文/印南敦史

定年後は好き勝手に生きる|『俺たちの定年後 - 成毛流60歳からの生き方指南 -』

『俺たちの定年後 – 成毛流60歳からの生き方指南 -』(成毛 眞著、ワニブックスPLUS新書)の冒頭において、著者は「しらけ世代」に注目している。理由は、2014年時点で55歳だった人がここに含まれるからだ。

 年金は、よく知られているように、勤務先などによってその給付額が変わるが、それでも、この2014年時点での55歳を境に、納め得と納め損が明暗を分けるという、なんとなくみんなうすうす感づいていたことが、データと共に示されたのだ(『だまされないための年金・医療・介護入門』鈴木亘著、東洋経済新報社)。このときの55歳は、トントンではあるものの、最後の勝ち逃げ世代だったのだ。(本書「はじめに」より引用)

そして彼らは、2018年で59歳になっている。つまり定年間近だということだ。もちろん、定年後に再雇用される人もいないわけではない。しかし、全員が定年前と同じように働けるわけでもない。同じような生活ができるとは限らない(できない可能性のほうが高いというべきかもしれない)からこそ、生活自体を変える必要があると著者は主張するのだ。

ちなみに著者は1955年生まれということなので、2018年時点で59歳の人よりも少し年上ながら、しらけ世代に属することになる。おもしろいのは、自身の世代の特徴のひとつとして、主語が「オレ」「私」であることを指摘している点である。

 自分にしか興味がないというと言い過ぎだが、独立心が旺盛。自主自立を重んじる世代なのだ。これは何かと「我々」と言ってしまう団塊の世代とはかなり対照的だ。複数形を主語にするにしても、せいぜい「俺たち」が妥協点だ。このニュアンスの違いは、感じとってもらえるはずだ。(本書「はじめに」より引用)

言われてみれば、たしかにそのとおり。そのさらに下にあたる私の世代は、さらにそんな傾向が強いようにも思える。しかしいずれにしても、会社での仕事の仕方はもとより、定年後の暮らし方も団塊世代とは大きく異なるだろう。

そこで著者は本書において、「オレ」「私」、すなわち「個」として“自由に”“好き勝手に”生きるための方法を提示しているのである。

なかでも特に印象的だったのは、真面目に生きてきた人ほど、定年後はわがままに生きるべきだと主張している点だ。それどころか、「わがままになるには、子どもに戻れ」とまで言うのだ。

人は若いうちから社会人として生きることを強いられ、「人に迷惑をかけるな」「わがままは通用しない」などと言われながら成長していくものだ。もちろん、それはそれで評価に値することであり、著者とてそんな生き方を非難しているわけではない。

しかし、そうやって言われたとおり人に迷惑をかけず、わがままにならないように生きてきた人にこそ、定年を機にそうした呪縛から逃れるべきだというのだ。

もちろん、65歳での定年も増えてはいる。しかし、仮にここでは60歳で定年を迎えたと考えてみよう。その際、重要なポイントがある。定年とかリタイアなどというと終わりが近いようにも思えるが、実際にはそうではないということだ。

ベストセラーになったリンダ・グラットンの『ライフ・シフト』にもあるように、いまや人生100年時代である。だとすれば、60歳で定年したとしても残り時間は40年も残っていることになる。

40年といえば、住宅ローン返済期間と同程度の時間、あるいは生まれたばかりの子どもが中堅と呼ばれるような大人になるまでの時間だ。なのに、それほど膨大な時間を「余生」として過ごすのはあまりにもったいない。著者はそう指摘するのだ。

なので、定年後は、単に仕事を手放し、その結果として時間を持て余すのではなく、新たな何かを手に入れ「ああ、これもやりたいのに時間が足りない」と嬉しい悲鳴を上げながら過ごすべきだ。(本書25〜26ページより引用)

だとすれば、新たになにを手に入れるべきなのだろうか? この問いに対し、著者は「好きなこと」であると断定している。言い換えれば「我々」ではなく「オレ」「私」のために、好きなことをすべきだということだ。

そして、なにをしようかと考えるときには、子ども時代のことを思い出すといいという。それはつまり、好き勝手をやっていた時代だ。「バランス」や「コストパフォーマンス」などの後知恵をインストールする前の脳に戻れば、好きなものと再会できるはずだというのである。

なお、好きなもの、好きなことを取り戻すため、自分を子ども時代の環境に置くためには、3つの方法があるそうだ。

(1)自分が子どもの頃の持ち物を目にする
(2)子どもの頃の本棚を見る
(3)子どもの頃の写真を見る
(本書29〜30ページより引用)

当たり前なことのようにも思えるが、子どものころの持ちもの・本棚・写真にあたることは重要だという。なぜならそれは、自分の過去に「自分の好きなもの、好きだったもの」を尋ねるという行為だから。

振り返ってばかりでいいのかと思う方もいらっしゃるかもしれないが、定年したら、無理して未来志向になる必要はない。だいいち、定年を迎えるような人は、すでに自分探しを終えている。

にもかかわらず、いまから新たに自分探しの旅に出る必要はない。嫌いだったもの、関心のなかったものに、無理して目を向ける必要もない。好きで、関心があったけれど、さまざまな事情によってそこから離れざるを得なかったものに、再び歩み寄ればいいだけだという考え方である。

とはいえ、なにをしたらいいのかわからないという壁にぶつかることもあるかもしれない。そこで著者は、「なにをしたらいいんだろう」という人のためのチェックシートを公開している。

●「明日会社が休みなら」やってみたかったことを3つ書き出そう
●子どもの頃に好きだったものを3つ書き出そう
●自分は何のスペシャリストなのか、特徴を3つ書き出そう
●配偶者が今、何に興味を持っているか、3つ書き出そう
(本書40ページより引用)

たしかにこうやって、肩肘を張らずに自分の内面をさらけ出してみれば、「本当にやりたかったこと」が見えてくるかもしれない。そこまで到達できれば、あとはそれを実行に移すだけだ。

 
『俺たちの定年後 - 成毛流60歳からの生き方指南 -』

成毛 眞著、ワニブックスPLUS新書

 定価 : 896 円(税込)

2018年11月発売
『俺たちの定年後 - 成毛流60歳からの生き方指南 -』

文/印南敦史
作家、書評家、編集者。株式会社アンビエンス代表取締役。1962年東京生まれ。音楽雑誌の編集長を経て独立。複数のウェブ媒体で書評欄を担当。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』などがある。新刊は『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)。

 

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