会津若松 鶴ケ城

福島県は日本屈指の酒どころとして全国に名を轟かせています。特に会津エリアを中心に、独自の酵母と米を活かした個性豊かな日本酒が数多く存在しています。日本酒を学び始めたい方にとって、福島の日本酒は高品質ながら手に取りやすい価格帯が多く、ぴったりの入門編と考えています。

文/山内祐治

目次
福島の日本酒──「9連覇の実力」と“次の一歩”
会津エリアが生み出すフルーティーで芯の通った日本酒
福島が誇る個性豊かな日本酒銘柄
個性的なラベルと確かな味わいの「人気一」
会津が誇る「冩樂」の魅力と入手の難しさ
福島でしか買えない隠れた名酒を求めて
まとめ。日本酒入門者こそ福島の銘柄からはじめよう

福島の日本酒──「9連覇の実力」と“次の一歩”

福島県の日本酒は、「新酒鑑評会」で金賞受賞蔵数が全国一という輝かしい記録を持っています。全国一は平成24BY(2012醸造年度)~令和2BY(2020)まで9回連続で、2025年発表(令和6BY)で3年ぶりに首位に返り咲きました。新酒鑑評会とは簡単に言うと、国内全国規模で行われる日本酒のコンクールで、各蔵の杜氏の腕前を競う場です。

福島県がこのように高い評価を得ている背景には、県内の蔵元同士の緊密な協力関係や、県技術アドバイザー鈴木賢二氏がまとめた『福島流吟醸酒製造マニュアル』をはじめとしたたくさんの要因があります。蔵元たちが「福島の日本酒」というブランドを確立するために一丸となって取り組んできた結果、福島県は“どの銘柄を選んでも外れがない”と言われるほどの信頼を獲得しています。

会津エリアが生み出すフルーティーで芯の通った日本酒

福島県の日本酒の中でも、特に高い評価を得ているのが会津エリアのお酒。その特徴は、メロンのようなフルーティーな香りと、柔らかな甘みがありながらも芯が通った味わいにあります。内陸地域である会津の気候風土を反映して、重心が低く、どっしりとした飲み応えがあるのも会津エリアの酒質です。

この会津らしさを支えているのが、県産酵母「F7−01」と県産酒米「夢の香」の絶妙な組み合わせです。料理との相性も抜群で、牛肉などの肉料理、天ぷらなどと好相性をつくりやすいです。旨みとキレを両立させたお酒も多く、和食だけでなく洋食とのペアリングも楽しめるのが、会津の日本酒の魅力です。

福島が誇る個性豊かな日本酒銘柄

福島県で特に人気の高い日本酒銘柄としては、会津エリアの「冩樂(しゃらく)」「飛露喜」「花泉」「ロ万」「会津中将」「廣戸川」などが挙げられます。二本松エリアの「人気一」も高い評価を得ています。

これらの銘柄は純米吟醸や特別純米など、比較的手頃な価格帯(1,800円〜2,500円程度)で楽しめるものが多く、初心者でも手を出しやすいのが魅力です。特に「飛露喜」は2000年代に純米の無濾過生原酒を世に問い、会津の日本酒の礎を築いた銘柄として知られています。

また、会津とは異なるタイプの日本酒として、「にいだしぜんしゅ」「大七」「磐城壽(いわきことぶき)」なども福島県を代表する銘柄です。「磐城壽」は東日本大震災で蔵が全壊する被害を受けながらも、山形県の蔵を借りて酒造りを続け、その後、福島県浪江でも再興を果たした感動的なストーリーの持ち主です。

個性的なラベルと確かな味わいの「人気一」

二本松市に蔵を構える「人気一」は、その名の通り福島県内外で高い人気を誇る銘柄です。「人気一」の特徴のひとつは、ウルトラマンラベルをはじめとする個性的なデザインのボトルも展開していることです。伝統的な日本酒のイメージを覆すようなポップなデザインは、若い世代や日本酒に馴染みのない層にも親しみやすく、日本酒の間口を広げることに一役買っています。

しかし、「人気一」の魅力はラベルだけではありません。その中身は福島県の高い酒造技術を余すところなく活かした、確かな品質を持つ日本酒です。二本松エリアの風土を反映した味わいは、会津エリアとはまた異なる個性を持ち、福島県の日本酒の多様性を示す好例となっています。

