腰痛や坐骨神経痛になると、その痛みによってネガティブな感情や思考が浮かんでしまいます。
それにとらわれてしまって過度に心配しすぎることが、実は痛みの悪化や治りにくさの原因になってしまったりします
感情や思考をコントロールして痛みを改善しましょう。

腰や脚に痛みがあり、なかなか良くならず日々そのつらさに苛まれていると、段々ネガティブな思考や感情がうかんできます。

『痛くなったら嫌だな……、痛くなるんじゃないかな……』
『このまま治らなかったらどうしよう……』
『手術になったらどうしよう……』
『将来歩けなくなるのでは……』
『いったい何が原因なんだろう……』
『痛いから○○するのはやめておこう……』

そのお気持ちはよくわかります。またそれは痛みがある時の、ある意味(脳の)正常な反応だとも言えます。

しかし、それにとらわれ過ぎてしまうとかえって痛みが悪化したり、症状が治りにくくなってしまったりする原因になってしまうことがあります。

脳が痛みに敏感になる

ネガティブな感情や思考が痛みを悪化させてしまったり治りにくくさせてしまったりするのは、ストレスホルモンの影響です。

痛み自体が強いストレスになりますが、それによって浮かぶネガティブな感情や思考もまたストレスです。

すると、ストレスホルモンである《ノルアドレナリン》などが分泌され、痛みを感じる神経や受容器や脳を刺激してしまい、痛みを感じやすくなってしまうのです。

例えば、普通はあまり見えない小さいものを虫眼鏡で見ると大きく見えますよね?

それと似て、ストレスホルモンが分泌されていると、本当の痛みは10くらいなのに最終的に脳が受け取る痛みは80や90になってしまう、というようなことが起こります。

ストレスホルモンにより、痛みを通常より大きなものとして感じてしまうのです。

また、ホルモンの中には《セロトニン》などの痛みをやわらげるホルモンもありますが、ストレスを受けるとそれらのホルモンの分泌が減ってしまいます。

つまり、痛みを過剰に受け取ってしまうだけでなく、やわらげることもできなくなるため、二重に痛みを感じやすくなってしまうのです。

このように、ネガティブな感情や思考にとらわれることは、腰痛や坐骨神経痛の改善にとっては『百害あって一利なし』です。

これには患者さんご本人の普段の考え方や性格なども大きく影響していますので、すぐに改善できない場合もあります。

しかし誤解しないでいただきたいのは、その性格が良くないとか人格を変えるといった問題ではなく、考え方のクセを見つけ、その結果生じる行動を変えることで痛みの改善につなげることができるということです。

3つの思考パターン

心理学的には、慢性痛の際に陥りやすく、症状を治りにくくさせる感情や思考のパターンが3つあると言われています。

それは次の3つです。

1.痛みのことばかり考える
2.痛みを怖がり過ぎる
3.痛みに対する無力感

それぞれについて、詳しくみてみましょう。

1.痛みのことばかり考える

常に痛みを気にしてしまう。
痛みのことが頭から離れない。
痛みに対するネガティブなことばかり考えてしまう。
不安をあおるような考えがどんどん浮かんできてしまう。
痛みの原因を探し過ぎてしまう。
痛みに消えてほしいと強く思う。痛みが止まって欲しいということばかり考える。
痛みが消えるかどうかずっと気にしている。
痛みについて考えないようにすることはできないと思う。
どれほど痛むかということばかり考えてしまう。

このような思考パターンは、《反すう》といって、繰り返し痛みについて考え過ぎることで痛みを感じやすくなってしまうパターンです。

常に痛みについて考えているので、意識が痛みにいってしまいます。わざわざ痛みを探してしまっている状態です。

すると脳は痛みを探そうと過剰に働きますから、ちょっとした痛みでも即座に拾う(感じる)ようになります。

いわば高性能レーダーで敵(痛み)を探しているようなもの。その能力は過剰すぎて、もしかしたら敵(痛み)以外の鳥(他の感覚)などを間違って検出しているかもしれません。

