣」には、エネルギーが中心から四方八方へと飛び出して、広がりを示す「米」という文字が用いられ、オープンなイメージがこめられているのです。そのためここでは、明るいイメージのある「氣」の文字を、私たちの生命活動を支えている「生命エネルギー」を意味するものとして用います。

■「感情の便秘」に陥りやすい人の5大特徴

「感情の便秘」におちいりやすい方、特にストレスを耐え忍んで我慢してしまう方は、お腹にガスがたまりやすく、しかもゲップをすることが苦手なので、ますますお腹にガスがたまりやすくなります。ゲップを出せないというのは、他人に迷惑をかけたくないという思いやりだと思われ、ですから「いい人」や「がんばり屋さん」が多いのです。

「感情の便秘」ではなく実際に便秘しやすい方、ご飯を早く食べる方、ヨーグルトなどの乳製品を頻繁に食べる方、ガムをよく噛む方は、お腹にガスがたまりやすいのです。しかし、このような習慣がないのに、お腹によくガスがたまる場合、東洋医学では「氣うつ(「氣」の巡りが悪くなっている状態)」と診断します。

以下の症状にあてはまるかどうか考えてみましょう。

(1)あれこれ考えこんで、なかなか寝つけない(床について30分以上しないと眠れない)

(2)睡眠中に歯ぎしりをする(歯科医からマウスピースを勧められた方も含みます)

(3)起床時に夢を見やすい(悪夢のことが多いようです)

(4)起床時に頭重を感じやすい(昼間のかみしめや、睡眠中の歯ぎしりと関連します)

(5)平らなところなのに、つまづきやすい(考え事が多い)

以上のうち3項目以上あてはまる方は、「感情の便秘」になりやすい方だといえます。実は、こうした症状の背景にあるのは、「心配性」なのです。

■東洋医学では「感情の便秘」にどう処方するか

心配性の方は、つい先々のことを考えすぎてしまいがち。あんなことが起きやしないか、こんなことが起きやしないかと最悪のシナリオを想定します。すると、足先まで氣が行かず、つまづいたり、考えごとが多くなったり、かえって頭がさえて眠れないことが起きやすくなったりするのです。

さらに心配性の方は、ストレスをかわすか、じっと耐えるか、戦おうとするのですが、いずれの方法を選ぼうとも、体のどこかに「力み」が生じます。このため、無意識に歯を噛みしめてしまうのです(噛みしめることで、力みが入りやすくなるからです)。歯を噛みしめることで唾液が出やすくなり、その唾液を飲み込む時に空気も飲み込むため、胃腸にガスがたまりやすくなります。

こうした方は、いろいろ言いたいのに自分の気持を押し殺し、じっと歯を噛み締めながら耐え忍んで、「感情の便秘」に陥っている・・・。そのような状態だと考えてみてください。

このようにがんばり屋さんで、「感情の便秘」からお腹にガスがたまりやすくなり、氣がうまく巡らなくなった方には、「抑肝散(よくかんさん)」という漢方薬を処方します。「抑肝散」は、小児の夜泣きや不眠、介護する人に抵抗する、認知症の方を従順にする薬として使われてきました。

一方、最近では、ストレスに振り回されて、我慢をしいられている方たち(やんちゃな子供を育てている親や、認知症患者にふりまわされている介護者の方々など)への「ガス抜き剤」として抑肝散が用いられるようになってきました。抑肝散は、さまざまなストレスを抱えている方の、一服の清涼剤にもなり得るのです。

談/新谷卓弘 先生
1983年 富山医科薬科大学医学部卒業後、飯塚病院漢方診療科医長、富山医科薬科大学。和漢診療学教室医局長、鐘紡記念病院和漢診療科医長、岡山大学医学部講師(東洋医学)、近畿大学東洋医学研究所教授、森ノ宮医療大学保健医療学部鍼灸学科教授を歴任し、2016年9月に埼玉県さいたま市にて「やすらぎ内科」を開院。2007年12月、富山大学医学部 和漢診療学講座同門会会長。『心に効く漢方~あなたの「不定愁訴」を解決する』(PHP研究所)、『最新情報 漢方』(NHK出版、共著)、『現代漢方を考える』(薬事日報社、共著)、『冷え症・むくみ。ホントなの ウソなの』(環健出版社)、『専門医のための漢方医学テキスト』(共著、社団法人日本東洋医学会)など執筆。

取材・文/わたなべあや
1964年、大阪生まれ。大阪芸術大学文芸学科卒業。2015年からフリーランスライター。最新の医療情報からQOL(Quality of life)を高めるための予防医療情報まで幅広くお届けします。趣味と実益を兼ねて、お取り寄せ&手土産グルメも執筆。

 

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