ノーベル賞受賞で注目!「体内時計」の研究でわかった健康生活2つの原則

文/中村康宏

私たちの生活の大部分を占める睡眠・食事・仕事が、人体に大きな影響を与えていることを、皆さんはご存知でしょうか? 今回は、本年度のノーベル賞受賞で注目を集めている「体内時計」が体へ与える影響についてご紹介しましょう。

■ノーベル賞で注目の「体内時計」とは

2017年10月2日、ノーベル医学・生理学賞受賞者が発表されました。今年は、ホール博士(Jeffrey C. Hall)、 ロスバシュ博士(Michael Rosbash)、ヤング博士(Michael W. Young) の3人が発見した「体内時計の分子生理学的仕組み」が受賞となりました。

ラテン語の「circa diem(約1日)」という言葉に由来する《サーカディアン(circadian)リズム》は、「概日(がいじつ)リズム」や「体内時計」として広く知られる昼と夜を作り出す1日の体内リズムのことです。これは、バクテリアを含む全ての生物に確認されています。

この体内リズムの研究は、18世紀のフランスの天文学者ジャン=ジャック(Jean Jacques d’Ortous de Mairan)が、暗室に置いたオジギソウが光の有無に関わらず24時間周期に葉が立ったりしおれたりする周期的な動きを観察し、体内時計の存在を考えたことに起因します。

1970年代には遺伝子解析技術が進歩し、ベンザー博士(Seymour Benzer)とコノプカ博士(Ronald Konopka)によって、遺伝子に体内時計があることが証明されました。彼らは、ショウジョウバエに突然変異を起こし,その子孫の行動を観察したところ,X染色体のある領域に,体内時計に関わる遺伝子(時計遺伝子)があることを突き止めたのです。

そして、この「時計遺伝子」(TIME遺伝子、PER遺伝子)を最終的に特定し、その機能を解明したのが,今回ノーベル賞を受賞した3人なのです。

2017年、「体内時計の分子生理学的仕組み」でノーベル医学・生理学賞を受賞した3人。右から Jeffrey C. Hall博士, Michael Rosbash博士、Michael W. Young博士(引用:https://indiaeducationdiary/


■体内時計と生活サイクルの不一致は、様々な健康障害に関与していた!

体内時計は「時計遺伝子」によって生み出され、血圧、体温、消化酵素や内分泌ホルモンの分泌周期、睡眠覚醒サイクル、免疫反応などをコントロールします。手や足などの全身の細胞にも時計遺伝子は存在し、細胞周期のコントロールや、傷ついたDNAの修復に関与します。

体内時計の自律性は、外部環境(光、睡眠、食事など)に影響を受けます。とくに、光刺激は、網膜の光を感じる細胞(ipRGCs)を介して、体内時計の中枢である脳の視交叉上核へ伝達されるため、その自律性へ与える影響が大きいのです。

現代の社会では、シフト勤務の増加や、パソコン・スマートフォンの長時間使用などで、光への曝露時間が長くなってきています。この体内時計と生活リズムの不一致が、慢性的な心身へのストレスを起こしていると考えられているのです。

例えば、肥満・糖尿病・高血圧・癌などを発症しやすくなる、疲労が蓄積しやすくなる、肌が荒れやすくなるなど、身体に現れる影響は多岐に及びます。国際がん研究機関 (IARC)は「シフト勤務は発癌に関与する可能性がある」と結論づけているのです。またシフト勤務者を対象にした研究では、乳がんの発症率が高かったとも報告されています。

アメリカ内科学会は、体内時計の障害は糖尿病や肥満など多くの病気を悪化させるとの声明を出し、体内時計と日常生活のリズムを一致させることが病気の予防に重要と位置付けています。

体内時計は光への曝露で同期される。寝る前の光刺激は、体内時計の中枢である視交叉上核(SCN)や松果体(PG)へ伝達され、体は寝ているにも関わらず脳を含む各臓器は覚醒時と同じ反応をし、正常なサイクルが阻害される。
(引用https://www.non-24pro.com

■1:規則正しい眠りをとること

健康を維持するためには、規則正しい睡眠サイクルと十分な睡眠を取る必要があります。具体的には、メラトニンやコルチゾールといった睡眠・覚醒に関わるホルモンの分泌に合わせた睡眠サイクルが推奨されます。それは例えば0時までに就寝し、6時に起床する、ということです。米国立睡眠財団(NSF)によると、睡眠時間は成人で7~9時間が推奨されています。

米国立睡眠財団(NSF)による年代別推奨睡眠時間。

また、交感神経を刺激するようなコーヒーや飲酒(お酒で眠くなるが、数時間後に肝臓でアルコールが代謝されアルデヒドが生成されると交感神経を刺激する)は睡眠を妨げるため、睡眠前には控えた方が良いです。

■2:食事のタイミングも規則正しく

食事のタイミングは、何を食べるかと同じくらい重要な要素です。なぜなら、不規則な食生活では、体内時計に基づくホルモン分泌が阻害され、血糖値が下がりにくくエネルギー代謝が落ち、同じ食事をとっていても体重が増えやすいからです。

それゆえ、血糖値の急激な変化をおこさないように、朝食を食べる、食事は小分け(6回など)にして食べる、就寝2時間前に食事をしない(週三日以上)、夜食を食べない、といった食習慣を心がけるようにしましょう。

*  *  *

以上、今回は、体内時計が体に与える影響と、健康的な生活習慣について解説しました。多くの基礎研究・観察研究などから、不規則な生活が体に与える影響は予想以上に大きいと考えられています。今一度、生活習慣を見直し、体内時計のサイクルに合わせた自然な生活を心がけてみてはいかがでしょうか。

【参考文献】
・Appleman K, Sleep Med. 2013
・Christos Savvidis, Molecular Medicine.2012
・Figueiro MG, Nat Sci Sleep. 2013
・Laura E. Martin, Psychiatry Res. 2015
・Mark S. Rea, Chronobiol Int. 2014
・Namni Goel, Prog Mol Biol Transl Sci. 2013
・National Sleep Foundation
・Nobel Prizes 2017
・Sirimon Reutrakul, Sleep Med Clin. 2015
・Stevens RG, Am J Prev Med. 2013
・David Z. Kochan, Oncotarget. 2015

文/中村康宏
関西医科大学卒業。虎の門病院で勤務後New York University、St. John’s Universityへ留学。同公衆衛生修士課程(MPH:予防医学専攻)にて修学。同時にNORC New Yorkにて家庭医療、St. John’s Universityにて予防医学研究に従事。

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