また、痛みについて考えると、それだけで脳は痛みを感じた時と同じような反応をおこしてしまうことがあります。

さらに脳は痛みを記憶してしまうことがあり、その記憶した痛みを勝手に再生再現してしまうこともあると言われています。

また痛みについて常に考えていると、痛みの記憶をより定着させてしまう可能性もあります。

このようなことから、実際には痛みはないのに考えることで脳の中で痛みが生じてしまう、一種の幻の痛みがあらわれてしまうことがあるのです。

2.痛みを怖がり過ぎる

痛みが再発することを恐れる。
痛みがひどくなるのではないかと怖がる。
痛くなりそうだな、痛くなったら嫌だな、とよく考える。
痛みを過剰に評価する。痛みを実際以上にひどいものと思い込む。
手術になったらどうしよう、手術しても良くならないのではないか、と考える。

このような思考や感情のパターンは《拡大視》といって、自らの痛みを過剰に悪いもの、悪い状態と考え過ぎてしまっている状態です。

実際には怖れているようなことはおこっておらず、またおこる可能性も低いにもかかわらず、そのような考えにとらわれてしまいます。

そのことがストレスとなり、ストレスホルモンの分泌や脳の過敏性を生じさせてしまい、痛みの悪化や治りにくさを引きおこしてしまいます。

3.痛みに対する無力感

痛みに対して自分が無力に感じる。
痛みの治療、薬や湿布などがあまり効果がなく、とてもがっかりしてしまう。
痛みの改善に良いとされること、体操や運動、食事、栄養サプリメントなども効果がなく、がっかりしてしまう。
痛みがひどく、決して良くならないと感じる。

このような思考や感情のパターンは《無力感》といって、痛みに対して全面降伏してしまっているような状態です。

実際には効果があったのに、それを過小評価してしまうようなことがよく見受けられます。

また、症状改善を短期的な視点でしか見ていないため、例えば昨日と今日の痛みの違いを比較して一喜一憂してしまいます。

するとやはりちょっとした痛みの悪化で非常に落ち込んでしまい、無力感にとらわれてしまって、ストレス状態から痛みの過敏性を生じさせてしまうということになりがちです。

ネガティブな感情や思考から脱するには

ではこれらの感情や思考から脱するにはどうしたら良いのでしょうか? 脱することはできるのでしょうか?

大丈夫です。必ず脱することができます。

筆者の腰痛トレーニング研究所(https://www.re-studio.jp/)では、このような感情・思考パターンに陥ってしまった方には、次のようなことをアドバイスしています。

薬や湿布を適切に使う

腰や脚の痛みがあって病院に行った場合、たいていは鎮痛剤や湿布などを処方されると思いますが、飲んでいなかったり、使っていなかったりする方が多く見受けられ、驚きます。

理由を聞くと、

「痛み止めはあまり飲みたくない、飲まない方が良いと思っている」
「少しの痛みは我慢した方が良い」
「薬があまり効かない」
「他にもたくさん薬を飲んでいるのであまり飲みたくない」
「胃腸や肝臓、腎臓などへの副作用がこわい」

というようなことをよくうかがいます。

筆者は薬品に関しては専門ではありませんので、かならず医師や薬剤師にご相談をしていただきたいのですが、

『原則的に効果があるのであればしっかり飲んでください。また湿布も使ってください』
『短期的に効果が感じられなくても、長い目で見ると薬を使った方が治りは良いことが多いですよ』

とアドバイスさせていただいています。

それはなぜか?

まず日本や世界の腰痛診療ガイドラインでは、慢性腰痛に対して非オピオイド鎮痛薬(=非ステロイド系鎮痛消炎剤/NSAIDs)が効果があると様々な研究から認められ、服用を推奨されています。

病院で処方される主なNSAIDsには、アスピリン(バファリン(R)など)、ロキソプロフェン(ロキソニン(R)など)、アセトアミノフェン(カロナール(R)など)があります。

これらはドラッグストアなどで購入することもできます。

薬が多少でも効くのであれば、痛みを感じる時間を減らすことができますので、痛みに対して考える時間も減らすことができます。

すると脳やホルモンの状態を正常に近づけることができ、痛みの過敏性を低下させることができます。また痛み記憶の定着を防ぐことができる可能性もあります。

結果として痛みの改善や治療期間の短縮につながるのです。

運動量や活動量を減らさない、少しずつ増やす

痛みが悪化することを怖れて、出かけたり身体を動かしたりすることをやめてしまう方がいますが、

『できるだけ今までの運動量を維持しましょう』
『できれば少しずつ運動量や活動量を増やしていきましょう』
『多少痛いくらいで、ひどく悪化しないのであればできるだけ動いてください』
『家の周りを5分くらいからで良いので歩いてみましょう』

