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旅行

「長安」城壁散策から見えてくる悠久の歴史|遣隋使・遣唐使の足跡が残る中国・西安を旅する

写真・文/藪内成基

日が暮れる頃まで西安城壁には老若男女が集う

日が暮れる頃まで西安城壁には老若男女が集う

シルクロードの起点であり、隋や唐の都として栄えた長安(現在の西安)。はるか千年以上前、遣隋使・遣唐使として数多くの日本人が目指しました。百人一首に選ばれた「天の原 ふりさけみれば 春日なる 三笠の山に いでし月かも」と詠んだ阿倍仲麻呂(あべのなかまろ)や、真言宗を開いた空海に代表される日本人の足跡は今もなお西安に残っています。

一方で、新元号「令和(れいわ)」の発表で注目を浴びる『万葉集』が成立した奈良時代。都が置かれた平城京は唐の長安城を模倣したと考えられていますし、『万葉集』には遣隋使・遣唐使にちなんだ歌も選ばれています。つまり奈良時代や平安時代の日本には、長安との交流が大きな影響を及ぼしていたのでした。

阿倍仲麻呂や空海にとって困難な道のりであった西安へは、今日では成田空港や関西空港などから直行便が出ているほか、北京や上海から空路約2時間30分。西安市街地から北西約25kmに位置する、咸陽(かんよう)国際空港が起点となります。

秦の始皇帝(しこうてい)、唐の皇帝・玄宗(げんそう)と妻である楊貴妃(ようきひ)、唐を代表する詩人・李白(りはく)など西安ゆかりの有名人が目白押しで、訪ねたくなる史跡は数え切れません。その中で今回は、西安観光の中心である西安城壁を中心にご紹介させていただきます。

西安城壁南面の含光門に立つシルクロードをモチーフにした灯籠

西安城壁南面の含光門に立つシルクロードをモチーフにした灯籠

「世界三大墳墓」のひとつ秦始皇帝陵(世界遺産)などみどころが多い

「世界三大墳墓」のひとつ秦始皇帝陵(世界遺産)などみどころが多い

西安城壁上から見える歴史と大開発

西安の街は、日本人もたくさん行き交った唐代の長安城を基礎として、明代(1300年代)にレンガを積み重ねて作られた周囲14km、高さ12ⅿの城壁が市街地を囲んでいます。この城壁に登ってみると街の姿が一目瞭然。時刻を伝える役割を果たした「鐘楼(しょうろう)」と「鼓楼(ころう)」が街の中心に立ち、イスラム寺院「清真大寺(せいしんだいじ)」周辺にはおびただしい人の波が広がります。城壁南側には小説『西遊記』のモデルになった玄奘三蔵(三蔵法師)がインドから持ち帰った経典や仏像を保管するために造られた大雁塔(だいがんとう)も望むことができます。

古くからの面影を残しつつも城壁外には高層建造物が林立。地下鉄工事も進んでおり、ここ数年、毎年のように地下鉄路線が開通しています。駅ではなく路線ごと開通し、ガイドブックには載っていない地下鉄駅や路線が続々登場。おかげで観光しやすい状況に変化しています。西安を代表する観光名所「秦始皇兵馬俑(しんしこうへいばよう)博物館」へは西安市街地からバスで所要約1時間ですが、こちらも地下鉄工事が鋭意進行中です。

城壁外(写真右)には高層建造物が立ち並ぶ

城壁外(写真右)には高層建造物が立ち並ぶ

西安を代表する歴史遺産のひとつ鼓楼

西安を代表する歴史遺産のひとつ鼓楼

イスラム系料理店がひしめく清真大寺周辺

イスラム系料理店がひしめく清真大寺周辺

城壁は西安人にとって健康の源?

城壁を散策していると、日本の城とは異なった構造や防御機能が気になりますが、城壁の上下で思い思いに過ごすたくさんの人々の姿も印象的です。城壁上ではレンタサイクリングが楽しめ、若者や幼児連れのファミリーが気持ちよさそうに駆け抜けていますし、歴史好きな女性、いわゆる「歴女(れきじょ)」の姿が日本に比べ数的にも割合的にも目立ちます。一方、城壁下に目を移すと、城壁を取り囲むかのように集う地元の人々。シニア層が中心で、整備されたウォーキングコースを歩いたり、卓球で盛り上がったり、グループで歌を熱唱したり、井戸端会議に夢中になったり、孫をあやしたりと、城壁が西安の人々にとって、健康維持や交流の場として欠かせない機能を果たしていることに気づかされます。太陽の日射しさえ奪ってしまうPM2.5の悪影響を差し引いても、皆で集まってイキイキとしゃべり、楽しそうに運動している姿を目の当たりにすると、なんだかうらやましくなります。

サイクリング合間に城壁から外をのぞく親子

サイクリング合間に城壁から外をのぞく親子

城壁沿いでは卓球の真剣勝負が繰り広げられている

城壁沿いでは卓球の真剣勝負が繰り広げられている

食堂で味わう西安名物料理とキャッシュレスの波

城壁と同様、西安といえば西安料理。城壁東部の「永興坊美食街」には、西安が含まれる陝西省の料理が一堂に会します。日本でもおなじみの牛肉麺や、太麺の刀削麺が有名です。また刀削麺より太くベルトのように太い麺「裤带面(クータイミェン)」は西安料理ならでは。見た目の太さから想像できない、とろけるように柔らかい麺。酸味の効いたスープとの相性も抜群で、夢中になって食べてしまいます。次々と出会う西安料理の豊富な種類と味には驚かされますが、会計でも驚く場面に遭遇する可能性もあります。スマートフォン決済しか受け付けていない店舗が登場しており、近い将来、スマホ無しには目当ての料理が食べられなくなるかも知れないのです。注文ですら、スマホでQRコードをかざしてスマホ画面から行わなくてはならない店舗もあります。

裤带面は西安料理の代表格

裤带面は西安料理の代表格

食欲をそそる香辛料の匂いが充満する永興坊美食街

食欲をそそる香辛料の匂いが充満する永興坊美食街

以上、西安城壁の視点から古都・西安の魅力をご紹介しました。悠久の歴史遺産を大切にしつつも、経済発展を遂げている様子がよく分かります。そして何より、西安に住む人々が会話を楽しんだり身体を動かしたりする、コミュニティの場として機能していることも浮かび上がってきます。目的は違うものの、今も昔も西安にとって城壁は欠かせない存在。西安城壁はぜひ実際に散策されることをおすすめします。
(2019年2月下旬取材)

写真・文/藪内成基
奈良県出身。国内・海外で年間100以上の城を訪ね、「城と旅」をテーマに執筆・撮影。主に「城びと」(東北新社)へ記事を寄稿。異業種とコラボし、城を楽しむ体験プログラムを実施している。

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