文/印南敦史

『孤独の哲学』(岸見一郎 著、中公新書ラクレ)の冒頭で孤独について語るにあたり、著者はまず新型コロナウイルスの影響を引き合いに出している。

孤独であることを強いられた時、孤独にどう対処すればいいかをしっかりと考えなければなりません。
コロナ禍で人と会えなくなったことから話を始めましたが、感染さえ収まれば何の問題もなくなるわけではありません。コロナ禍以前からもあった、しかし、あまりはっきりとは見えなかった問題――その多くは対人関係の問題なのですが――が、不自由な生活を強いられる中で顕在化したように思います。(本書「はじめに−孤独を知る、人生を知る」より)

そこで本書では新型コロナウイルスのみならず、対人関係、SNSをめぐる問題など、さまざまな角度から孤独とのあるべき関係性を考察しているのである。

しかもサライ世代には、「定年後を、孤独と向き合いながらいかに生きるか」という問題も大きく絡んでくることになるだろう(本書でも高齢者問題には相当のページ数が割かれている)。だからこそ私たちは「孤独の哲学」について考え、いかにして孤独を克服するべきかを学ぶべきなのだ。

どうすれば、仕事をしていなくても自分に価値があると思えるでしょう。もちろん、前々から趣味を持っていれば、それを極めることができるでしょう。しかし、仕事をしている頃に格別の趣味がなかった人であれば、趣味を見つけるところから始めなければならないと思うでしょう。(本書46ページより)

趣味についてもあてはまることだが、問題は、「自分に価値があると思えるためにしなければならない」と意識した途端、なにもしないで過ごすことが苦痛になってしまう点である。

だが、なにをしていても格別の干渉をされることなく過ごせるのであれば、他者との間にも心地よい「ソーシャル・ディスタンス」(対人関係の距離)を保ちながら過ごせるだろう。

ましてやそれは難しいことではなく、大仰に考えなくてはならないことでもない。考え方を変えてみたり、日常にちょっとした工夫を施してみたりすることで改善できることは少なくないのだ。

そういう意味で私にとって印象的だったのは、著者が「読書」の効能を強調している点であった。

本を読める人はどんな状況にあっても、孤独になることはありません。本を読めるのであれば、誰と会わなくても平気です。
今さら本を読めるようにはならないという人がいます。しかし、本を読んでこなかった過去は、「今」本を読めない理由にはなりません。(本書141ページより)

「これまで仕事ばかりしてきたから、本を読む習慣がない」という人にとって、本を一冊読み通すことは簡単ではないかもしれない。また、それ以前に、読書に対していい印象を抱いていないという方もおられるだろう。

たとえば過去に「仕事で必要だから」という理由で、読みたくもない本をたくさん読まされたのだとしたら、読書そのものに肯定的になれなくても無理はないのだから。

とはいえ、そういったケースはむしろ例外と考えるべきではないか? なぜなら読書は、必ずなにかの目的があってするものではないからだ。

重要なのは、知らず知らずのうちに本の世界へと引き込まれてしまい、「ふと気がつけば、時の経つのも忘れて本を読み耽っていた」というような経験をすることだ。

一度でもそこにたどり着くことができれば、受験や資格取得のためにいやいや本を読んだというような、読書に関する嫌な思い出をすぐに払拭できるはずなのである。

歳を重ねると健康に気遣ったり、認知症になることを恐れたりする人が、散歩や計算ドリルに一生懸命取り組むことがあります。それと同じような努力を読書に向けていけない理由はありません。(本書141ページより)

読書と映画鑑賞などとの違いは、能動的に関わらなければならないということだ。なにしろ映画やテレビドラマ、あるいはNetflixなどのサービスでたまたま目についたプログラムであれば、自分からなにもしなくても最後まで見ることができるのである。

しかし読書の場合は、やめたら先に進むことはできない。したがって「面倒だ」と感じる方がいたとしても不思議はないのだが、それだって読み方次第。

いつでもやめられるということは、自分のペースで読み進められるということでもある。したがって、(仕事のために読まされた本とは違い)最初からたくさん読もうと思わなければいいのだ。

誰に文句をいわれるわけでもないのだから、自分のペースで読んでみればいい。そうすればやがて、「読書もおもしろいものだな」と思えるようになるはずなのだ。

お断りしておきたいのは、ここでは「孤独から逃れるための手段」の一例として読書を取り上げたにすぎないということだ。だがいずれにしても、ここでいう読書のようななにかをひとりで楽しめるようになれば、他者に依存することなく生きていけるようになるわけである。

『孤独の哲学』
岸見一郎 著
中公新書ラクレ

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文/印南敦史 作家、書評家、編集者。株式会社アンビエンス代表取締役。1962年東京生まれ。音楽雑誌の編集長を経て独立。複数のウェブ媒体で書評欄を担当。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)『書評の仕事』 (ワニブックスPLUS新書)などがある。新刊は『「書くのが苦手」な人のための文章術』( ‎PHP研究所)。2020年6月、「日本一ネット」から「書評執筆数日本一」と認定される。

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