福井県に、キッチンバサミや包丁などの道具をいっさい使わず、驚くような速さでズワイガニをむく名物女将がいる。蟹料理が自慢の旅館『白浜荘』を一代で築き上げた、板倉美津子さんだ。
地元では名が知られ“むきむきみっちゃん”の方が通りがいい。
「ズワイガニの食べ放題コースを注文されたお客さんに“むいてくください”と頼まれたのが始まりです。私はこの地の生まれで、子供の頃はご飯のおかずは蟹でした。まだ、安かったんですよ。それで、家族のために毎日、蟹をむいていたからお手の物だったんです」(板倉さん)
解体は、慣れれば3分。むきむきみっちゃんの神業ならぬ“カニ技”を教えていただこう。
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(1)まずはズワイガニを裏返し、腹を上にして皿などに置く。これは、甲羅から蟹味噌がこぼれないようにするためだ。
(2)腹に手を添え、脚を3本ほどまとめて掴み、手前へ引くように脚を折る。それほど力を入れなくとも脚は外れる。
(3)脚先の細い部分は、関節で折ってから引くと、中の筋が抜ける。筋を抜いておくと、肉を取り出しやすい。
(4)次に、脚を折って中の肉を押し出すが、折る位置は真ん中のこのあたり。ここで折ると、肉が出しやすくなる。
(5)脚の真ん中を目安にして折る。茹でたズワイガニの脚は軟らかいので、力を入れなくても折れる。
(6)ふたつに折った脚の片側を持ち、根元から指先で押すと、肉が出てくる。(3)から(6)までを繰り返し、脚の肉を押し出しておく。
(7)爪も、(3)のように関節で折ってから引くと、筋が出てくる。筋を抜いておくことが、きれいに肉を出すコツだ。
(8)爪の下の殻を指で押し割り、爪先を持って殻を引くと肉を取り出せる。これで、脚の肉を取り出す作業は完了。
(9)甲羅は、裏側にある「フンドシ」(または「前掛け」「はかま」)と呼ばれる部分を最初に外す。
(10)甲羅から中身を引きはがす。灰色の「ガニ」と呼ばれるエラは食べられないので、むしり取る。
(11)中身を取り出すと、蟹味噌が現れる。そのまま食しても美味だが、燗酒を入れて味噌と混ぜ、甲羅酒にしてもよい。
(12)脚の付け根にも、肉が詰まっている。殻を少しずつむきながら、丁寧に肉を取り出していく。
(13)付け根の肉も、指で押し出すように取り出す。肉は最初の写真のように甲羅へ入れると見た目がよい。
実際のむき方がよくわかる、板倉さん直伝のスペシャル動画もご覧ください。
【白浜荘】
住所:福井市西二ツ屋2-1
電話:0776・86・1316
アクセス:JR福井駅前より京福バス鮎川行きで約40分、浜中下車すぐ。4~5名以上は、福井駅への送迎あり。
料金:越前がにフルコース付き1泊2食でひとり2万5000円~。料理付きの日帰りコースはひとり1万円~(要予約)
※この記事は『サライ』本誌2017年1月号より転載しました。肩書き等の情報は取材時のものです。(取材・文/宇野正樹 撮影/小林禎弘)