文/鈴木拓也
認知を意味する「Cognitive(コグニティブ)」と「トレーニング」を組み合わせて「コグトレ」。
コグトレは、認知機能を高めるメソッドとして、小中学校を中心に多くの教育機関で採用されている。
開発したのは、立命館大学産業社会学部・大学院人間科学研究科の宮口幸治教授。かつて、精神科医として少年院に勤務していた頃、認知機能に問題を抱えた子どもたちと間近に接したことから、このトレーニング法を生み出したという。
その効果の大きさが認められ、今では、学校だけでなく、高齢者の認知症予防や脳機能障害のリハビリにも活用されるほどに。
そんなコグトレをベースに宮口教授が、中高年向けのトレーニングブックとして刊行したのが『医者が考案した 記憶力をぐんぐん鍛えるパズル コグトレ』(SBクリエイティブ)だ。
本書では、認知機能の中でも「覚える」「教える」「見つける」「想像する」を鍛えることを主眼とし、14種の課題(1日2題、50日分)を収録している。特に「覚える」問題にウェイトを置き、今後の予定・約束を思い出す「展望記憶」の課題が多いのは、日常生活において重要性が高いから。例えば、初対面の人の名前を覚え、次に会った際にその人の名を想起できるのも展望記憶の働きだ。
一例として、トレーニング1日目の設問を以下に載せる。3人ともすっと覚えられるだろうか?
3日後(トレーニング4日目)の課題がこちら。一時的に覚えられていても、数日も経てばあやふやになっているかもしれない。
本書のルールとして、1日に何日分もの問題を進めないというのがある。その制限での記憶が苦手に人向けに、宮口教授はヒントを出している。それが「符号化」と「リハーサル」というものだ。
符号化というのは、「文字にほかに意味をもたせたり、ほかのことに置き換えたりして覚えること」。初対面の「青木さん」を、「青空のようにさわやかな笑顔」という第一印象と引き付けて覚えるのも符号化にあたる。
「リハーサル」とは、「何度も口に出す、書く、聞くなどして繰り返すこと」。なにも一発で覚えるのが記憶力ではないということだ。
さて、記憶力の問題をもう1つ取り上げよう。以下の図を10秒間だけ見て、記憶だけを頼りにノートに書き写してみよう。課題を見ている間は、どんな形があるのか言葉に出してもかまわない。
次は、「数える」能力を高める設問。各四角の中には、縦、横、斜めの隣り合った3つの数字を足して15になるものが2つずつある。難易度は高めだが、チャレンジしてほしい。
このように本書には、各認知機能を高めるバラエティーに富んだ課題がある。「まだまだ若い」と思っていても、最近物忘れが気になるとか、目の前の相手の名前がとっさに出てこないといった自覚のある方は、やってみて損はないだろう。
【今日の健康に良い1冊】
『医者が考案した 記憶力をぐんぐん鍛えるパズル コグトレ』
文/鈴木拓也 老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライター兼ボードゲーム制作者となる。趣味は神社仏閣・秘境巡りで、撮った映像をYouTube(Mystical Places in Japan)で配信している。