文/鈴木拓也
運転者の交通死亡事故件数は、年齢層別に見ると75歳から急増し、ハンドルやペダルの操作ミスによるものが目立ち始める。そして最近は、高齢者の認知機能低下に起因する痛ましい事故が報道されるようになって、シニア運転者の免許証の自主返納を促す風潮が高まっている。
一方で、シニア運転者にとって車の運転は「脳の老化を防ぐ一つの手段である」と言うのは、NPO法人 高齢者安全運転支援研究会の岩越和紀理事長だ。著書の『運転をあきらめないシニアの本音と新・対策』(JAFメディアワークス)で、岩越理事長は、「脳の柔軟さを保つための自分なりの工夫と努力をしながら、安全運転を続けるのも、また、健康な人生への選択肢ではないだろうか」と、まだまだ元気なシニア運転者にエールを送る。
とはいえ、齢70を過ぎれば若い頃とまったく同じようにはいかないのも事実。自身の運転傾向の変化を冷静に見つめ、対応策をとるのも運転寿命を延ばす賢いやり方だろう。そのため、本書では「18の本音と新・対策」と銘打って、シニアの運転傾向と安全運転を続けるコツが記されている。
例えば、どのような傾向と対策があるのだろうか? 本書からいくつかを紹介したい。
■歩行者や自転車に気づかず、ヒヤリ
左折しようとしたら、目の前の横断歩道を親子乗りの自転車が赤信号への変わり目をものともせず横断していく。あわてて急ブレーキを踏み、肝を冷やす。
岩越理事長は、右左折の衝突事故は「シニアが起こす事故の典型としてニュースで取り上げられる」と指摘。「どんな状況であろうと右左折時には横断歩道の手前や停止線でいったん停止」を遵守するようアドバイスする。
危険を察知してからブレーキを踏むまでの反応時間は、高齢になるほど少しずつ長くなるので、「飛び出すかもしれない」という想定のもと注意を怠らないのも大事。さらに、JAFウェブサイトにある「実写版 危険予知トレーニング」(http://www.jaf.or.jp/eco-safety/safety/kyt/)の活用をすすめている。
■ブレーキのつもりがアクセルだった!
コンビニなどの駐車場で、何度かハンドルを切り、アクセルとブレーキを小刻みに踏み変えているときに、うっかりペダルを踏み間違えかけてヒヤリとする。
ペダルの踏み間違え事故は年間6千件を超えるが、やはりシニア運転者による事故が多い。岩越理事長は、「ブレーキペダルの位置を常に意識すること。慌てず、一つずつの操作のたびにしっかり止まる」ことを習慣づけるのが、こうした事故を防ぐカギだとする。
また、「ペダル踏み間違い時加速抑制装置」の導入も検討の価値があるという。これは、前・後方に障害物がある状態でアクセルを踏み込んだ際に作動して、エンジン出力を抑制したり、ブレーキによる制御を行う装置。もっとも、センサーが障害物を認識しないと装置は作動しないので、過信せず、周囲の状況やシフトレバーは目視確認を徹底したい。
■またウインカーを出し忘れた
運転中に気がかりだったことを思い出し、目は交通の対象物を捉えているのに、頭の中では別のことを考えていることがよくある。そのせいで、右左折の際にウインカーの出し忘れることは、一度や二度ではない。
岩越理事長は、「運転中であることを脳に意識させるには、声を出しての安全確認」をすすめる。右左折のときにミラー、ウインカー、目視というように確認する順番を決めて、「左ウインカーよし」というふうに声を出して確認。脳の刺激にもなり、注意力も向上するという。
岩越理事長がもう1つ指摘するのが、高齢になると「注意分割機能」(2つ以上のことを同時に行う時に、それぞれに適切に気を配る機能)が衰える点。ウインカーの出し忘れも、これが関係している可能性があるため、脳の機能を高められる脳トレ(新聞記事を音読など)を本書に掲載している。
* * *
2017年から75歳以上の高齢者が免許を更新の際、「認知機能検査」の受検が強化された。検査の結果、医師の診断を経て認知症とされた場合、運転免許証は更新できず返納することになる。これから75歳を迎え、この検査に不安感をおぼえる人向けに、本書の後半(PART 2)では、検査の手順・内容と、検査前の「8つの心がまえ」が記されている。心がまえには、「見当識を鍛えるために普段から日付や時刻を意識」しておくなど、検査当日に日頃の実力を発揮できるようアドバイスがなされている。
このように本書は、シニア特有の不安を抱える運転者に有用な1冊としてよくまとめられている。これからも自分で運転を楽しみたい方には、一読をおすすめしたい。
【今日の健康に良い1冊】
『運転をあきらめないシニアの本音と新・対策』
https://www.jafmw.co.jp/products/seniordrive.html
(岩越和紀著、本体税込1,836円、JAFメディアワークス)
文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライター兼ボードゲーム制作者となる。趣味は散歩で、関西の神社仏閣を巡り歩いたり、南国の海辺をひたすら散策するなど、方々に出没している。