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作家・文士たちが愛した絶品の蟹料理を巡る

開高健はセイコガニ(ズワイガニの雌)を「海の宝石箱」と評し、渡辺淳一は毛ガニの「上品で円ま るみ」のある味をこよなく愛した。作家たちが才筆をふるって賞賛した、その旨き蟹料理を訪ねてみよう。

■1:開高健の越前がに

《丹念にほぐしていくと、赤くてモチモチしたのや、白くてベロベロしたのや、暗赤色の卵や、緑いろの“味噌”や、なおあれがあり、なおこれがある。これをどんぶり鉢でやってごらんなさい》(『地球はグラスのふちを回る』より)

セイコガニ8杯分をほぐし、福井県産の米2合の上に盛った「開高丼」。丼の直径約20cm。2~4人で取り分けて食べるとよい。1万1400円。

昭和40年冬、開高健(かいこう・たけし、1930~89)は雪が舞う福井県越前海岸の崖の上に立っていた。見下ろす斜面一帯に水仙が咲き、轟くような海鳴りが辺りに響く。開高は両腕を天に突き上げると、海に向かって「日本、ここにありじゃ!」と大声で叫んだ。

これが、開高にとって初めての越前海岸だった。激化するベトナム戦争の取材から帰国し、疲れた心身を癒すための旅であった。

宿るは明治3年(1870)に創業した老舗の宿『こばせ』。部屋へ通された開高は、蟹だけを所望した。待つことしばし、古九谷の皿に湯気をたてながら山盛りの越前がに(※福井県の三国港、越前港、敦賀港、小浜港に水揚げされる雄のズワイガニ)が運ばれてきた。

《とろりと清雅な脂ののった白く豊満な肉に紅が一刷き散ったのをいくつもいくつも酢醤油の鉢のなかへほりこみ、チマチマとではなく、ガップリと箸ではさんで頬ばるのである。この瞬間。完璧な充足。決定的で完璧な瞬間。しかもその瞬間が、ああ、切れめなしに、いつまでもつづくのである》(『開口一番』より)

開高が好んだ「カニの洗い」(刺身)。1人前3500円~(注文は2人前=写真=以上から)。右奥は「開高健メモリアル酒ごぞんじ」(720ml 4500円)。

越前がにの桁外れの旨さと宿の素朴なもてなしに魅せられた開高は、以来20余年の長きにわたり『こばせ』へ通い続けた。

あるときは、とろけるような蟹の刺身に舌鼓を打ち、またあるときは「海の宝石箱」と喩えたセイコガニと呼ばれるズワイガニの雌の甲羅の中身を丹念にほぐし、暗赤色の卵や緑色の味噌を堪能した。

思えば、開高はもともとが恐るべき食欲と探究心の持ち主。「心に通ずる道は胃を通る」という言葉を胸に、世界中を旅して美味佳肴、珍味魔味を食べ尽くした。その果てに越前海岸に通い詰め、ついにはこんな呟きをもらした。

《みんな食べてみたが、日本海の蒸したての蟹ほどのものがあるだろうか》(『開口一番』より)

ここに至り、開高の中で越前がにが世界の味覚の最高位に位置づけられたと言っていい。

『こばせ』では、いま「開高丼」という名物料理を供している。8杯分のセイコガニをほぐし、内子や外子(卵)、肉に特製のタレで味付けを施し、炊きたての米飯にこれでもかというほど盛り込む。

見るからに、豪華で贅沢。頬張ればまさしく、作家が言うところの「脆美、、繊鋭、豊満、精緻」が口中を満たすのである。

『こばせ』の客室からは日本海が望める。部屋に落ち着いた開高は、昭和初期の書家・西脇呉石が宿のために書き残した漢詩を見ると、即興で上の色紙のように訳してみせた。

【ふるさとの宿 こばせ】
福井県丹生郡越前町梅浦58-8 
電話:0778・37・0018
アクセス:米原駅または金沢駅より特急で約1時間のJR武生駅よりタクシーで約40分。
料金:1泊2食付き ひとり2万3000円~(蟹のフルコースは3万円~。)
チェックイン15時、チェックアウト10時。