などのアドバイスをしています。

運動量や活動量の低下は体力や筋力の低下を招き、それは必ず痛みの悪化や慢性化につながっていきます。

またそれまでできていた外出や運動ができなくなることは、大変な無力感を感じることで、これがまたストレスからの悪化をまねいてしまうのです。

運動量や活動量を減らさず増やしていくことは、痛みの改善にとても大事な要素なのです。

できるだけ気を紛らわす

なんでも良いので気を紛らわせて、痛みを感じない時間を増やすようにしましょう。

例えば座っていると痛いけど歩くのは痛くない、というような方にはできるだけ歩きましょうとアドバイスします。

趣味や楽しいことをしている時は痛くない、というような方にはできるだけその時間を増やしましょうとアドバイスします。

これも痛みを感じない時間を増やすことで、脳やホルモンの状態を正常にし、痛みの改善を期待する行動です。

身体を温める

痛みの治療の基本は《血行の改善》です。

血行の改善のために手軽にできて効果的なのは、歩行などの軽運動と入浴です。

『できれば湯船につかって15分くらいは身体を温めてください』
『湯船につかるのが苦手な場合は、熱いシャワーを5~10分ほど浴びて身体を温めてください』

とアドバイスしています。

身体や患部を温めることは、慢性痛の改善に効果があることがわかっています。

※急性痛やケガなどの痛みの場合は、炎症を悪化させる可能性がありますので温めるのはやめてください。

一喜一憂せずに楽観的に考える

残念ながら慢性的な痛みの改善は、決して一直線には良くなりません。

良くなったりまた悪くなったりしながらジグザグに良くなっていきます。

昨日と今日ではあまり症状に違いがないかもしれませんし、悪化することも少なくないでしょう。

それでも、自分でできることを少しずつ積み重ねていくことで、2週間前や1か月前と比べたら確実に良くなっていることを感じるでしょう。

そのような気持ちで、期待し過ぎず悲観せずに楽観的に治療に取り組んでいただくことが、必ず良い結果につながります。

この記事があなたの腰や脚の痛みを改善する一助になりましたら幸いです。

また以下の記事でも様々な腰痛・坐骨神経痛改善エクササイズをご紹介しております。
ぜひお読みください。

腰痛が治らない思考・行動パターン『痛みの悪循環』から抜け出す方法【川口陽海の腰痛改善教室 第89回】(https://serai.jp/health/1073698

ストレスが腰痛や慢性化の原因になる! その改善方法とは?【川口陽海の腰痛改善教室 第111回】(https://serai.jp/health/1124277

腰痛が慢性化する原因|痛みの記憶・痛み予期とは?【川口陽海の腰痛改善教室 第119回】(https://serai.jp/health/1146716

「冷えや低気圧で腰が痛くなる…」冷えや低気圧による腰痛の対処法【川口陽海の腰痛改善教室 第123回】(https://serai.jp/health/1157675

拙著「腰痛を治したけりゃろっ骨をほぐしなさい」が、全国書店にて発売となっています。
ろっ骨をほぐして腰痛を改善する方法を多数ご紹介しておりますので、お読みいただけると幸いです。

文・指導/川口陽海 厚生労働大臣認定鍼灸師。腰痛トレーニング研究所代表。治療家として20年以上活動、のべ1万人以上を治療。自身が椎間板へルニアと診断され18年以上腰痛坐骨神経痛に苦しんだが、様々な治療、トレーニング、心理療法などを研究し、独自の治療メソッドを確立し完治する。現在新宿区四谷にて腰痛・坐骨神経痛を専門に治療にあたっている。著書に「腰痛を治したけりゃろっ骨をほぐしなさい(発行:アスコム)」がある。
【腰痛トレーニング研究所/さくら治療院】
東京都新宿区四谷2-14-9森田屋ビル301
TEL:03-6457-8616 http://www.re-studio.jp/index.html

腰痛を治したけりゃろっ骨をほぐしなさい(健康プレミアムシリーズ)川口陽海(著/文) 永澤守(監修) 発行:アスコム
腰痛を治したけりゃろっ骨をほぐしなさい
(健康プレミアムシリーズ)
川口陽海(著/文) 永澤守(監修) 
発行:アスコム

 

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