食後の血糖値が急激に上がりにくい食事「低GI食」は、ダイエットにいいと注目されてきました。しかし、最新の研究では、低GI食を摂ることは「継続的な集中力や記憶力アップにつながる」ということがわかってきました。そこで、脳科学者・西 剛志先生の著書『脳科学者が教える集中力と記憶力を上げる低GI食 脳にいい最強の食事術』から、仕事や勉強の効率を上げる食事術をご紹介します。
文/西 剛志
人類の脳が進化できたのは「糖質」のおかげ
私たちの脳は膨大なエネルギーを消費していますが、その原料となるのが「糖質」です。
食べ物は、三大栄養素といわれる、炭水化物(糖質)、タンパク質、脂質から構成されていますが、脳がエネルギーとして直接利用できるものは炭水化物の中の「糖質(ブドウ糖)」のみになります。タンパク質や脂質は筋肉や脂肪になって初めてエネルギーとして利用できますが、食事で摂取して体内に入ってきたばかりのときは、直接エネルギーになりません。
さらに脂質は、脳の血管と脳の間での物質交換を制限する脳関門という場所を通れないため、脳まで届けることもできません。つまり、唯一エネルギーとして使える糖質が長時間不足すると、脳の動きが鈍くなってしまうのです。
何も食べずに仕事をしたり、勉強するときに、集中力が途切れてぼんやりしたりすることはないでしょうか? もしくは、ちゃんとやったつもりなのに、簡単なミスをくり返したり、がんばらなきゃと思っているのにやる気が出ず、イライラしたりすることはありませんか? それは、脳のエネルギー不足が原因の場合があるのです。
また、興味深いことに、私たちの脳は糖質(ブドウ糖)を大量に摂り込めるようになったことで進化したという理論が現在、世界的に注目されています。私たちが類人猿(人類の祖先)だったころの脳は、たったの400gしかありませんでした。ところが、今から約180万年前から、急激に脳の容量が巨大化して今ではその3倍の大きさになっているのです。
なぜこんなことが起きたのか? そのひとつが、火を使って調理する、いわゆる「食の大革命」が人類に訪れたことが理由ではないかといわれています。
それまでの人類は、食べ物を生のまま食べていました。しかし、あるときから、私たちの祖先は火を使って調理するようになったのです。火で焼くなどすることで、硬くて食べられなかった木の実、穀物などを食べられるようになりました。それによって、大量の糖分が脳に流れ込んできたのです(木の実や穀物のでんぷんは火で熱すると、分解されてブドウ糖(糖質)になります)。
実際にバルセロナ自治大学のカレン・ハーディ博士が、石器時代の祖先の歯にこびりついた歯石を調べたところ、肉ではなく、木の実や穀物のでんぷんを含む粒子が多数発見されたそうです。
そして、人類の脳はブドウ糖の大量摂取というこれまでにない食の革命を経て、神経細胞が増殖し、脳が大きく発達したといわれています。つまり、糖質は脳の進化にもかかわる大切な役割を果たしているのです。
集中力不足も判断ミスも、糖質不足が原因かも
人類の歴史的に見ても大切な糖質が不足すると、私たちの脳にどのような影響があるのでしょうか。現在、わかってきているのは、集中力、計算力、記憶力、物事のとらえ方、幸福度などさまざまな分野に影響することです。
例えば、糖質を摂った場合の集中力への影響を測定した実験があります。被験者をグループに分けて、次の3種類の紅茶を飲んでもらいました。
- ブドウ糖(糖質)入りの紅茶
- エリスリトール(人工甘味料)入りの紅茶
- 糖分が何も入っていない無糖紅茶
各グループともに最初に200ml飲んでもらい、30分後に残りの100mlを飲んでから15分間の暗算テストを実施してもらいました。テスト内容は一桁の簡単な足し算です。
その結果、15分間全体のスコアには大きな差はありませんでしたが、最後の2分間だけは、ブドウ糖を摂ったグループだけが計算ミスが優位に減りました。計算ミスは集中力の欠如から生まれることが多いため、ブドウ糖を摂るほうが集中力を長く保ちうることを意味しています。また、甘いだけでカロリーがない人工甘味料などは、集中力には効果はないことがわかりました。
低GIと高GIの見分け方
