元麻布『かんだ』は、東京の日本料理店の中でも、私が最も好きな1軒です。季節の食材に敬意を払い、その食材に正攻法の調理を施し、華美を排して、簡潔な美味しさを追求する――。ご主人・神田裕行さんのそんな料理哲学が、私はとても気に入っています。
例えば、夏なら「鮎の塩焼き」。じっくりと細心の注意で焼き上げられた小ぶりの鮎は、焦げているのではなく、じつに香ばしく火が通っています。頭は唐揚げ、胴体は塩焼き、尾は干物になっていて、3つの味わいが楽しめます。
これにはビールがぴったりで、頭をがぶりとやっては一口、胴を食べては一口と、一尾の鮎を三口のビールで楽しみます。とりわけ、頭の苦みにビールの苦みが呼応して、甘い味わいに変化するのが不思議です。
『かんだ』の鮎の塩焼きには3つの条件があり、鮎の体長が20センチ未満であること、生きていること、そして、炭火で焼き上げることです。
本来、日本料理では「焼き物」は献立の後半に登場するのですが、夏真っ盛りのこの季節、誰もが「鮎」を食べたくてやってくることを考え、神田さんは料理の3番目あたりに「鮎の塩焼き」を出してきます。憎い演出ですね。
「鮎」のほか、この季節「鱧」はお椀に、「鰻」は蒲焼になって登場します。
【かんだ】
住所/東京都港区元麻布3-6-34カーム元麻布1階
TEL/03-5786-0150
営業時間/18:00~24:00(L.O.22:00)
定休日/日曜日・祝日
http://www.nihonryori-kanda.com/information/
文/山本益博
料理評論家・落語評論家。1948年、東京生まれ。大学の卒論「桂文楽の世界」がそのまま出版され、評論家としての仕事をスタート。TV「花王名人劇場」(関西テレビ系列)のプロデューサーを務めた後、料理中心の評論活動に入る。
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