「前方から目を離さず時間を確認でき、定時運行を意識するのに役立っています」

貸与されているのはセイコー製の懐中時計。クォーツ式で平均月差は+-15秒。文字盤がシンプルで視認性に優れ、鉄道時計として長く愛されている。
渡辺ゆかりさん(JR東海東海道新幹線運転士)
JR東海に所属する運転士。「時間の正確性で新幹線を選んでいただいているお客様も多いと思います。安全かつ快適に目的地まで運行するのが私の仕事です」と話す。

今秋で開業60周年を迎える東海道新幹線は、東京駅を数分おきに発着し、年間で約13万本が運行される。そんな“日本の大動脈”は、年間の平均遅延時間がわずか1.1分(※2022年度の運行1列車あたりの平均遅延時分。自然災害などによる遅延も含む。)という驚異的な正確さを誇る。最新車両、N700Sを運転する渡辺ゆかりさん(43歳)が、時刻を確認する際に使用するのはセイコー製の鉄道時計だ。磁気などの外的な影響を受けにくいクォーツ式が鉄道時計には最適として、会社から貸与されている。

勤務を開始する前に毎日、時刻合わせを行ない、新幹線に乗り込むのが渡辺さんの日課だ。定時運行をするため、日頃から体調管理を心がけているという。

「運転士は泊まりの勤務もあるため、日頃の体調管理が基本です。そして、もっとも重要なのは時間管理ですね。運転士の出勤時間は早朝から夕方まで様々。勤務日の前日から、翌日の出勤時間を考慮した生活を心がけ、万全の体調で仕事に臨めるようにしています」

毎朝、出発前に職場の電波時計により懐中時計の時刻合わせを行なう。これは新幹線の運転士の基本的な日常業務という。

懐中時計が有効な理由

最新鋭の機器を搭載する東海道新幹線の最新車両、N700S。車両とともに運転士の高い技術と責任感が安全な運行を支える。
東海道新幹線の運転台にある懐中時計の置き場。1964年に登場した初代0系からN700Sまで、すべての車両に設けられている。

N700Sにも、運転台に懐中時計を設置するスペースがある。運行管理システムにより新幹線の運行状況がコントロールされているのに、なぜアナログの懐中時計が必要なのだろうか。

「時計を見て時間を意識しつつ、運転することが多いためです。また腕時計よりも運転台に設置された懐中時計の方が、前方を見ながら時間を確認できるため合理的なんです」

運転士の仕事に対する意気込みを、渡辺さんはこう話す。

「駅に到着したら足早に列車から降り、会社や学校、次の目的地へ向かわれるお客様の姿を見るのが好きです。正確な運行がお客様の生活を支えていると実感でき、仕事のやりがいを感じます」

取材・文/山内貴範 写真提供/JR東海

※この記事は『サライ』本誌2024年6月号より転載しました。

『サライ』2024年6月号特集は『「機械式腕時計」に開眼』。

 

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