■2:立原正秋の越前がに

《まず足のつけ根の肉を食べ、つぎには甲羅のなかの味噌をほめ、それからそこに熱燗の酒をそそぎ、これまた微妙な味にしたつづみを打ち、最後に足の肉を賞味したのである》(『夢幻のなか』より)

主人自らセリで最高の越前がにを仕入れ、蟹料理は茹で蟹のみ。11月~3月の解禁時期にだけ供する。越前がにがひとりに1尾(1kg以上)付いてひとり4万円~、ふたりで1尾(1.1kg以上)だとひとり3万円~。

ある年の冬、立原正秋(たちはら・まさあき、1926~80)は京都を訪ねるべく新幹線に乗っていた。その車中で、ばったり開高健と出会う。これから福井県に向かうという開高は、海から揚がったばかりの蟹を茹で上げて食べる美味しさを縷々と語った。このとき、立原の中で越前がには「幻の蟹」になった。《金沢、鳥取、松江でも蟹は食べているが、私の味覚遍歴から越前の蟹だけはぬけていた》(『夢幻のなか』より)

その幻の味に惹かれ、立原が福井県三国町(現坂井市)を訪れたのは昭和49年2月末のことだった。目指すは蟹料理の名店『川㐂』。

「立原先生がウチに来られたのは、水上勉先生のお薦めもあったと聞きました。蟹を食べていただく前に港へご案内し、陸揚げやセリの様子などをご覧いただくつもりが、海がしけて船が早く帰ってきてしまった。やきもきして、先生をお待ちしたのを覚えています」

『川㐂』の先代主人で、杏雨の俳号をもつ大森喜代男さん(94歳)は、昨日のことのように振り返る。

結局、陸揚げやセリは見られなかったが、大森さんは港の市場や街中の廓跡に立原を案内し、かつて北前船で賑
わい、詩人の三好達治も暮らした三国の古くからの余情を味わってもらったという。横なぐりの海風にのり、止
みかけていた雪が霰となり立原の頬を打った。そして、いよいよ待望の蟹との対面が実現する。立原が綴る。

《幻の越前蟹に現実にであったのは、大森氏の経営する〈川喜〉でだった。十八年ほどかかって成長したという蟹で、その金色の足をみたとき、私は蟹の王者に相応しい風姿だと思った。(略)やがてこの蟹を茹で、大森氏自ら食べよいように手をいれてくれたが、まさにこれは美味だった》(『夢幻のなか』より)

「蟹の本来の美味しさは、この地の海や気候がもたらす天与の味です。私はそれをどう引き出すか、どうしたらお客さんに喜んで食べてもらえるか、ひたすらそれだけを考えて仕事をしてきました。茹で加減と塩加減が勝負です」(大森さん)

その姿勢と味は、代替わりした現在の『川㐂』にも継承されている。詩人の田村隆一(たむらりゅういち、1923~98)も、この店で茹でたての越前がにを賞味した。その際、翻訳家でもあった田村の口を思わずついて出たのは、「ベリー・グッド!」のひと言だった。

請われても、色紙など余り書かなかった立原が『川㐂』のため自ら筆をとったという。三国の風土と蟹の旨さに、よほど魅了されたのだろう。

【川㐂】
福井県坂井市三国町中央2-2-28 
電話:0776・82・1313
営業時間:11時30分~19時(入店) 
定休日:日曜夕方、年末年始 部屋は4室(すべて個室)。要予約。
アクセス:えちぜん鉄道三国神社駅より徒歩約10分。JR芦原温泉駅よりタクシーで約15分。