会津が誇る「冩樂」の魅力と入手の難しさ

会津エリアを代表する銘柄のひとつが「冩樂」です。宮泉銘醸が手掛けるこの銘柄は、特に日本酒通の間で高い支持を得ており、その名前を聞くだけで期待が高まる銘柄のひとつです。

冩樂」の魅力は、フルーティーでありながらも芯のしっかりとした味わいにあります。メロンを思わせるような爽やかな香りと、口に含んだときに広がる柔らかな甘み、そして最後までしっかりとした骨格を感じさせる飲み口は、まさに会津の日本酒の特徴を体現しています。

ただし、その人気の高さから「冩樂」は入手が難しい銘柄としても知られています。とはいえ、福島県、特に会津エリアの日本酒は全体的に高いレベルにあるため、「冩樂」が見つからなくても他の銘柄を試すことで、会津の日本酒の魅力を十分に堪能することができます。

「冩樂 純米吟醸」(宮泉銘醸)

福島でしか買えない隠れた名酒を求めて

福島県の日本酒の魅力をより深く知りたいなら、福島県でしか手に入らない限定酒を探してみるのも一興です。特に冬から春にかけての新酒の季節には、搾りたての新鮮な香りと味わいを持つ新酒が楽しめます。

東京では、日本橋三越の近くにある福島県のアンテナショップ「日本橋ふくしま館 MIDETTE」を訪れることで、福島の隠れた名酒に出合えるチャンスがあります。特に冷蔵庫に保管されている季節限定の生酒などは、福島の酒造りの季節感を感じられる貴重な一本となるでしょう。

また、機会があれば福島県を訪れ、各酒蔵を巡るのもおすすめです。酒蔵直売の限定酒を購入できるだけでなく、酒造りの現場を見学することで、福島の日本酒への理解と愛着がさらに深まります。

まとめ。日本酒入門者こそ福島の銘柄からはじめよう

福島県の日本酒は、長年にわたる蔵元たちの努力と情熱によって築き上げられた確かな品質と個性を持っています。全国新酒鑑評会で長きにわたり金賞受賞数トップとなった実績は、福島の日本酒の高い品質を証明するものであり、初心者にとって「外れのない選択」となるでしょう。

会津エリアを中心とした“会津らしさ”を感じる銘柄は、フルーティーな香りと芯の通った味わいが特徴で、日本酒初心者でも親しみやすい風味を持っています。「飛露喜」「冩樂」「ロ万」「花泉」といった銘柄は、その代表例です。

特筆すべきは、福島の日本酒が比較的手頃な価格で高品質なものが多いという点です。特別純米から純米吟醸クラスに優れた銘柄が多く、日本酒初心者でも気軽に挑戦できるコストパフォーマンスの高さも魅力です。

また、福島県は震災や原発事故という困難を乗り越えながらも、高品質の日本酒を生み出し続けています。「磐城壽」のように一度蔵を失いながらも再起を果たした酒蔵の姿は、福島の復興と日本酒文化の力強さを象徴しており、その酒を味わうことは応援の意味も持ちます。

まずはアプローチしやすい銘柄からはじめ、徐々に「冩樂」や「飛露喜」のような人気銘柄に挑戦していくのがおすすめです。日本酒の奥深い世界への入り口として、福島県の日本酒は理想的な存在なのです。

山内祐治(やまうち・ゆうじ)/「湯島天神下 すし初」四代目。講師、テイスター。第1回 日本ソムリエ協会SAKE DIPLOMAコンクール優勝。同協会機関誌『Sommelier』にて日本酒記事を執筆。ソムリエ、チーズの資格も持ち、大手ワインスクールにて、日本酒の授業を行なっている。また、新潟大学大学院にて日本酒学の修士論文を執筆。研究対象は日本酒ペアリング。一貫ごとに解説が入る講義のような店舗での体験が好評を博しており、味わいの背景から蔵元のストーリーまでを交えた丁寧なペアリングを継続している。多岐にわたる食材に対して重なりあう日本酒を提案し、「寿司店というより日本酒ペアリングの店」と評されることも。

構成/土田貴史

 

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