日本橋人形町の交差点近くに、洋食『キラク』があります。いまから30年ほど前、拙著『東京・味のグランプリ1986』でこの店を「ビーフかつれつが出色の出来である」と紹介しました。
その後、ふらりと店を訪れると、年配のご主人に、こういわれました。「うちはビーフかつじゃなくて、ポークソテーが売りもんなんです」と。私は謝りながらも、ビーフかつの美味しさを力説しました。
そうして、またしばらくして出かけると、店の前に行列ができていました。カウンター席に着くなり、目の前のご主人に「いやあ、ビーフかつばかりでます。でも、揚げる時間が短くて済むものだから、混んでいても助かります」と、一転して感謝されました。
「ビーフかつ」が『キラク』の代名詞になった瞬間でした。
その流れをくむのが、同じ人形町の『そよいち』です。8年前に店を開き、メニューは『キラク』と変わらず、ビーフかつれつもポークソテーもあります。
どの皿にもマカロニサラダが添えられていて、どれもが先代の味をそのまま継承していることは嬉しい限りです。
【そよいち】
住所/東京都中央区日本橋人形町1-9-6
TEL/03-3666-9993
営業時間/11:00-14:30、17:30-20:00
定休日/毎週日、月曜日
http://sotokichi.web.fc2.com/
文/山本益博
料理評論家・落語評論家。1948年、東京生まれ。大学の卒論「桂文楽の世界」がそのまま出版され、評論家としての仕事をスタート。TV「花王名人劇場」(関西テレビ系列)のプロデューサーを務めた後、料理中心の評論活動に入る。
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