■3:渡辺淳一の毛ガニ

《甲羅の裏の味噌は脂肪と蛋白に富み、これを指ですくって食べ始めると、フォアグラを食べたような感じで、急にお腹が一杯になってくる》(『これを食べなきゃ 私の食物史』より)

『銀鱗荘』の夕食(会席料理)で供される毛ガニ(半身で1人前。蟹は季節により種類が異なる)。レモンと生しようが姜が添えられる。他に、鰊鎌倉焼き、蝦夷鮑陶板焼き、蟹味噌豆腐、お造り、いくらご飯などが並ぶ。日本酒1合550円~。

北海道に生まれ育った渡辺淳一(わたなべ・じゅんいち、1933~2014)は、幼時から蟹に馴染んでいた。医師となり、昭和30年代の半ばに釧路から奥に入った炭鉱の病院へ新米医師として出張していた渡辺は、駅のホームで茹でた花咲ガニを度々、買い求めた。値段も安く、周りの乗客と蟹を食べながら酒を飲み、大らかな旅を愉しんだ。

往時には、苫小牧から室蘭に至る噴火湾沿岸や釧路一帯で、獲れたての毛ガニを軽く湯通しして売る屋台が並んでいた。渡辺はドライブがてら買い込むと、車の中で味わった。関節を手で折り、殻を歯で砕き、肉や味噌を指で取り出して食べる。花咲ガニやタラバガニに比べると味は薄いが、その分だけ「上品な円み」があり、渡辺は毛ガニこそが「蟹の王者」だと確信していた。周囲にも「数ある蟹の中で最も旨いのは毛ガニ」と吹聴するほどであった。

その後、流行作家となり、東京暮らしに馴れた渡辺は、一抹の郷愁とともに時折、北海道の小樽を訪れた。『料亭旅館 銀鱗荘』では、鰊御殿の豪奢な雰囲気の中、毛ガニをはじめとする北海道らしい豊かな食を愉しんだのである。

【料亭旅館 銀鱗荘】
住所:北海道小樽市桜1-1 
電話:0134・54・7010 
料金:1泊2食付きでひとり5万4150円~(写真の新館特別室『鶴』は12万750円)チェックイン15時、チェックアウト11時。
アクセス:新千歳空港より車で約1時間。札幌駅より快速で約25分のJR小樽築港駅よりタクシーで約5分。

■4:山口瞳の松葉ガニ

山口瞳(やまぐち・ひとみ、1926~95)には、各地にお気に入りの店や宿があった。旅館、料亭、酒場、喫茶店などを文化そのものと賞揚し、通い詰めた。

京都・天橋立の旅館『文珠荘松露亭』(当時は文珠荘別館)もそのひとつ。静かで、落ち着いたこの宿の「平らかさ」を好み、繰り返し、宿泊した。著書『行きつけの店』にこう綴る。

《天橋立の文珠荘別館への旅を思いだすとき、いつでも私に一つの言葉が浮かんでくる。それは「平ら」という言葉だ。何もかも真ッ平らで穏やかである》

もちろん、蟹会席の夕食も大きな魅力。山口瞳は、地物の松葉ガニ(※山陰地方で水揚げされる雄のズワイガニ。京都府の間人港で水揚げされたものは、間人ガニと特に呼ばれる。)をふんだんに使った料理を3時間近くかけて愉しんだという。

『文珠荘松露亭』では、宿泊客向けの冬季の夕食に松葉ガニを用意。地元で獲れた松葉ガニを使い、お造り(右奥)、椀(左奥)ほかを供する。

【文珠荘松露亭】
京都府宮津市天の橋立文殊堂岬
電話:0772・22・2151
アクセス:京都丹後鉄道天橋立駅より徒歩約3分。
料金:1室2名利用で1泊2食付きひとり6万円~(税別・サ込)。

※この記事は『サライ』本誌2017年1月号より転載しました。肩書き等の情報は取材時のものです。(取材・文/矢島裕紀彦 撮影/宮地 工、小林禎弘)

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