文/中村康宏、内本菜穂
油の働き
栄養学的に「油」は脂質に分類され、私達の体の中で重要な働きをしています。
・体に蓄えられエネルギー源となる
・ホルモンや細胞膜の構成
・体を冷えや乾燥から守る
・脂溶性ビタミンの吸収を促す
油は、体の構成やエネルギー源として必要な栄養素となりますが、炭水化物やたんぱく質は1gあたりのエネルギーが4kcalなのに対し、脂質は9kcalと高いため、摂り過ぎると脂肪として蓄えられ、肥満や生活習慣病の原因ともなるので注意が必要です。(https://serai.jp/health/273504)
油の種類
・意識的に摂りたい油
n-3系 (αリノレン酸、EPA・DHA)・・・えごま油、亜麻仁油、青魚
n-9系(オレイン酸)・・・オリーブ油、なたね油、米油
血中の中性脂肪を下げ、血液をサラサラにしてくれる効果があるため、不整脈や動脈硬化の予防に効果的です。
・摂り過ぎに注意したい油
n-6系(リノール酸)・・・コーン油、ひまわり油、ごま油、アーモンド油
飽和脂肪酸・・・肉類、ラード、バター
n-6系はコレステロールを低下させる効果もありますが、摂り過ぎるとアレルギー等の原因にもなります。
また、飽和脂肪酸の過剰摂取は、LDL(悪玉)コレステロールを増加させ、動脈硬化や心筋梗塞等のリスクが高まるため、肉類やバターの摂り過ぎには注意が必要です。
・避けたい油
トランス脂肪酸・・・マーガリン、ショートニング
トランス脂肪酸はLDL(悪玉)コレステロールを増加させるだけでなく、HDL(善玉)コレステロールを低下させます。そのため、特に心筋梗塞などの冠動脈性心疾患のリスクに繋がります。
油の適量は? 日常でどれくらい摂っている?
日本人の食事摂取基準(※1)では、総脂質からの摂取エネルギーが総摂取エネルギーに占める割合(脂肪エネルギー比率)の目標量を、1歳以上の男女で20%以上30%未満としています。
これに対して、2019年の国民健康・栄養調査(※2)によれば、脂肪エネルギー比率が30%を超えている人の割合は、20歳以上の男性で約35.0%、20歳以上の女性で約44.4%となっており、男女ともに脂肪エネルギー比率が30%以上の人の割合が増えてきています。
※1 厚生労働省 日本人の食事摂取基準
※2 国民健康・栄養調査
近年、油に対しての関心が高まっていますが、栄養指導を行う中でも、オリーブ油や亜麻仁油など、質が良いからといって摂り過ぎている方が多い印象です。
前述の通り、1gあたりのエネルギーが高い脂質の摂り過ぎは、カロリーオーバーにも繋がりやすく、肥満や生活習慣病の原因ともなり得ます。
油の質の見直しだけでなく、1日の油の摂取量が適正かどうかも振り返るようにしてみましょう。
余分な油を減らす方法
・レシピに記載されている油の量は1/3程度減らして作る
テフロン加工のフライパンが当たり前になった近年では、調理時の焦げ付き等の心配も軽減されている為、油は風味程度でも十分です。
また、調理油は目分量で使っている方も多く、結果的に必要以上に油を使用している場合がほとんどです。
これを機に、普段の調理でどれくらい油を使っているのか測ってみたり、レシピに記載されている油の量よりも少しずつ減らしてみるなど意識してみてはいかがでしょうか。
炒め物等、焦げ付きやすいものは、少量の油で炒めた後、鍋肌に少量の水を回しかけることで焦げ付きを抑えてくれます。
・ドレッシングはノンオイルタイプも活用
「野菜を食べる事は健康に良い、ダイエットに効果的!」と考え、サラダボウルに入った大盛りの野菜にドレッシングをたっぷりかけて召し上がっている方をよく見かけます。
体の調整や代謝には野菜に含まれるビタミンやミネラルは必須ですが、野菜を沢山食べようとしてドレッシングの量も増やしてしまうと、油の摂取量も多くなり、サラダ1つで300〜600kcalと想像以上に高カロリーになっていることも。
健康志向が高まっている近年では、カロリーを抑えたノンオイルドレッシングの種類も豊富です。
