取材・文/池田充枝

日本刀の主要製作地(山城・大和・備前・相模・美濃)のうち、備前(岡山県南東部)は、上質な原料や水運の利に恵まれ、平安時代より優れた刀工を輩出し、圧倒的な生産量を誇ったことから、今日「刀剣王国」と称されています。

備前刀の特徴は、「腰反(こしぞ)り」の力強い姿と杢目(もくめ)を主体とした精緻な地鉄(ぢがね)に、「丁子乱(ちょうじみだ)れ」と呼ばれる変化に富んだ刀文とされています。その豪壮にして華やかな作風は、鎌倉武士や戦国武将をはじめ多くの人々を魅了してきました。

重要文化財 古備前高綱太刀 鎌倉時代(12~13世紀)  静嘉堂文庫美術館蔵

重要文化財 古備前高綱太刀 鎌倉時代(12~13世紀)  静嘉堂文庫美術館蔵

朱塗鞘打刀拵(古備前高綱太刀付属) 桃山時代(16世紀)  静嘉堂文庫美術館蔵

朱塗鞘打刀拵(古備前高綱太刀付属) 桃山時代(16世紀)  静嘉堂文庫美術館蔵

古備前と呼ばれる備前刀初期の刀工群から一文字・長船・畠田・吉井・鵜飼など備前刀各流派の作風の展開を見ることができる展覧会が開かれています。(6月13日まで)

本展は、「備前刀の宝庫」として知られる静嘉堂の蔵刀を中心に、重要文化財4振、重要美術品11振を含む在銘作32振を精選して展観します。併せて、江戸時代に幕府の御用をつとめた後藤家歴代とその門流(脇後藤)による刀装具も紹介します。さらに国宝「曜変天目(稲葉天目)」が特別出品されます。

重要文化財 嘉禎友成太刀 鎌倉時代・嘉禎3年(1237)  静嘉堂文庫美術館蔵

重要文化財 嘉禎友成太刀 鎌倉時代・嘉禎3年(1237)  静嘉堂文庫美術館蔵

本展の見どころを、静嘉堂文庫美術館の学芸員、山田正樹さんにうかがいました。

「本展第1の見どころは、出品される32振の備前刀がすべて貴重な在銘作品であること、つまり刀工の名前や作られた時代の分かるサインが彫り込まれていることです。また、重文に指定される高綱(たかつな)・行光(ゆきみつ)など現存稀有な古備前刀工の作をはじめ、それに続く一文字(いちもんじ)派、長船(おさふね)派の歴代、直宗(なおむね)派の備前三郎国宗(びぜんさぶろうくにむね)や畠田派、鵜飼派、吉井派など備前物を総覧するような系統だったコレクションを一挙に堪能できる展示になっています。

重要文化財 長船真長小太刀 鎌倉時代(12~13世紀)  静嘉堂文庫美術館蔵

重要文化財 長船真長小太刀 鎌倉時代(12~13世紀)  静嘉堂文庫美術館蔵

黒糸巻柄突兵拵(長船真長小太刀付属) 明治時代(19世紀)  静嘉堂文庫美術館蔵

黒糸巻柄突兵拵(長船真長小太刀付属) 明治時代(19世紀)  静嘉堂文庫美術館蔵

第2の見どころは、室町時代中期以来、幕末までの約400年間、17代にわたって時の権力者に重用され、武家の腰元を飾る金工品のなかで最高の格式をもつものとされた後藤家歴代の刀装具の特集です。後藤宗家の3代目、乗真の作品と考えられる「十二支図三所物(じゅうにしずみところもの)」は、目貫・笄・小柄のそれぞれ小さな画面の中に十二支の動物たちを美しく掘り込んだ、室町時代の「超絶技巧」と呼ぶにふさわしい作品です。この他、宗家歴代に加え、分家でありながら幕末に幕府や皇室の御用を勤め、斬新で洒脱なデザインの刀装具を生み出した後藤一乗の作品をご紹介します。

十二支図三所物 伝 後藤乗真 室町時代(16世紀)  静嘉堂文庫美術館蔵

十二支図三所物 伝 後藤乗真 室町時代(16世紀)  静嘉堂文庫美術館蔵

黄石公張良図鐔(表) 後藤 江戸時代(17世紀)  静嘉堂文庫美術館蔵

黄石公張良図鐔(表) 後藤 江戸時代(17世紀)  静嘉堂文庫美術館蔵

黄石公張良図鐔(裏) 後藤 江戸時代(17世紀)  静嘉堂文庫美術館蔵

黄石公張良図鐔(裏) 後藤 江戸時代(17世紀)  静嘉堂文庫美術館蔵

第3の見どころ、特別出品の国宝・曜変天目(「稲葉天目」)は、今回、自然光のもとでご鑑賞いただけるよう、当館の庭園を望むラウンジでの展示となります。朝・昼・夕方と変化していく曜変の景色をお楽しみいただけます。」

国宝 曜変天目 中国南宋時代(12~13世紀)  静嘉堂文庫美術館蔵

国宝 曜変天目 中国南宋時代(12~13世紀)  静嘉堂文庫美術館蔵

鍛え抜かれた刀身は長い年月を経ても、今なお静謐な光を放ちます。会場でじっくりご鑑賞ください。

【開催要項】
日本刀の華 備前刀
会期:2019年4月13日(土)~6月2日(日)
会場:静嘉堂文庫美術館
住所:東京都世田谷区岡本2-23-1
電話番号:03・5777・8600(ハローダイヤル)
http://www.seikado.or.jp
開館時間:10時から16時30分まで(入館は16時まで)
休館日:月曜日(ただし4月29日、5月6日は開館)、5月7日(火)

取材・文/池田充枝

 

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