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知っておくと便利! 日本美術の定番の画題を、作品を見ながら学ぶ。【企画展 はじめての古美術鑑賞―絵画のテーマ】

取材・文/藤田麻希

昨今の日本美術ブームで、美術館に出かけるかたは多いのではないでしょうか。何度か展覧会を見ていると、「この画題は他の絵でも見たことがある」「この人物はよく描かれているな」という定番の画題が目につくかもしれません。実は『日本美術』の教科書的な書物をめくっても、作家の略伝や流派の流れは述べられていても、意外と画題ごとには整理されていないものです。そんな日本美術の画題を、実際の作品を見ながら学べる絶好の展覧会「はじめての古美術鑑賞―絵画のテーマ」が、東京・根津美術館で開催されています。

この展覧会を担当した、根津美術館学芸課長の本田諭さんは次のように説明します。

「絵画の画題をテーマにした展覧会です。蓮と船の上の人物が描かれていたら、『周茂叔(しゅうもしゅく)』であるなど、描かれるものの組み合わせとテーマをキャプションに一行解説で提示しています。そればかりですと、教科書のような展覧会になってしまいますので、第一章:物語絵の世界、第二章:禅宗の人物画と神仙たち、第三章:中国の故事人物画、第四章:自然へのまなざし、という展示構成にして、ある程度、日本における画題の流れを追えるようにしています」

それでは展覧会で紹介されている画題をいくつかご紹介しましょう。

■雪玉遊びは「源氏」のしるし

平安時代、10世紀末~11世紀にかけて王朝文学が隆盛し、絵巻物などの絵画が描かれるようになりました。紫式部によって記された『源氏物語』は、成立後早くから絵画されました。とくに、国宝の『源氏物語絵巻』が有名ですが、ほかにも、色紙、扇子、掛幅、屏風、工芸などさまざまな形式で描かれるようになり、日本美術の定番の画題になりました。

源氏物語朝顔図(部分) 土佐光起筆 1幅 日本・江戸時代 17世紀 根津美術館蔵

源氏物語朝顔図(部分) 土佐光起筆 1幅 日本・江戸時代 17世紀 根津美術館蔵

江戸時代に描かれたこの掛幅は、源氏物語の第二十帖「朝顔」を描いたものです。光源氏の正妻の紫の上は、源氏が朝顔の君に熱をあげていることを知って嫉妬します。そんな紫の上の心を和ませるために、源氏は、童女が雪玉遊びをしている様子を眺めながら、紫の上と二人で語り合います。子どもの雪玉遊びと、男女二人が語り合っている姿が描かれていれば、「朝顔」の場面であることがわかります。

■笑顔に巻物は寒山(かんざん)、箒は拾得(じっとく)

寒山拾得図 雪村周継筆 2幅 日本・室町時代 16世紀 栃木県立博物館蔵

寒山拾得図 雪村周継筆 2幅 日本・室町時代 16世紀 栃木県立博物館蔵

寒山拾得図 雪村周継筆 2幅 日本・室町時代 16世紀 栃木県立博物館蔵

ボサボサ頭によれよれの着物、不気味な笑みを浮かべる乞食風の人物は、寒山と拾得です。二人は中国・唐時代に生きたと言われています。寒山は、天台山の国清寺に出没しては叫んだり歌ったりして騒ぎ、捉えようとする僧の手をかわしながら、寺の壁などに詩を書いていました。拾得は、国清寺に拾われて下働きをしながら、寒山に残飯を分けていました。詩を示す巻物と掃除道具の箒が、トレードマークです。そんな二人のことを養育した豊福禅師は、彼らのことを文殊菩薩と普賢菩薩の化身だと言ったそうです。禅宗では、このような超俗の人物を悟りに達したものだとして尊び、盛んに絵画化しました。

