
ライターI(以下I):『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(以下『べらぼう』)第27回では、佐野政言(演・矢本悠馬)が、田沼意知(演・宮沢氷魚)に殺意を抱き、切りつけるまでの物語がメインで展開されました。
編集者A(以下A):将軍家治(演・眞島秀和)の世子家基(演・奥智哉)の不審死、時代を駆けた異才平賀源内(演・安田顕)の死などに、一橋治済(はるさだ/演・生田斗真)が絡んでいる気配があります。
I:そうした中で、宮沢氷魚さんの取材会が行なわれました。通常は、複数の質問に対して、演者がどう答えたのかという視点で構成するのですが、今回は、「大河ドラマとは?」という根源的で大切なものが宮沢さんから語られたので、イレギュラーではありますが、「一問一答」ということでお送りします。
A:こちらからの質問は、「渡辺謙さんと共演して感じたこと、得たものについて教えてください」です。
謙さんからいただいたものは本当にたくさんありました。謙さんは本当に優しい方です。収録では、カメラも構えずに一度芝居を固めるドライというのがあります。ドライがあって、テストがあって、本番になるのですが、ドライで芝居を固めた後、セッティングの間に少し時間があり、謙さんとお話をすることがありました。このセリフはもうちょっとこうした方がいいとか、ここを強調した方がいいとか、謙さんが見ていて感じたことを共有してくださるし、良かったことに関しては、これはすごく良かったからこれでいこう、といった感じで、ふたりで話し合って、そのシーンをどんどん良いものにしていこうとしてくださったんです。
自分がこれまで培ってきたノウハウというか、言葉でいうと難しいのですが、ある意味、商売道具だと思うんですが、それを誰かと共有するというのは、自分の大きな財産を分け与えていることになると思うんです。謙さんはそういうものを惜しみなく、どんどん共有してくださるんですね。それに、謙さんの立ち居振る舞いを見ているだけでも、すごく学びがたくさんありました。
A:今回の取材はIさんが参加しているので、私はテキストデータでこのお話に触れているのですが、なんというのでしょう。「あ、確実に大河ドラマの伝統は繋がれているんだ」と、ジーンときましたね。理由については後述しますが、先に宮沢氷魚さんのお話の続きをどうぞ。
謙さんとは以前、舞台でもご一緒していて、その時からすごく感じていたことなのですが、適度な緊張感を与えてくれるんです。でも、近寄りがたい存在でもないし、自然と謙さんとお話をしたくなる、いろんなことを聞きたくなる、そんな方なんですよね。僕も何回か『べらぼう』の収録期間中に行き詰まった瞬間があったというか、どうしたらいいかわからなくて悩んだ時があったのですが、そういう時に一番に相談したのはやはり謙さんでした。だいたい、謙さんは僕が悩んでいるところ、気にしているところに真っ先に気付いてくださっていて、相談に行くと、ああ、あそこでしょ、とすぐ反応してくれました。全部わかってくれている気がしたので、謙さんと一緒にいるとすごく安心できました。何かあったら助けてくれるんですよね。本当のお父さんのようでもありました。
A:宮沢氷魚さんは今年31歳で、渡辺謙さんは65歳。たしかに本当のお父さんといってもおかしくない年齢差ではあります。そして、私が感じ入っているのは、「繋がれる大河ドラマの伝統」です。いまから38年前、28歳で大河ドラマ『独眼竜政宗』の主演を張った渡辺謙さんですが、豊臣秀吉を演じた勝新太郎さんとの掛け合いは、いまや大河ドラマ史の伝説的場面として語り継がれています。この時勝新太郎さんは、55歳。『NHKアーカイブス』のページには当時の渡辺謙さんのインタビューが掲載されています。
時代劇の基礎中の基礎を全部たたき込まれたのが『独眼竜政宗』でした。歩き方、立ち居振る舞い、鎧の着方、キャラクターによって異なる刀の差し方など、あらゆるベースを教えていただきました。もちろん他の現場でも学ぶことはありますが、大河ドラマほど時間をかけて実践を学べる場所はほかにない。本当に良いチャンスに恵まれたと思いますし、その伝統はこれからも続いてほしいですね。
I:大河の伝統は繋がれるんですね。

●編集者A:書籍編集者。『べらぼう』をより楽しく視聴するためにドラマの内容から時代背景などまで網羅した『初めての大河ドラマ~べらぼう~蔦重栄華乃夢噺 歴史おもしろBOOK』などを編集。同書には、『娼妃地理記』、「辞闘戦新根(ことばたたかいあたらいいのね)」も掲載。「とんだ茶釜」「大木の切り口太いの根」「鯛の味噌吸」のキャラクターも掲載。
●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。猫が好きで、猫の浮世絵や猫神様のお札などを集めている。江戸時代創業の老舗和菓子屋などを巡り歩く。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり
