認知行動療法などの心理療法、心理学的アプローチが慢性腰痛に効果があることが知られていますが、呼吸法やヨガなどをベースとしたマインドフルネスストレス低減法も、認知行動療法と同等の慢性腰痛改善効果があることが、ここ10年ほどの研究であきらかになりつつあります。

ストレスが腰痛の原因になる

腰痛は、単純な背骨や神経、筋肉などによる整形外科的な痛みではありません。

心や社会的環境も含めた心理社会学的な痛み症状であり、精神的ストレスが腰痛の発症や慢性化のリスク(原因)になるということは、広く知られてきたように思います。

また、腰痛の多くは原因がはっきりしない非特異的腰痛であり、従来の鎮痛薬やリハビリテーションなどの治療では、あまり効果がみられない場合があります。

このことも、腰痛が様々な要因がからみあっておこる症状だということを示しているのかもしれません。

上の図は、腰痛の新規発生、つまりはじめて腰痛をおこす場合と、腰痛が良くならず慢性化してしまう場合の危険因子を図にしたものです。

人間工学的要因というのは、身体(腰)にかかる物理的な負担のことです。

頻繁に重いものを持つ、前屈みや体をひねるなどの動作が多いと腰の負担が増え、腰痛になりやすくなるのはよくわかります。

一方で心理社会的要因というのは、職場や家庭などの環境や心理的負担のことです。

この表からは、とくにストレスが強いほど腰痛になりやすく、慢性化しやすくなるということがわかります。

具体的にイメージすると

『人間関係の良くない介護現場の仕事』
『残業が多いのに給与は多くない(やりがいのない)ブラック職場』
『家族が腰痛に苦しんでいる姿を見て、または過去に見たことがあり、腰痛に対してすごく恐れている』

などは腰痛になりやすく、慢性化もしやすいということになってしまいます。

いずれにしろ、精神的ストレスは腰痛の大きな要因となる、ということです。

マインドフルネスとは?

ストレスが腰痛のリスク要因となることから、様々な心理学的なアプローチにより改善を図る方法が試みられています。

その中で効果が期待できることがわかってきたのが、マインドフルネスです。

マインドフルネスとは、「今、この瞬間の体験に意図的に意識を向け、 評価をせずに、とらわれのない状態で、ただ観ること」
日本マインドフルネス学会HPより(https://mindfulness.smoosy.atlas.jp/ja

日本の禅や瞑想、ヨガ、呼吸法などをベースとして考案され、正しくはマインドフルネスストレス低減法と言います。

それは「心のエクササイズ」とも言われており、自分の身体や気持ちの状態に気づく力を育むトレーニングです。

グーグルやインテル、フェイスブック、ナイキ、といった米国の企業が企業研修などに採用するようになったり、ビジネスマンやアスリートがストレス緩和や能力開発などにも効果があると取り組んでいることが話題になりましたので、ご存知の方も多いかもしれません。

このマインドフルネスが、慢性腰痛に対して認知行動療法と同程度の効果があることがわかりました。

慢性腰痛に対し、瞑想とヨガによるマインドフルネス・ベースのストレス低減療法(MBSR)は、26週間後の痛みや機能的制限の改善について、通常ケアよりも有効で、認知行動療法(CBT)と同程度の効果があり、慢性腰痛患者にとって有効な治療選択肢になりうることが示された。
Cherkin DC, et al. JAMA. 2016;315:1240-1249.

また、スペインでおこなわれた研究では、慢性腰痛患者70人を対象にマインドフルネスを取り入れたストレス軽減プログラムを実施したところ、痛みとストレスが軽減されることが確認されました。

ストレスホルモン「コルチゾール」と、炎症誘発物質の両方のレベルが低減し、さらに、睡眠の質や生活満足度、幸福度や活力のレベルまでも増加するということも判明しました。
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0276734

このように、さまざまな研究からマインドフルネスストレス低減法が慢性腰痛の改善に有効だということがわかってきているのです。

マインドフルネスに取り組むには

筆者の腰痛トレーニング研究所(https://re-studio.jp/)でも、一部の患者さんにマインドフルネスを取り入れていただいています。

慢性腰痛の方が、はじめてマインドフルネスに取り組みたい場合は、腹式呼吸を用いた方法がいいと思います。

以下を参考におこなってみてください。

マインドフルネスで呼吸法をおこなう際、一般的には座禅を組むような形が多いと思いますが、慢性腰痛の方は痛みが出やすいので、寝た状態でおこないます。

仰向けで、または痛みで仰向けが難しい場合は横向きなど楽な姿勢で大丈夫です。

基本は

1)まずしっかり吐き切る
2)自然に吸う
3)なるべく長く吐き、お腹の底から吐き切る(でも力まない)
4)また自然に吸う

これを繰り返します。

息を吐くことと吸うことに集中し、息がどこにどれだけ入り、どこから出ていくか、吐くとき吸うときに余計なところに力が入っていないか、など身体の感覚を観察し、力の入れ方抜き方をコントロールしながら繰り返します。

この方法は、腹横筋や骨盤底筋などのインナーマッスルトレーニングにもなりますので、一石二鳥なのです。

その効果には目を見張るようなものがありますので、慢性腰痛にお悩みの方には積極的に取り入れていただきたいと思います。

しかしその一方で、慢性腰痛の患者さんの中にはマインドフルネスになりにくい傾向の方がいらっしゃいます。

背骨や肋骨が固くて深い呼吸ができなかったり、力みやすかったり、集中ができなかったり、というケースがあります。

そのような場合は、先に身体の治療やケアをおこなった方がいい場合もありますし、専門家の指導のもとで、自分で気づかない悪癖を修正してもらいながらの方がいい場合もあります。

腹式呼吸でおこなうことに慣れて来たら、ストレッチしながら、トレーニングしながら、歩きながらマインドフルネスを意識しておこなうように段階的にステップアップして、日常生活動作の中で痛みが出ないような心身のコントロールを身につけていきます。

慢性腰痛の改善には、もちろん普通のストレッチやトレーニングも有効ですが、このようにマインドフルネスの要素を取り入れ、自己観察や気づきを得ながらおこなうことで、その効果がより高まります。
ぜひ取り組んでみてください。

この記事があなたの腰痛改善にお役に立てれば幸いです。

以下の記事でも様々な腰痛改善エクササイズをご紹介しております。
ぜひお読みください。

ウォーキングが腰痛の再発予防になる! ヨガ・太極拳・気功なども効果がある理由とは【川口陽海の腰痛改善教室 第141回】(https://serai.jp/health/1193504

腰痛・坐骨神経痛|痛みが治りにくくなる感情や思考から脱する方法【川口陽海の腰痛改善教室 第135回】(https://serai.jp/health/1182953

からだがこわばる呼吸、ゆるむ呼吸|正しい呼吸とそのためのストレッチ【川口陽海の腰痛改善教室 第134回】(https://serai.jp/health/1180414

腰痛が慢性化する原因|痛みの記憶・痛み予期とは?【川口陽海の腰痛改善教室 第119回】(https://serai.jp/health/1146716

拙著「腰痛を治したけりゃろっ骨をほぐしなさい」が、全国書店にて発売となっています。
お読みいただけると幸いです。

文・指導/川口陽海 厚生労働大臣認定鍼灸師。腰痛トレーニング研究所代表。治療家として20年以上活動、のべ1万人以上を治療。自身が椎間板へルニアと診断され18年以上腰痛坐骨神経痛に苦しんだが、様々な治療、トレーニング、心理療法などを研究し、独自の治療メソッドを確立し完治する。現在新宿区四谷にて腰痛・坐骨神経痛を専門に治療にあたっている。著書に「腰痛を治したけりゃろっ骨をほぐしなさい(発行:アスコム)」がある。
【腰痛トレーニング研究所/さくら治療院】
東京都新宿区四谷2-14-9森田屋ビル301
TEL:03-6457-8616 http://www.re-studio.jp/index.html

腰痛を治したけりゃろっ骨をほぐしなさい(健康プレミアムシリーズ)川口陽海(著/文) 永澤守(監修) 発行:アスコム
腰痛を治したけりゃろっ骨をほぐしなさい
(健康プレミアムシリーズ)
川口陽海(著/文) 永澤守(監修) 
発行:アスコム

 

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