GI値とは、食後の血糖値の上昇度を表す指数です。100に近いほど血糖値が急激に上昇し、低いほど血糖値の上昇がゆるやかになります。
1981年に、カナダのトロント大学のジェンキンス博士らが、同じ糖質量でも食品によって血糖値の上がり方に違いがあることを発見し、提唱しました。このGI値を利用して「血糖値スパイク」を起こさないように脳に糖質を安定供給し、脳がベストパフォーマンスを発揮できるようにするのが、「低GI食」です。
今日は1日パフォーマンスを上げたいというとき、どのようにGI値の高い食品と低い食品を見分ければよいのでしょうか。ポイントは3つ。
低GIと高GIを見分けるポイント
- 甘すぎるものは要注意
- 炭水化物は、白い食べ物より黒い食べ物を選ぶ
- 食物繊維が多いものを選ぶ
これがおおよその見分ける基本になります。甘さは、そのほとんどがブドウ糖に起因しています。当たり前ですが、あまりにも甘いものを食べると、血糖値が急上昇します。砂糖をそのまま原料に使ったお菓子、甘すぎる果物も、それだけたくさんの糖質を含んでいるということになります。
スーパーなどで「糖度〇度」といった広告やチラシを見たことがあるかもしれませんが、糖度とは糖質がどれだけ含まれているかを表す数値です。15度なら、100g 中に15g の糖質が含まれています。
2つ目のポイントは「炭水化物は、白い食べ物より黒い食べ物」を選ぶこと。炭水化物は三大栄養素の1つで、さまざまな食品に含まれています。なかでもたくさん含まれているのが、米やパン、そしてうどん、パスタといった麺類などの穀類。私たちが日常、主食として食べているものです。炭水化物は糖質と食物繊維で構成されていますが、そのほとんどが糖質です。
しかし、含まれている糖質の量が食べ物の色によって異なるのです。例えば、お米なら白米よりも茶色の玄米、白い食パンより茶色のライ麦パン、うどんよりそばのほうがGI値は低くなります。精製されていない色のついた炭水化物は糖の消化吸収をゆるやかにしてくれる食物繊維を多く含むため、血糖値の上昇をゆるやかにしてくれるのです。砂糖も、精製された上白糖より、黒砂糖のほうがGI値は低くなります。
3つ目のポイントは、白米と玄米の違いのように、その食品に食物繊維がどれだけ含まれているか。
糖質がたくさん含まれている果物も、食物繊維が豊富な、例えばりんごやいちごなどは、食物繊維が少ないメロンやスイカよりもGI値が低くなります。GI値の面でみると、フルーツジュースや果物ジャムは糖質が高くなります。使用されているのが果汁のみになると、食物繊維が失われた食品になるからです。食物繊維が豊富とされる野菜の中では、でんぷん質を多く含むじゃがいもや里いもなどのいも類は高GI食品になります。
低GI食品がどんなものか、なんとなくわかっていただけたでしょうか?
もちろん、高GI食品も食べてよいですが、仕事や学習などここぞというときは、低GI食品をうまく使うことが大切です。例えば、肉や魚、乳製品などは糖質がそれほど含まれない低GI食品。積極的に摂りたい食べ物です。ただし、低GI食品だからといって、いくらでも食べていいというわけではないので食べすぎには十分気をつけてください。
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西剛志(にし・たけゆき)
脳科学者(工学博士)、分子生物学者。T&Rセルフイメージデザイン代表。LCA教育研究所顧問。1975年、宮崎県高千穂生まれ。東京工業大学大学院生命情報専攻修了。2002年に博士号を取得後、知的財産研究所に入所。2003年に特許庁に入庁。大学院非常勤講師を兼任しながら、遺伝子や脳内物質など最先端の仕事を手掛ける。その後、自身の夢をかなえてきたプロセスが心理学と脳科学の原理に基づくことに気づき、2008年に世界的に成功している人たちの脳科学的なノウハウを企業や個人向けに提供する会社を設立。現在は脳科学を生かした子育ての研究も行い、大人から子どもまで、才能を伸ばす個人向けサービスから、幼稚園・保育所の先生、保育士、保護者向けの講演会、分析サービスなどで10000名以上をサポート。横浜を拠点として、全国に活動を広げている。著作に『なぜ、あなたの思っていることはなかなか相手に伝わらないのか?』(アスコム)などがある。