
人生も五十路の坂にさしかかる頃になりますと、それまでの人生を振り返る機会も多くなるものです。そんな時、己の半生を言い表す言葉を探してみるのも一興ではないでしょうか? もしかすると、先人が残した言葉や名言の中に“言い得て妙“と思えるような言葉を見つけられるかもしれません。そして、その言葉からは、己が何を信条として生きてきたのかも見えてくるのではないでしょうか。
名前さえ知らなかった人物が残した言葉。その言葉が、自分が歩んだ人生と重なる“奇遇”を体験できるかも? さて、今回の座右の銘にしたい言葉は「少年老い易く学成り難し(しょうねんおいやすくがくなりがたし)」 です。
目次
「少年老い易く学成り難し」の意味
「少年老い易く学成り難し」の由来
「少年老い易く学成り難し」を座右の銘としてスピーチするなら
最後に
「少年老い易く学成り難し」の意味
「少年老い易く学成り難し」について、『⼩学館デジタル⼤辞泉』では、「若いと思っているうちにすぐ年をとってしまうが学問はなかなか成就しない。寸暇を惜しんで勉強せよということ。」とあります。この言葉は、多くのシニア世代の皆さまにとって、どこか胸に刺さるものがあるのではないでしょうか。
つまり、若い時期は時間の経過が早く感じられる一方で、それに見合うだけの学びを成し遂げることは難しいという戒めとともに、学び続けることの重要さも示唆しています。子どもや若い頃に限らず、人生のどの段階においても学びは簡単ではありません。だからこそ、学び続ける意欲と努力を持ち続ける姿勢が大切だと教えてくれます。
特にシニア世代にとっては、定年や子育て終了など人生の節目を迎え、「これから何を学びどう生きていくか」というテーマが強く意識される時期。学び直しや新しい挑戦を始めるきっかけにもなる言葉として、心に響くのです。
「少年老い易く学成り難し」の由来
この言葉の由来は、中国南宋時代の朱熹(しゅき・1130年~1200年)が作ったとされる漢詩「偶成(ぐうせい)」にあります。朱熹は朱子学の祖として知られる儒学者で、教育者としても多くの弟子を育てました。
少年易老学難成
一寸光陰不可軽
未覚池塘春草夢
階前梧葉已秋声
【書き下し文】
少年老い易く学成り難し
一寸の光陰軽んずべからず
未だ覚めず池塘春草(ちとうしゅんそう)の夢
階前(かいぜん)の梧葉(ごよう)已に秋声
【現代語訳】
若い時代はあっという間に過ぎ去ってしまうが、学問を成し遂げるのは難しいものだ。
だから、ほんのわずかな時間も軽んじてはならない。
池のほとりの春の草の上で見た心地よい夢からまだ覚めないでいるうちに、
庭先の青桐の葉は、すでに秋風の音を立てて散り始めているではないか。
この詩は、青春の短さと学問の奥深さを詠んだもので、時間を大切にし、勉学に励むことの重要性を説いています。「一寸の光陰軽んずべからず」という続く句では、わずかな時間も無駄にしてはならないという教えが込められています。
ただし、近年はこの詩が朱熹の詩文集に載っていないことがわかり、朱熹作ということが疑問視されています。

「少年老い易く学成り難し」を座右の銘としてスピーチするなら
この言葉を座右の銘として人前で語る際には、前向きなメッセージを伝えることが大切です。例えば「歳を取ると学ぶのが難しい」というネガティブな解釈に終始せず、むしろ「時間は限られているからこそ、大切に学び続けることが意義深い」という希望を込めましょう。
以下に「少年老い易く学成り難し」を取り入れたスピーチの例をあげます。
学び続けることの大切さを伝えるスピーチ例
私の座右の銘は「少年老い易く学成り難し」です。この言葉は、青春の時間があっという間に過ぎ去る一方で、真の学問を身につけることの困難さを表現しています。
振り返ってみると、若い頃の私は時間が無限にあるような錯覚を抱いていました。仕事に追われる日々の中で、いつか時間ができたら勉強しよう、いつかゆっくり本を読もうと考えながら過ごしていたのです。しかし気がつけば、定年を迎える年齢になっていました。
この言葉と出会ったのは60歳を過ぎてからです。よく考えてみると、この言葉は決して諦めを促すものではありません。むしろ、今この瞬間からでも学び続けることの大切さを教えてくれているのだと気づいたのです。
定年後、私は陶芸教室に通い始めました。最初は簡単そうに見えた陶芸でしたが、実際に始めてみると奥が深く、毎回新しい発見があります。土の感触、火加減の調整、釉薬の選び方など、覚えることは山ほどあります。まさに「学成り難し」を実感する日々です。
しかし、その困難さこそが学ぶ喜びでもあります。新しい技術を習得した時の達成感、仲間との交流から得る気づき、作品が完成した時の満足感。これらすべてが、私の人生を豊かにしてくれています。年齢を重ねることは、学びをやめることではありません。むしろ、これまでの経験を土台として、より深い学びに取り組める時期なのだと考えています。
最後に
「少年老い易く学成り難し」は、決して過去を懐かしみ、時間を嘆くための言葉ではありません。それは、「今」という時間のかけがえのなさに気づき、未来に向かって知的な一歩を踏み出すための、力強いエールなのです。
●執筆/武田さゆり

国家資格キャリアコンサルタント。中学高校国語科教諭、学校図書館司書教諭。現役教員の傍ら、子どもたちが自分らしく生きるためのキャリア教育推進活動を行う。趣味はテニスと読書。
●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com