胡麻ドレッシングやシーザーサラダドレッシング等の濃厚なタイプでは大さじ1杯で60〜80kcal程となりますが、ノンオイルを活用する事で10〜30kcalと半分以下にカロリーを抑えることができます。
ただし、ノンオイルドレッシングはオイル入りに比べ塩分が高い傾向にある為、かけ過ぎには注意しましょう。
また、コンビニやサラダ専門店等でサラダを購入する際、ノンオイルドレッシングが選択肢にない場合もありますが、付属のドレッシングを使い切らず1/2〜1/3程度残すよう意識するだけでも余分な油やカロリーカットに繋がります。
「隠れ油」のピットフォール(落とし穴)
・油料理だけでなく、隠れ油の多い料理の頻度を減らす
唐揚げやカツといった油料理は、油の量が多く高カロリーな事は明らかなので、食べ過ぎに気を付けている方は多いと思います。
これに対し、見落とされやすいのが隠れ油。
例えば、ふわふわ卵のオムライス、ツナや卵のサンドイッチ、カレーやシチュー、茄子の揚げ浸しやかき揚げ等、調理の際に多量の油が使われていたり、油を吸いやすい食材の為に想像以上に油の摂取量が多くなっていることもしばしば。
コンビニ食やスーパーのお惣菜、外食など、栄養成分が表示されているものを活用する時は、一食あたりの脂質量が成人で15〜20g程度を目安としてメニュー選びをしてみましょう。
脂質量が分からない場合は、調理に油をあまり使わない燒く・煮る・蒸すなどの方法で調理されたメニューを選ぶよう心がけてみましょう。
・肉類は脂身の少ないものを選ぶ
バラ肉等の脂身の多い部位ではなく、モモや肩ロース等、脂身の少ない部位を選ぶようにするだけでも余分な脂質を減らす事ができます。
例えば、豚バラ肉100gのカロリーが390kcalなのに対し、豚ヒレ肉では130kcalと大きな差があるのが分かります(※3)。
※3 文部科学省食品成分データベース
また、意外と見落とされがちなのがミンチ肉。ミンチ肉は、赤身だけでなく脂身も多量に含まれている為、ミンチ肉を使ったハンバーグや餃子などの料理は脂質量が高くなりがちです。
自炊の場合は、「赤身肉使用」と表記のあるミンチ肉を選んだり、ミンチ肉の中でも脂質量が控えめな鶏ミンチを使うようにすると脂質を抑えることができます。
ハンバーグなら、牛や豚のミンチ肉だけを使うよりも、鶏ミンチや豆腐を混ぜて牛や豚ミンチの割合を減らすだけで、通常のハンバーグの1/4〜1/2個分のカロリーを削減できます。
・レモン汁やビネガー、生姜、シナモンなど香りのあるものを活用する
香りのあるものを活用することで、味に風味や深みが増すため、脂質が控えめでも満足感の得られる内容となります。また、レモン汁や酢は、油の代謝を促し身体に蓄積されにくくしてくれるので、肉や魚、油っぽいお料理にかけて食べてみてはいかがでしょうか。
今回は油の摂り方や適量に関して解説しました。
旨味・栄養・食事の食べ応え、どれをとっても「脂質」は私たちの生活に必須です。しかし、上手に摂らないと健康を害す難しい栄養素でもあります。健康に良いといわれている油でも摂り過ぎには注意して、自身に必要なものを上手く活用していきましょう。
文/中村康宏
医師。虎ノ門中村クリニック院長。アメリカ公衆衛生学修士。関西医科大学卒業後、虎の門病院で勤務。予防の必要性を痛感し、アメリカ・ニューヨークへ留学。予防サービスが充実したクリニック等での研修を通して予防医療の最前線を学ぶ。また、米大学院で予防医療の研究に従事。同公衆衛生修士課程修了。帰国後、日本初のアメリカ抗加齢学会施設認定を受けた「虎の門中村康宏クリニック」にて院長。一般内科診療から健康増進・アンチエイジング医療までの幅広い医療を、予防的観点から提供している。近著に「HEALTH LITERACY NYセレブたちがパフォーマンスを最大に上げるためにやっていること」(主婦の友社刊)がある。
【クリニック情報】
虎の門中村クリニック
ホームページ:https://toranyc.com
住所:東京都港区虎ノ門3丁目10-4 虎ノ門ガーデン103
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