モーウイを使ったイリチー料理。たっぷりだしを含んで、沖縄でいうところの「あじくーたー」(濃厚な味わい)になる。

文/鳥居美砂

沖縄の真夏の市場は葉野菜がめっきり少なくなり、ゴーヤー、ナーベーラー(へちま)、モーウイといった瓜類が主役となります。

モーウイは、全国的には赤瓜や越瓜(えっか)と呼ばれ、水分たっぷりで瑞々しく、きゅうりに似た味わいですが、きゅうり独特の青臭さはありません。

沖縄の伝統的農作物「島野菜」のひとつにも挙げられています。

外側は乾いたような赤茶色をしていますが、果肉は白く、水分たっぷり。

15世紀に中国・華南地方から持ち込まれ、琉球王朝時代は宮廷料理に用いる食材だったそうです。のちに一般家庭にも広がりました。

家庭では浅漬けにしたり、軽く塩もみした後に三杯酢などをかけた和え物として食べられます。

松本料理学院の琉球料理コースでは、「イリチー」と呼ばれる炒め煮にします。松本嘉代子学院長は、その意図をこう説明します。

「生では食べられる量が限られますので、しっかりと野菜を摂るには熱を加える調理法がおすすめです。一度茹でて脂分を落とした豚三枚肉(バラ肉)と一緒に炒め、だしで煮含めていきます。だしは豚だしか、濃いめに取った鰹だしを使いますが、両方を混ぜて使えば美味しさが増しますよ。

この料理は、だしを吸わせていく過程に時間がかかります。冷凍保存も効くので、多めに作っておくといいでしょう」

【材料(5人分)】
モーウイ        1.2kg
サラダ油        大さじ2
茹でた豚三枚肉     80g
だし(豚だし・鰹だし) 適量
塩           小さじ1
醤油          少々

【作り方】

(1)モーウイは皮を取り、縦に2つ割りにして種を除き、5ミリ〜1センチ厚さに切る。


(2)茹でた豚三枚肉は1センチ幅の短冊に切る。


(3)鍋にサラダ油を熱して(2)を入れ、脂がジリジリ出てきたら、(1)を入れて強火で炒め、全体に油が回ったらだしを鍋肌から加え、中火にしてゆっくり煮込む。


(4)途中で煮減りしたら、数回にわけてだしを鍋肌から加える。だしの量はモーウイがだしを吸う加減で決める。


(5)モーウイが軟らかくなったら、塩と醤油を加えて味が浸透するまで煮込む。火加減は中火で、ふつふつと煮える程度を維持する。

「『イリチー』は、単なる煮物とは違います。だしが減ってはまた足し、を繰り返して食材にだしの旨みを十分に吸わせます。だしの旨みを味わう料理といってもいいでしょう」(松本先生)

たっぷりだしを用意し、作るのに時間もかかるので、家庭で作ることがめっきり減りました。しかし、ひと口食べると、その奥深い味わいに感激します。

*  *  *

この取材の直前、沖縄県の平均寿命が都道府県別の順位で46位(男女平均)になったというショッキングな発表がありました。東京大学らの研究チームが2015年時点の平均寿命を独自の統計手法で算定した結果とのことです。

松本嘉代子さんは「沖縄県は野菜の摂取量もここ最近、ずっと下位です。メタボにいたってはワースト1です。沖縄の食生活を見直さないと、いずれこのような結果を招くと危惧し、声をあげてきたのですが……」と悔しさを漏らされていました。

「琉球料理のよさを伝え続けることで、伝承・普及につなげられます。まずは家庭で、日常食や行事食を作ってもらう。そんな人がひとりでも多く増えることを願ってやみません」と語る松本先生。

今回ご紹介いただいた料理も、季節の野菜と豚肉を巧みに合わせ、だしをたっぷり使うことで塩分を減らす。まさに「ぬちぐすい」、滋養豊かなひと皿です。次世代に沖縄の食文化を伝えていく先生の意欲は衰えません。

リサイズ松本先生Bパターン

松本嘉代子(まつもと・かよこ)  松本料理学院学院長。沖縄の食文化、琉球料理の保存・普及・継承に向けての県の検討会委員を務める。新聞、テレビ、講演会などでも活躍。『沖縄の行事料理』『おきなわの味』など著書多数。 松本料理学院のサイトはこちら

文/鳥居美砂
ライター・消費生活アドバイザー。『サライ』記者として25年以上、取材にあたる。12年余りにわたって東京〜沖縄を往来する暮らしを続け、2015年末本拠地を沖縄・那覇に移す。沖縄に関する著書に『沖縄時間 美ら島暮らしは、でーじ上等』(PHP研究所)がある。

 

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