■名月と鶴は蘇東坡の名作

赤壁図屏風(びょうぶ)(右隻) 谷文晁筆 6曲1双 日本・江戸時代 19世紀 根津美術館蔵

赤壁図屏風(びょうぶ)(右隻) 谷文晁筆 6曲1双 日本・江戸時代 19世紀 根津美術館蔵

中国の詩に基づいた画題も多くあります。こちらは北宋時代の詩人・蘇東坡(蘇軾)の「赤壁賦(せきへきのふ)」という詩をテーマにしたものです。蘇東坡が、政治争いに巻き込まれて左遷され、三国志の古戦場である赤壁に下ったときの様子を表しています。断崖のふもとで船に乗りながら月を愛でていば「前赤壁賦」、船から川を渡る鶴を眺めていれば「後赤壁賦」を表しています。

■蓮を愛でる高士は周茂叔

重要美術品 周茂叔愛蓮図(部分) 伝小栗宗湛筆 1幅 日本・室町時代 15-16世紀 根津美術館蔵

重要美術品 周茂叔愛蓮図(部分) 伝小栗宗湛筆 1幅 日本・室町時代 15-16世紀 根津美術館蔵

蓮と男性の組み合わせは、蓮を君子の花として愛した北宋時代の文人・周茂叔を表しています。この絵の場合、少々わかりにくいのですが、船の下にある石ころのようにも見える楕円が蓮です。室町時代の知識人は、このような中国の故事をもとにした絵を床の間に掛けながら、彼の地への憧れをつのらせていたのでしょう。ちなみに、蓮だけでなく、梅、菊、蘭の花も、それぞれ、林和靖、陶淵明、黄山谷の詩人を象徴しています。中国風の絵でこれらの花を見たときは要注意です。

■実は野菜はめでたいテーマ

蔬菜図 啓孫筆 1幅  日本・室町時代 16世紀 根津美術館蔵

蔬菜図 啓孫筆 1幅  日本・室町時代 16世紀 根津美術館蔵

野菜や果物を描いた絵を「蔬菜図(そさいず)」と呼びます。一見すると単なる野菜を描いた静物画ですが、一本の蔓に多く実る茄子と、生命力の強い牛蒡で、豊穣と子孫繁栄を象徴しています。野菜は中国・宋時代から画題となり、日本でも中世以降に盛んに描かれました。水墨で描かれた本作は室町時代の作例ですが、江戸時代には、伊藤若冲も着色で「菜蟲譜」「糸瓜群虫図」など、多くの野菜を描いています。

■蟹と芦とで科挙合格=立身出世

蟹図(部分) 伝牧谿筆 1幅 中国・元~明時代 14世紀 根津美術館蔵

蟹図(部分) 伝牧谿筆 1幅 中国・元~明時代 14世紀 根津美術館蔵

中国で清時代末まで行なわれていた、官吏登用試験である科挙。その成績の上位三名を「第一甲、第二甲、第三甲」と「甲」の字を用いて表します。また、この三名を殿中で発表することを「伝臚(でんろ)」と言います。「第一甲」の「甲」が蟹の甲羅と通じ、「伝臚」の「臚」が「芦」の「ロ」と音が通じていることから、蟹と芦の組み合わせには、立身出世の意味がこめられるようになりました。

予備知識なしで、感じるままに作品を見るのも、美術鑑賞の一つのスタイルですが、ある程度の約束事を知っていると、日本美術はより楽しむことができます。この展覧会を機に、いくつかの画題を覚えてみるのはいかがでしょうか。

【企画展 はじめての古美術鑑賞―絵画のテーマ―】
■会期:2019年5月25日(土)~7月7日(日)
■会場:根津美術館
■住所:東京都港区南青山6-5-1
■電話番号:03-3400-2536
■美術館サイト:http://www.nezu-muse.or.jp/
■開室時間:10:00~17:00(入館は16:30まで)
■休館日:月曜日

取材・文/藤田麻希
美術ライター。明治学院大学大学院芸術学専攻修了。『美術手帖』などへの寄稿ほか、『日本美術全集』『超絶技巧!明治工芸の粋』『村上隆のスーパーフラット・コレクション』など展覧会図録や書籍の編集・執筆も担当。

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