関係が近いからこそ、実態が見えなくなる家族の問題。親は高齢化し、子や孫は成長して何らかの闇を抱えていく。愛憎が交差する関係だからこそ、核心が見えない。探偵・山村佳子は「ここ数年、肉親を対象とした調査が激増しています」と語る。この連載では、探偵調査でわかった「家族の真実」について、紹介していく。
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今回の依頼者は、里美さん(仮名・55歳)です。「85歳の母の口座から、100万円近く引き出され、行き先不明の外出も確認。母が何をしているのか、犯罪に巻き込まれていないか調べてください」と私たちに依頼をしてくださいました。
【その1はこちら】
お母様の家は、湘南エリアにある高級住宅街です。「先祖代々ここに住む」と頑なに広い家に住んでいるとのことでした。実際に現地に行くと、敷地面積は広くとも、家はかなり老朽化している。加えて庭が荒れており、人が住んでいると聞いていなかったら空き家と思ったかもしれません。
お母様は健康のために、駅まで歩くことが多いとか。私達は朝8時から張り込みを開始し、10時に出てきたお母様を追います。
拝見していた写真は普段着でしたが、この時は髪をふんわりセットして、ピンクのダウンジャケットを羽織っています。とてもかわいらしいファッションでした。
私たちの足では駅まで15分程度ですが、 お母様は30分以上かけて休み休み歩いていきます。そのまま電車に乗り、地下鉄に乗り換えて、都内の駅で下車。そこからバスに乗って、どこかに向かっていきます。
降りたのは、畑と住宅以外特になにもないエリアで、都内とは思えないほどののどかな風景が広がっています。
すでに、時間は14時近くになっていました。お母様は当てもなく歩いて、何かを探している様子。スマホを見せながら、必死な表情で道行く人を捕まえては、何かを聞いているのです。
私たちは、「道に迷ったのかな」と思っていましたが、そうではないようです。あるエリアで何もわからないとわかると、少しだけ移動して同じことを繰り返している。
飲まず食わずで数時間過ごしており、脱水の心配もあると思いました。そこで私たちが近づくとお母様は疲れた顔で「この人を知りませんか」と声をかけてきたのです。画面には、そこそこイケメンの40代くらいの男性が映っていました。
私たちが、何が起こっているのかを丁寧に聞いていくと、「この人を探しているんです」の一点張りでした。
私たちがお母様に男性の名前や職業についてなどを聞くと、その男性はこのあたりに住んでおり、お金に困っていて、「私が少しでも助けてあげないと」と真剣な表情で語っていました。
「どういうご関係なのですか?」と聞くと、「最近知り合ったお友達です」と言います。出会いのきっかけについて伺ったところ、「ショートメールにサイトのURLが送られてきて、そこをクリックして知り合ったのです」と言います。
スマホと画面を見せていただくと、それは出会い系サイトでした。
お母様には、何人もの男性からメッセージが届いており、中でも写真の男性とやり取りを始めます。メッセージの履歴を見ると、恋人同士のような甘い言葉が並んでいます。
「この人は、だいたいの自宅の場所を教えてくれて、会いたいですね、と言ってくれる。“僕が会いに行きたいけれど、お金がなくて行けない”と言うから、現金をお送りしたんですよ。書留はダメだとおっしゃるから、郵便で……その住所がこのあたりなのですが、何度伺っても、そこは空き家。お近くにお住まいなのかと思って、こうして訪ねているんです」
男性に送った現金は、20万円程度。男性はシングルファーザーで、子供が幼くお金もなく、大変困難な状況に置かれているので、助けに来たと言っていました。しかも、今日は、直接渡そうと思って、バッグにお金を詰めて持ってきたのだそう。
ひとまず、私達はお母様を家に帰るように誘導。腑に落ちない様子でしたが、駅までお送りしたのです。
この件については、里美さんに事情を話し、お母様が信頼しているヘルパーさんに連絡し、「それは特殊詐欺ですよ」と伝えてもらったそうです。
【詐欺だと気づいた後の落胆から……。次ページに続きます】